「私の身体が目当てだったのね」
的な発言ができるほど、自分の身体に価値があるとは思えていないので、若い頃から勘違いすることなく歳を重ねた。
自分に対し性欲を抱いてくれる人には、それだけでもう感謝していた。
自己肯定感が低いわけではない。
ただ、こと容姿に関しては、自惚れることなく生きてきたため、欲情してもらえるだけでありがたいと思うようになっていた。
だからといって誰彼構わず寝てきたわけではないんだが。
閉業前の店に集まった人々と呑み明かした朝6時過ぎ。
よく舞台を目にしていた演者と、たまたま初めて2人きりで話す場面になった。
色恋の話になり、界隈では誰にも伝えていなかった自身のことを話したところ、「僕と遊んでくれませんか」と誘われた。
「前から綺麗だと思っていました」と。
そんなリップサービスなんざしてくれんでいいのに、一応、礼儀だとでも思ったんだろう。
連絡先を交換し、周囲に隠れ濃厚なキスをして別れた。
向こうは別れた彼女と今も暮らしている。
同棲を解消するための金がないからだ。
相手は今も彼に惚れているようだが、自分にはもはや情しかないのだという。
しかし身体の関係はあるらしい。
その日も2回セックスをしてきたものの、初めて違和感を覚えたそうだ。
致せてるだけええやんけ、と内心思ったが、そこまで話せる状況ではなかった。
恋人とのセックスレスまでは伝えていない。
ほかにも2人、遊んでいる相手がいるらしいが、いずれも独り身らしい。
そこは「独り身には手を出さない」とする自分とは考えが違うと話した。
あらかじめ付き合えないことは伝えているようだが、向こうが恋心を抱いているならその条件を呑むしかないからだ。
やはりフェアじゃない。
こちらも同棲しているため、場所の問題があるものの、年明けそう遅くないタイミングでセックスするんだろうなと思う。
来年はもう、いよいよ五十路だ。
まさか誘ってこられるとは夢にも思っていなかったので、15歳も上の年寄りに対する好奇心なのかもしらんが、性の対象として見てくれることをありがたく感じている。
彼は恋人の後輩だ。
もちろん私と恋人が付き合っていることなど知るよしもない。
恋人とセックスレスになっていなかったら、さすがに拒否していたから、これもタイミングなんやろな、と他人事のように思う。