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#小説 記事まとめ

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2020年3月の記事一覧

ちょっとばかし新宿二丁目の話をしませんか?

「新宿二丁目」という言葉を目にしたとき、あなたは何を思い浮かべますか?  雑居ビルに潜むゲイバー?  オネエ言葉を操る毒舌のオカマ?  ハッテン場で人目を盗んで情交を結ぶ男たち? ネオン煌めくゲイの繁華街?  これまでの文学作品において「新宿二丁目」という場所が登場すると、おおむねそういうイメージになるかもしれません。そんな固定観念も部分的には真実でしょう。  あなたは新宿二丁目に行ったことがあるかもしれませんし、ないかもしれません。どちらにしても、0.1平方キロメートル

あのこだけ今晩は(2020字)

 いつものように詰め替え用シャンプーを買おうとして、やめた。詰め替え作業を想像しただけで気が滅入ってしまったのだ。新品のボトルシャンプーを買う。気分は晴れやか。しかし生活とは、このような細部から破綻するものと相場が決まっている。帰宅した私は自分をいましめるために冷水のシャワーを浴び、凍え、髪は洗わず、スキンケアを怠り、夕食も抜いた。泣きながら寝た。  翌朝、アルバイトに向かう前にビッグマックを2つも食べた。ビッグマックを2つ連続で食べた経験がおありだろうか? 2つめはハンバ

終電に生かされた僕は、始発電車で死を選ぶ。【短編小説】

死のうと思っていた。 終電間際の電車を自宅の最寄駅でおりたぼくは、もう用のないプラットフォームにあるベンチへ腰をおろす。 ぼくの背面にもうひとつベンチがある。そこに座っているひとりと、ぼくだけしかいない駅のホームは、しんとした静けさを保ちながら最終電車の到着を待ち構えていた。 最終電車に飛び込み、ぼくは死ぬ。そう決めたのは、今日会社を出たときのこと。 日中は春がきたのかと思わせられる日差しに体を暖められたが、夜が深くなった今はそのことが虚構であったように寒い。

青色のコンビニで恋をした。3.11

コンビニ深夜勤のバイトの子に恋をしている。 はじめは彼女を見ているだけでよかった。遠くから想うだけで僕は幸せな気持ちに包まれていた。 今では、レジで商品を受け渡すほんの少しの時間だけ言葉を交えるようになった。 でも、基本スタンスは変わらない。 この気持ちを彼女に知られたら、簡単に終わってしまう恋だと僕はよくわかっている。 それは、小さな灯りなのだ。 二人のための透明な砂時計は、静かに時を進めてゆく。   ◇◇◇  3月11日 今日は出勤前にコンビニへ寄ってみた。