脚本翻訳という仕事
脚本翻訳と書いてある名刺を渡すと、不思議そうな顔をされることもしばしば。「戯曲の翻訳ですか?」とか「吹替翻訳ですか?」と聞かれることもあるけれど、私の仕事はそのどちらでもありません。
私が訳しているのは、映画やドラマやアニメの脚本です。名前を出せる作品でいうと『SHOGUN 将軍』『Pachinko パチンコ』。ひとことで言うなら、撮影が始まる前の英語脚本を日本語に訳す仕事をしています。
なぜ撮影前の脚本を訳すニーズがあるのか、脚本翻訳者とはどういう立ち位置の仕事なのか… 名刺には書ききれないことを、こちらに書いてみようと思います。
脚本翻訳のニーズ
ざっくり二つ。
①海外制作の作品に日本語話者が関わるケース
②日本のコンテンツが海外で映像化されるケース
①はたとえば、アメリカで作られるドラマに日本語話者の俳優が出演するケース。日本語脚本を必要とするのは俳優をはじめとする日本側のキャストやスタッフです。たとえ全編英語セリフの作品であっても、日本語で内容を把握しておきたいというニーズがあります。
②は、たとえば日本のマンガが海外で映像化されるケース。日本語脚本を必要とするのは原作のコンテンツホルダーです。自分たちが産み育ててきたコンテンツを守るために、脚本の内容を日本語で精査したいというニーズがあります。
脚本翻訳者の立ち位置
私はロマンス小説の翻訳者でもありますが、小説はそれ自体が完成品なので、読者という最終消費者に日本語版の完成品を届けるために仕事をします。
一方、脚本は完成品ではありません。完成品を作るために作り手側が必要とするもの、つまり内部資料です。脚本という資料は基本的に何度も書き直されるものであり、話し合いのベースとして叩き台のように使われたりもします。実際に撮影現場で使われる前に、さまざまな理由でさまざまな後工程が入ることもあります。
ですから翻訳者としては後工程をかなり意識し、次の走者にうまくバトンを渡せるように仕事をします。どんな後工程が入るかは作品によって違うので、どうすれば「うまくバトンを渡せる」かはそのたびごとに変わりますが、たとえば日本語セリフをブラッシュアップする脚本家が入る場合は、その脚本家がやりやすい状態で渡したい…というようなことを考えます。
というわけで、私は脚本翻訳者は制作チームの一員、現場に行かない裏方のような立ち位置にいると思っています(そんな気持ちで仕事をしています、というだけの勝手な思い込みですが)。
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