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学びを深める「ID美学第一原理」: 効果的な学習支援のための5つの視点

今回は、学びを支援するための独自の考え方、「ID美学第一原理」をご紹介します。このモデルは、パリッシュがインストラクショナルデザインにおける美学的な検討の欠如に警鐘を鳴らし、「学習者が没入できない設計が、効果を発揮しにくくしている」と指摘したことから生まれました。単に情報を提供するのではなく、学習体験そのものをデザインし、学びに引き込むための工夫を目指したものです。


「ID美学第一原理」

具体的には、以下の5つの視点から学習体験の構築が提案されています。


1. 学習経験には筋書き(プロット)がある

物語のように、学習には「はじめ・中ごろ・おわり」の構成があり、学習の流れに沿ったストーリー性があると効果的です。学びを段階的に進めることで、学習者が次のステップへの期待感を持ちながら没入できるように設計します。まるで物語の主人公が冒険を進めるように、学習体験を進める工夫がポイントです。

2. 学習者は自分の学習経験の主人公である

学習者が「自分の物語」を生きている感覚を持てると、学びは一層深まります。教員や指導者は脇役に徹し、学習者自身が主体的に動き、意思決定する場面を用意することで、より積極的に学習に取り組むよう促します。自らの役割を演じるように学習に取り組むことで、学びへの意欲が高まります。

3. 学習活動がテーマを設定する

「何を学ぶか」を設定するのは教科書ではなく、学習そのものがテーマを定義します。つまり、実際に学習活動を行う中で、学びの意義やテーマが明確になっていくのです。このアプローチにより、学びが実生活や実務に結びつきやすくなり、理解が一層深まることが期待されます。

4. 文脈が教育場面への没入感に貢献する

学習は、その内容だけでなく、学ぶ環境や状況が与える影響も大きいものです。適切な文脈やシチュエーションを整えることで、学習者はその場に入り込みやすくなります。例えば、実務をイメージしやすいようにリアルなシナリオを用意したり、実際の業務に近い場面で学びの場を設けたりすることで、自然に学びに引き込むことができます。

5. インストラクターとインストラクショナルデザイナーは「作者」「助演者」「モデル」

学習を支えるインストラクターやインストラクショナルデザイナーは、学習者の「舞台」を整え、学びをサポートする役割を担います。「主人公のモデル」として理想の姿を示しながら、学習者が前進できるように舞台を作り、必要に応じてサポートに回ることが求められます。この視点からも、指導者はあくまで学習者が主役であることを忘れずに接することが重要です。


つまらない指導がもたらす弊害と、没入感のある学習の効果

ついつい「まじめな指導」に偏りがちな学習現場では、つまらない、飽きがちな指導方法が採られやすい傾向があります。しかし、学習者が本当に没入できるような体験型の学びの場が提供されれば、学習効果は飛躍的に向上するはずです。

もちろん、「ふざける」ことを推奨するわけではありませんが、ユーモアや遊び心を取り入れたり、現実感を感じられるシナリオを用意したりすることで、学びに引き込まれる環境を整えるのは大切です。いわば、学習者が舞台の中央でスポットライトを浴び、活き活きと学べる環境が必要なのです。

引用:鈴木・根本「教育設計についての3つの第一原理の誕生をめぐって」より


OJTでの応用:新人にどんな「舞台」を用意できるか?

この考え方は、職場でのOJT(On-the-Job Training)にも応用できます。先輩社員として、新人が主体的に業務を学び、成長できるようにどのような「舞台」を用意してあげられるでしょうか?

例えば、業務の目的や背景を伝えるだけでなく、あえて「自分ならどうするか?」と考えさせるシナリオを作ると、新人もただ作業をこなすのではなく、主体的に仕事に取り組むようになります。また、フィードバックはただ「よかった」「悪かった」だけではなく、「次回はどうすればもっと効果的か?」と問いかけ、自己成長の機会を与えることが大切です。こうしたアプローチによって、新人は自身の物語を紡ぎながら成長していけるのです。

終わりに

ID美学第一原理は、学びのデザインに美学を取り入れることで、学習者が自らの学びに没入し、成長する場を作り出すという考え方です。学びに「筋書き」を持たせ、学習者が主役となり、リアルな文脈で学べるようにすることは、単なる情報提供以上の深い学びを可能にします。

職場でも「どんな舞台を用意してあげられるか?」を意識しながら、学びのデザインに工夫を凝らしてみませんか?きっと、新人が自ら考え行動する力を引き出し、共に成長する職場環境が築かれることでしょう。

(この記事は、2020年8月21日にオフィスKojoのメルマガ「KOJO井戸端会議」に掲載したものを再編集したものです。)

※この記事は、弊社のメルマガ「KOJO井戸端会議」の過去の記事からピックアップし、note用に再編集したものです。
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