ドラマの脚本翻訳——第一話の難しさ
なんでも最初は大変ですが、ドラマの脚本翻訳も一話が一番難しい。
全六話のドラマでも脚本翻訳のスタート時点で渡されるのは第一話の脚本だけ、というのはよくある話。日本語脚本の使われ方はプロジェクトによって違うため、翻訳がスタートするタイミングもさまざまですが、一話ずつ、脚本家が書きあげたそばから翻訳に回ってくるケースも少なくありません。
本の翻訳だったら結末まで読んでから取りかかるところですが、第一話しかない脚本を訳すのは一章しか書かれていない未完の本を訳すようなもの。手探りで、慎重に進みます。
大まかなあらすじや主要キャラクターの人物像など、基本情報がわかる資料は事前にもらっているので、まったくの五里霧中というわけではありませんが、それでも前方(第二話以降)がぼんやりとしか見えない状態で進んでいくのはなかなか怖いもの。
特に悩ましいのは、伏線かもしれない意味ありげなセリフや、事前資料に詳しい説明がない脇役のキャラクター。伏線なら伏線としてキーワードを活かすような訳し方をしたいのですが、はたしてそれが本当に伏線なのか、先を読んで確かめることはできません。またキャラクターの一人称や他者に対する呼びかけ方、口調は、人物像がわからないと訳しにくいものですが、出番もセリフも少ない脇役は判断材料が限られています(一話かぎりの登場ならいいが、今後再登場しそうな雰囲気を漂わせている脇役だと厄介)。
そこで目を皿のようにして目の前のテキストを読み、拾えるかぎりの情報を拾い、勘も働かせて(あてずっぽうの山勘ではなく、今までの人生で摂取してきた物語のパターンから推測するという感じ)、なんとかベストと思える訳を出すわけですが…
脚本は基本的に何度も書き直されるもの。
初稿のとき悩みに悩んで訳したセリフが、第二稿ではバッサリ削られているというのも、よくある話だったりします(悲)。