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大丈夫?オンライン大学祭の音楽著作権

 本記事の情報は2020年9月現在の情報です。
こんにちは。
皆さん、大学といえばどのような思い出がありますか?単位を落とさないために奔走した思い出、様々な知識を身に付けた思い出、サークルに打ち込んだ思い出、様々な思い出を思い浮かべることでしょう。大学における一大イベントとして大学祭があります。大学祭では各サークルが出店する模擬店のほかステージが運営されることも多いと思います。
大学祭のステージでは有志が歌を歌ったり、吹奏楽サークルの演奏があったり、音楽に合わせてパフォーマンスを披露する人たちがいたり、様々な団体・サークル・個人が出演します。
さて、これらの出演者たちは出演に当たって、「音楽」を利用しています。「音楽」には原則「著作権」が存在します。大学祭のステージにおいて「音楽」を利用する行為は著作権厳守の視点から見た時大丈夫なのでしょうか?そして、今年は新型コロナウイルス流行によりインターネット上で大学祭を実施する「オンライン大学祭」の開催を決定した大学もあるようです。愛知県では10大学がオンライン大学祭の開催を発表しています。「オンライン大学祭」を著作権法から見た場合、どのようなところに気をつけなければならないのでしょうか?この記事はオンライン大学祭で気をつけなければならない音楽著作権についてわかりにくく解説する・・・・そんな記事です。


第1章 学校の敷地内で行われる大学祭

通常の大学祭。無料で観覧することができるステージでは、様々な形で音楽が利用されています。下記のような事例があるとしましょう。
①CDの音楽に合わせてダンスを披露する
②歌手の歌をアマチュア歌手が歌唱(カバー)する
③有名アイドルグループの音楽を演奏する

さて、上記の中で著作権で定められた著作者の権利を侵害してしまうものはどれでしょうか?(出演者に出演料などの報酬は支払われないものとします)

結論から言うと上記の①〜③いずれの事例も著作権法に抵触しないものと考えられます。
何故、著作権法に抵触しないのでしょうか?それは著作権法第38条1項において、著作権者の権利が制限されているからです。著作権法第38条1項は次の様な条文です。

公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。


著作権法第38条一項をわかりやすくまとめると
①(利用しようとしている楽曲が)既に公表されているものである
②営利を目的としない
③観客から料金を徴収しない
④出演する団体や個人に対して報酬授与が発生しない
上記4条件を全て満たしていれば、著作者の許諾なく楽曲を利用できるということです。

さきほど、
①CDの音楽に合わせてダンスを披露する
②歌手の歌をアマチュア歌手が歌唱(カバー)する
③有名アイドルグループの音楽を演奏する
この3つの事例を挙げましたが、①〜③いずれの行為も著作権法38条1項で定められている4条件を満たしています。したがって、通常の大学祭で①〜③の行為をやる場合、著作権者の許諾は必要ないということになります。

尚、CDに大きく関わってくる権利として原盤権があります。原盤権は著作隣接権の1つで、音源を作成した団体や個人が所有する権利(CDの場合、レコード会社が保有していることが多い)です。大学祭をオンライン配信する場合、この原盤権が大きく関わってきますが、通常時の大学祭であれば原盤権はあまり意識しなくてもいい権利なのでここでは割愛します。
次は今話題のオンライン大学祭についてです。学校内で開催される大学祭であれば著作権法第38条1項の効力により著作権者の許諾が不必要であることがわかりました。それでは、オンライン大学祭ではどのようになるのでしょうか?

⚠️著作者の許諾が不必要なのはあくまでその楽曲を何も改変せずに使用する場合のみです。通常時の大学祭であっても、楽曲を編曲する(例:「アンパンマンのマーチ」を短調に改変する)、替歌を作る(例:「ようかい体操第一」の歌詞を基にして替歌を作る)などの場合は原則的に著作権者の許諾が必要になります。

第2章 オンライン大学祭

さて、次はオンライン大学祭の場合です。ここでいうオンライン大学祭とは非営利且つ無料で閲覧可能で、出演者に報酬が支払われないものを指します。オンライン大学祭の場合、残念ながら著作権法第38条1項だけではカバーできません。オンライン大学祭は「インターネット上での配信」行為です。ここでもう一度著作権法第38条1項を引用します。

公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

著作権法第38条1項で、著作権者に許諾を取らなくても実行できる行為は「上演」「演奏」「上映」「口述」のみで、「配信」(公衆送信)は含まれていません。それ故に、オンライン大学祭において著作権が存在する楽曲を利用する際は原則的に著作権者の許諾が必要です。
著作権者の許諾なしでオンラインで楽曲を配信すると著作権法第23条1項で定められている公衆送信権を侵害することになります。著作権法23条1項は次の様な条文です。

著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。

公衆送信(インターネット上での配信含む)は著作者が占有する権利です。したがって、著作者以外が勝手に楽曲を配信することは権利侵害になってしまうのです。

ここまでの内容をまとめると、原則的にオンライン大学祭をするには著作権者の許諾が必要と言うことです。しかし、実はオンライン大学祭を開催する際に利用する配信サービスによっては、著作権者の許諾なしで楽曲を利用することが可能です。それでは、一体どのような時に著作権者の許諾なしで他者が権利を保有する楽曲を含む動画を配信(アップロード)することができるのでしょうか?次章で解説します。

第2章1項 オンライン大学祭で著作者の許諾が必要ないのはどんな時?

この章で重要なのが「JASRAC」や「NexTone」の存在です。これらの団体は著作権者が持つ権利を管理している団体(著作権管理団体)です。

ジャスラック

図1 著作権管理団体とは
JASRACやNexToneといった著作権管理団体は大手動画共有サイトなど(例:Youtube)と「包括契約」を締結しています。

包括契約

図2 包括契約の概説図
著作権管理団体と包括契約を締結しているサービスでオンライン大学祭を実施する場合、私たちは著作権者の許諾なしで、著作権管理団体によって管理されている楽曲が含まれる動画をアップロードすることができます。それを踏まえて最初に挙げた3事例をみてみましょう。
①CDの音楽に合わせてダンスを披露する
②歌手の歌をアマチュア歌手が歌唱(カバー)する
③有名アイドルグループの音楽を演奏する
Youtubeでオンライン大学祭を実施する場合、③の事例であれば著作権者の許諾を取らなくても楽曲を利用することができます。②の事例でも、楽曲をカバーする際に使うと思われるカラオケ音源が自作したものであれば、著作権者の許諾を取らなくても楽曲を利用することができます。

⚠️この時、著作権者に許諾なく楽曲が利用できるのは、著作権管理団体が著作権のうち「配信」に関する権利を管理している場合です。著作権管理団体がその楽曲のどの分野を管理しているのかはJASRAC又はNextoneのデータベースで確認可能です。一部の記事や動画には「JASRACやNextoneのデータベースでヒットすれば楽曲をYoutubeで自由に利用できる」というニュアンスことが書かれていることがあります。しかし、実際は著作権管理団体が「配信」に関する権利を管理している場合に限りその楽曲をYoutubeなどで利用することができます。著作権管理団体が「配信」に関する権利を管理していない、そもそもその楽曲を著作権管理団体が管理していない場合は著作権者の許諾が必要になります。また、オンライン大学祭のように法人や団体が主催するイベントにおいて外国曲を利用し、且つ配信動画をアーカイブとして残す場合、複製権に基づく手続き(ビデオグラムへの録音)をJASRACで行う必要があるようです。

さて、②③の場合はYoutubeなど著作権管理団体と包括契約を締結しているサービスであれば著作権者の許諾が不要だと言うことがわかりました。それでは①CDの音楽に合わせてダンスを披露する場合はどうでしょう。
①の場合、許諾が必要な場合があります。ここで重要なのが第1章で少しだけ触れた原盤権です。

第2章2項 「原盤権」とは

①の場合、許諾が必要な場合があると説明しました。一体、誰の許諾が必要になるのでしょうか?
正解はCD音源を作成した人の許諾です。CD等の音源を作成した団体・個人には著作隣接権の1つである原盤権(=レコード製作者の権利)という権利が発生します。
原盤権は具体的には下記の4つの権利から構成されています。
①複製権・・・そのレコードを複製する権利
②送信可能化権・・・インターネットなどで著作物を自動的に公衆に送信し得る状態に置く権利。
③譲渡権・・・そのレコードの複製物を公衆に譲渡する権利。
④貸与件等・・・商業用レコードを貸与する権利。

オンライン大学祭に大きく関与するのは②の「送信可能化権」であると考えられます。動画が公衆に閲覧できる様にするには予め動画を動画共有サービス(例:Youtube)などのサーバにアップロードしておく必要があります。この行為が「送信可能化」です。すなわち、音源作成者の許諾なしに当該音源が含まれる動画をサーバ上にアップロードした時点で、原盤権保有者の持つ「送信可能化権」を侵害することになってしまうのです。
CD音源など他人が作成した音源をオンライン大学祭で用いる際はその音源作成者の許諾を取らなければなりません。

第2章のまとめ
①オンライン大学祭で自分が著作権を保有していない楽曲を利用する場合、原則的に著作権者の許諾が必要。但し、その楽曲の著作権のうち「配信」分野がJASRACなどの著作権管理団体によって管理されていて、且つオンライン大学祭で利用するサービスが著作権管理団体と包括契約を締結している場合は著作権者への許諾確認は不要。
②但し、その楽曲が外国曲で、且つ配信動画をアーカイブとして残す場合、JASRACで複製権に基づく手続き(ビデオグラムへの録音)を行う必要がある。

③また、CDなど他者が作成した音源を利用する場合は音源の作成者(CDの場合、レコード会社が権利を保有していることが多い)の許諾が必要。

ここまでで、概ね音楽著作権の処理にどのような手続きが必要であるのかを説明しました。ここまで「原盤権保有者の許諾が必要」等必要な手続きについて淡々と記述してきました。しかしながら、実際には権利者から許諾を得ることが難しかったり、高額な楽曲使用料(使用料がウン万円になるなんてことも・・・)が必要となったりすることことも多いようです。大学祭は限られた予算で運営されるため、費用負担削減は重要な課題です。それでは、少しでも費用負担を軽減するためにはどうすればいいのでしょうか?

第3章:費用負担軽減の策

第3章では費用負担を軽減するための方法を紹介します。
この先は費用負担軽減策及びその他注意事項を掲載しています。

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2016年頃から廃墟に関心を寄せる。2018年、実際に廃墟へと趣き、廃墟訪問にハマる。現在はその廃墟がかつてどのように使われていたのか、いつ頃廃墟になったのかを特定することに力を注ぐ。 地域・店舗限定のエナジードリンクを見つけることにもハマっている。自他共に認めるエナドリ中毒者。