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ゲーム業界で働く兼業作家の、20代の終わり。

8期生の宮本真生(みやもと まうい)氏は株式会社セガのシナリオプランナーであり、小説や脚本の新人賞に多くの投稿歴がある作家でもある。学生の頃は「ジム通いしていて体格がよく、平気で野宿している」という肉体派の印象が強かった彼が、いかにして文学青年の道をたどることになったのか。その足跡について伺いました。 6期生 鍵田(かぎた)


こそこそ小説を書いていた大学時代。

鍵田:
小説は今も書いてるの?

宮本:
「JUMP j BOOKS(ジャンプ ジェイ ブックス)」っていうレーベルの電子書籍で短編を書いたりはしてますけど、最近は映像のシナリオが多かったんです。去年、第22回「テレビ朝日新人シナリオ大賞」で優秀賞をいただいたので。

鍵田:
いわゆる文字モノの新人作家さんの動きをしてる、と。

宮本:
はい、サラリーマンをしながら。賞金とか原稿料をいただけるとありがたいですし。

鍵田:
会社は副業OKなの?

宮本:
申請しておくと企業名を出しながらの活動も認められます。むしろ推奨されてる感じかもしれないですね。要は我々、クリエイターなので内部からでも外部からでも名前が売れていけば会社的にはおいしい、という。

鍵田:
学生の時から書いてたよね? 初受賞はいつだっけ。

宮本:
大学3年生の時ですね。ファンタジージャンルのライトノベルを書いてました。いずれは漫画のノベライズをやりたいと思っていて。ただ『ワンピース』とか『ジョジョの奇妙な冒険』の小説となると競争率が高いんです。実際、『ワンピース』の小説を書いてみたいと思わないですか?

鍵田:
いや思わないというか、それあんまり共感性ないと思う(笑)。直近だと映像のシナリオを書いてるんだよね?

宮本:
年齢が上がるにつれて作風というか、書きたいものが変わりますね。最近は実写ドラマをよく観るようになったので、書くのもそうなってきてます。ドラマの脚本だと企画がまずあって、プロデューサーを通じてプロット(あらすじ)の募集がかかるのでそれに応募して…という流れです。すでに長くやっているドラマシリーズの続きを書くこともありますし。

鍵田:
ちなみに「テレビ朝日新人シナリオ大賞」向けにはどういう作品を?

宮本:
「家族」というテーマに応募したんですが、ゲーム会社を舞台にしつつ、子供が作ったゲームを親が売る、という設定で書きました。

こちらから読めます!


ドラマ11月号(2022)

ゲームディレクターとして、海外へ。

鍵田:
これまで途切れなくずっと書いてきたの?

宮本:
あまり書けない時期もありました。前職(バンダイナムコ)で東南アジアに海外出張してた時とかですね。ゲームセンターに置かれる『湾岸ミッドナイト』の筐体ゲームのディレクターをやってました。車のレースゲームなんですが、原作に触れてない現地の人にはレース中に入るキャラの会話の意味が伝わらなかったりして、大変でした(笑)。

鍵田:
たしかに! プレイしたことあるけど、原作を知ってる前提でセリフが放り込まれるもんね。関係性とかの説明もないし、ローカライズする時にはそれが純粋に翻訳される…と。音声は現地の声優さんに依頼するの?

バンダイナムコ時代の仕事ぶりはこちら!

宮本:
いや、あれ声は入ってないんですよ。

鍵田:
そうだっけ? あると思い込んでた…。

宮本:
かえってうれしい感想ですね(笑)。それだけ臨場感を作れてたってことですし、声なくて正解だったという。ちなみに海外って基本的にゲーセン文化がないんですよ。ギリギリ、アジア圏だと通用するんですが。カンボジアとかベトナムとか。

鍵田:
たしかに日本発だといろんな文化がアジアから出ないよね。

宮本:
たとえばカンボジアにはイオンモールがあるんです。低めの建物が並ぶ地域に、唐突にイオンがドーンとある風景で、それがおもしろくて。そういうところにしかゲーセンはないんです。

鍵田:
建物自体は日本のイオンと同じなの?

宮本:
変わらないですね。バイクを置く駐輪場は多かったりしますけど、ゲーセンの値段もだいたい1プレイ100円くらいで同じです。

鍵田:
つまり現地の人からしたら割高?

宮本:
高いです。なのでゲーセンで遊ぶ子供はみんな富裕層ですね。それでも回転がいいので値段はそのままになってます。日本の1.5〜2倍くらいの集客ができてましたし、特にカンボジアには中国資本が投入されてる影響もあって。カジノ以外にできた初めての遊戯場がゲーセン、って感じですね。


「ゲーセンミカド-高田馬場」で『鉄拳7』をプレイ。

ゲーム開発におけるディレクターの役割。

鍵田:
ディレクターって具体的に何をしてたの?

宮本:
要は開発責任者ですね。アップデート対応をしたり。ディレクターは僕一人で、他にメンバーが2〜30人くらいいて、という。プロデューサー、プランナー、プログラマーなどいろいろです。

鍵田:
たぶんだけどプロデューサーは宣伝や予算周りを管轄して、ディレクターがゲーム自体を管轄して…っていう関係?

宮本:
そうですそうです。売ることに責任を持つのがプロデューサーで、面白さに責任を持つのがディレクターですね。

鍵田:
ディレクターは社会人1年目からやってるの?

宮本:
いえ、1年目の頃はプランナーっていう企画職でした。仕様書をまとめたりする仕事をしつつ、4〜5年くらいたってからディレクターになりましたね。

鍵田:
ディレクターとして初めて担当したのが『湾岸ミッドナイト』?

宮本:
そうですね。その途中でコロナ禍になってしまって、ゲーセンに人が来なくなったんです。だんだん開発費も降りなくなってきたので、それをきっかけに今のセガに転職しました。


強烈なローキックが炸裂。

バンダイナムコからセガに転職してみた。

鍵田:
セガでは何をやってるの?

宮本:
ゲームのシナリオプランナーですね。開発規模100人くらいのコンシューマーゲームを担当してます。

鍵田:
タイトルは言えないとして、セガだとたとえば『龍が如く』シリーズくらいの規模の作品を担当してる?

宮本:
そうですね。シナリオライターは外部にいて、僕がそれをゲームに実装する役割というか。極端な例だと仮にライターがパトカー1万台を走らせるシナリオを書いたとして、「ゲームだと処理できないのでせめて10台くらいにしましょう」っていうやりとりがあったりします。5秒しか歩くシーンがないのに、1分のセリフは入らないですよね。そういう、シナリオをゲームに落とし込むにはどうするか? っていう実装的な観点からの提案をしてます。

鍵田:
シナリオ全体のクオリティコントロールはどうしてるの?

宮本:
僕の上にシナリオディレクターっていう人がいます。流れでいうとまずディレクターがプロット(あらすじ)を作ります。それをライターがシナリオ化して、僕がゲーム化していく感じですね。プロットの前段階でゲームシステムの説明というか、システム上の縛りをシナリオに織り込むのが僕の仕事でもありますけど。

鍵田:
けっこう把握するべきことが多そう。

宮本:
要するにシナリオプランナーはゲームとして実装することに責任を持つ人です。今は開発段階なので一人でやってますけど、これからプランナーも増やしていくと思います。


まるで童心に帰ったかのよう。

宮本真生氏にとって、シナリオとは?

鍵田:
ゲームのストーリーってタイトルによってはすごい重要になってるよね。海外市場に向けたビッグバジェットのゲームだと、たとえばハリウッドの有名な脚本家を起用したり。

宮本:
そういうプロジェクトもあります。トップダウン型というか。でも今、僕が担当してるのはそういう神様的な存在はいない種類のゲームですね。一方で、転職した後くらいに第3回「ジャンプ恋愛小説大賞」で銀賞をいただいたりもして。

鍵田:
本業も副業もシナリオ方面に収束していってない? ゲームの中でもシステムやグラフィックじゃなくて物語をいじってたいのかな。

宮本:
それはそうですね。好きなことをして生きていこう、みたいな(笑)。ゲームだと自分の裁量が限られるんですが、小説や脚本はある程度自由ですし、そういう意味でやりがいはあります。本業と副業でバランスが取れてるというか。シナリオで名を上げたいので、そのためにどうすればいいか考えるうちにそうなってますね。

鍵田:
そもそも何がきっかけでシナリオに興味を持ったんだっけ?

宮本:
もともとはRPGがずっと好きだったんです。『英雄伝説』シリーズが特に好きで。

鍵田:
いわゆるJRPGだよね。なるほど! ゲームから入ってるから今、ゲーム会社にいるのか。いわゆる思春期の原体験というか、10代のリビドーって強烈だもんね…。そこを本拠地にして、これからも物語をいろいろ作っていく、と。

宮本:
今年30歳になったんですけど、振り返ると20代はいろいろできて楽しかったですね。もちろん、これからも作り続けていきたいです。

鍵田:
宮本真生氏の次回作にご期待ください!!

インタビュイー
8期 宮本真生

インタビュアー
6期 鍵田

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