もう二度と訪れない、あの日の幻影を追い求めて格ゲーを買っている
確か SEGA SATURN の ザ・キング・オブ・ファイターズ だったと思う。拡張 RAM に差し替えて NEOGEO CD と比べたら爆速に動くそれを友達と遊んでた。
あるいは SUPER Famicom の Street Fighter II だったか。昇龍拳が当たるだけでそれはとても大変なことだったし、試合の最初っから最後まで、左右のリュウとケンがずっと波動拳撃って相殺合戦したりしてた。LとRに中攻撃を振り分けるか強攻撃を振り分けるか悩んだりしてた。
時代が過ぎて自分も自由に使えるお金が増えて、もうちょっといろんな事に余裕が出てくると Dreamcast にアーケードコントローラーも準備したりして CAPCOM VS. SNK 2 やら 3rd STRIKE やらやってた。あるいはその当時には第三勢力みたいに思ってた GUILTY GEAR X だったり。このときもまだまだおうちの中で友達と遊んでいた。
要は友達と遊ぶためのツールだった。あの頃は本当によかった。何も難しいことを考えずに取説を横に置いてコマンドを確認しながら色んなキャラを使ってみたり、対戦だけじゃなくてアーケードモードあるいはストーリーモードで勝てない CPU 相手に交代交代で遊んだりしてた。あの頃は本当によかった。
つまり、友達を呼んで一緒に部屋で遊べると言う体験が非常によかった。
今はもう、そんな友達は近くにおらず、身の回りでは無邪気に格ゲーで遊ぶなんてことを誰もやらなくなってしまった。
ネットに繋げば常に一期一会で、顔も正体も何も知らない、記憶に残らない相手との対戦が自動的に始まる。言葉を交わすこともないまま、もしかすると僕は知らないうちに相手へストレスを与え続け、そしてその場で処理できない攻撃を受ければ自分がストレスを溜めて、数戦遊んで精神的に疲弊した結果得ることができるのはわずかなランクポイントだけ。
相手の飛び込みにちゃんと対空が出せていたか、ドライブラッシュは返せていたか、確定するところではしっかりドライブインパクトを出せていたか返せていたか、パニッシュカウンターやらスタンの後にはちゃんと最大コンボを出せていたか、リーサル判断をしっかりして確実にラウンドを取れていたか、ドライブゲージを無駄に余らせることはなかったか、無茶してバーンアウトすることはなかったか SA ゲージは効率よく回せていたか……そんな軸でしか自分を肯定して楽しむことができない。そこに、お前の隣にはあのときの友人は座っていないのだから。
たぶん Steam で Ultra Street Fighter IV が出たあたりだったか、あるいは Xbox 360 だったか。オンラインで対戦することが当たり前になり、インターネットの回線というのは奇跡のような繋がりでできていることを当然のように思いながら LAN ケーブルを挿せば常に 16.67ms 以内に ping が返ってくる気持ちになって無線接続が忌々しく思われるようになっていったあたりか。
子供の頃雑に夢見た「通信機能が発達していけば世界中の誰とでも一緒に遊べる」時代の結末はこれだった。一緒に遊べはするがそこに友達はいない。勝ちを求めることが、ポイントを上げることが、ランキングを競うことが、正しい格ゲーをすることが模範的なゴールとなった世界だった。
何度も何度も諦めきれない事実。楽しいのは格ゲーではなくて、友達と遊ぶことだった。PC さえ、格ゲーさえ、コントローラさえ準備すれば、また昔のように楽しい時間で夢中になれると思いたかった。それを望んでクレカからお金を流していた。
僕は、もう二度と訪れない、あの日の幻影を追い求めて格ゲーを買っている。そしてその都度、あの日の友達がどこにも居ないことに丁寧に失望してコントローラを押し入れに戻している。