
映画感想「I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ」──もう一度「I Like Movies」と言うために、映画と向き合う映画だった
映画が好きな人を描いた映画は数多く存在する。
本作がそれらと異なるのは、主人公の在り方にある。
彼は映画が好きだからこそ「おかしな行動」を取ってしまい、そのせいで周囲と関係を築けていない。
映画好きであることが、彼の人生に良い影響を与えていないのだ。
ここで「おかしな行動」と表現したのは、それこそが喜劇の本質だからである。
なぜ観客は喜劇を喜劇として楽しめるのか。
それは主人公の行動が突飛であり、その結果、彼と周囲の関係が常識では考えられないものになっていくからだ。
我々映画ファンは、これまでに数多くの作品でそのような主人公を見て笑ってきた。
しかし、本作の主人公が取る「おかしな行動」は、観客と本作が共有している“映画”そのものが引き起こしている。
この点こそが、本作のもう一つの特徴である“メタ構造”を観客に意識させる要素となっている。
果たして、この主人公を我々は笑いものにしていいのか、ただ消費していいのか——。
作中では、彼がこれまで行ってきた行動の背景が垣間見えるエピソードが紹介される。
同時に、主要人物の一人であるレンタルショップの店長が、若い頃に体験したハリウッドの悪しき慣習——ほぼ性犯罪と言ってもいい出来事——も描かれる。
つまり、主人公と店長は“消費されてしまった”存在なのである。
この視点こそが、本作を特徴づけている。
それを象徴するのが、本作の主要な舞台であるレンタルビデオショップの店名「シークエル(Sequel)」だ。“後日譚”や“続編”を意味するこの言葉である。また、おとぎ話をメタ的に描いた映画『シュレック』が作中で取り上げられることは示唆的である。映画の登場人物はまさに生きていることを観客に教えている。主人公が『シュレック』に似ているのも、偶然ではないだろう。
この映画は、我々映画ファンが『I like movies』と胸を張って言うために、映画との関係を見直し、そして最後で主人公と店長が行った食事のシーンのように、映画と真摯に向き合うことを促す作品だったと言えるだろう。