そして、みんなバカになる
まえがき:バカについてのエッセイ
世の中、バカが多いと思わないだろうか。私は思う。はっきり言って、バカが多すぎるとすら思っている。何の科学的エビデンスもない「HSP」を信じるバカに、ニュース記事をちゃんと読まずに脊髄反射で的外れなコメントをするバカ。世の中には色々なタイプのバカが存在する。本稿は、そんなバカについてのエッセイだ。様々な調査から、読解力の低いバカ、数的思考力の低いバカ、科学リテラシーのないバカについて考えてみようと思う。
第Ⅰ章:国語リテラシーの低さ
作家の橘玲の本『もっと言ってはいけない』で面白い調査が紹介されているので紹介したい。それはPIAACと呼ばれるOECD主催の国際調査だ。調査は「16歳から65歳の成人を対象として、社会生活において成人に求められる能力のうち、読解力、数的思考力、ITを活用した問題解決能力の3分野のスキルの習熟度を測定する」ことを目的に、24か国・地域において約15万7000人を対象に実施された。
橘によれば、読解力を調べる調査では次のような問題が出されたという。
たった100字程度の文章を読んで著者名を答えるだけの問題など簡単すぎると思われるかもしれない。だが、結果は酷いものだった。
なんと、こんな簡単な問題すら読み解けないほど読解力の低い日本人(成人)が約3人に1人もいたのだ。橘は、この結果を受け次のように結論付けている。
驚きの数値のように思えなくもないが、こうして数値を改めて見てみるとたしかに日本語が読めない日本人は割と多くいるように思えてくる。
Twitterのニュース記事へのリプライを読んでみると、明らかにニュース記事を読んでいないコメントや誤読コメントが多く存在している。そうした実感があることからもこの調査結果は結構納得のいく数値に思える。
日本人の約3分の1は簡単な日本語すら読めないと考えられるわけだが、そうなれば本や新聞などの文章を読み解くことも難しくなるであろう。
本を読んで、知識を蓄えることもできなければ、新聞を読んで社会情勢を知ることもできない、所謂、情報弱者と呼ばれるような人間が日本には多く存在すると考えられる。
平成30年に行われた文化庁の調査(https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/pdf/r1393038_02.pdf)によれば、日本国民の約半数が1か月の間に1冊も本を読まないという。
教育学者の齋藤孝は、読書は向学心の表れだと指摘したうえで、本を読まない人間はバカだと批判している。また、読書離れによって、日本社会が「バカ社会」になっているとも指摘している。
たしかに、本を読まない人間は頭が悪い人間が多いように思う。ボキャブラリーも少なければ、知識も少なく、想像力も欠如していることが多いように感じる。日本は、齋藤が指摘しているようにバカの溢れる「バカ社会」になってきているのではないだろうか。
第Ⅱ章:数学リテラシーの低さ
では、日本人の読解力が低いことが分かったうえで、次に数的思考力について考えてみよう。PIAACの数的思考力では、どんな問題が出されたのか見てみよう。
驚くほど、日本人(成人)の数的思考力は低いことがこの調査結果からわかる。橘は、この結果から次のように結論付けている。
日本人の3分の1は小学3~4年生程度の数的思考力しかないというのは衝撃的な結果だ。だが、この結果も改めて見てみれば、当然のようにも思えてくる。
というのも、日本人の数的思考力の弱さを象徴する出来事がコロナ禍でもあったからだ。それは「PCR検査を誰でも、何回でも受けられるようにとにかく拡大しろ」といった声がひろがったことだ。これは、「条件付き確率」が分かれば、闇雲な検査拡大は無意味であるどころか、有害ですらあることがわかるのだが、殆どの日本人はそんなことは気づいていなかった。
いま改めて思い返してみれば、闇雲な検査拡大を主張する人々がコロナ禍に出てきたことは、数的思考力の弱いバカが多いことを象徴していた出来事だったのだろう。
このように調査結果を見れば、日本人の「3分の1は日本語が読めず、小学生程度の思考力しかない」バカだとよくわかる。
第Ⅲ章:科学リテラシーの低さ
では、科学リテラシーではどうだろうか。「科学技術白書(平成16年版)」によれば、日本人の科学リテラシーは欧米各国よりも低いことがわかっている。
「アメリカ人の11%が「地球が平らかもしれない」と考えている」という意識調査(https://gigazine.net/news/20220628-flat-earth-videos-disinformation-conspiracy-theories/)があり、「アメリカ人は地球平面説を信じているバカが多い」と笑っている日本人もいるかもしれないが、残念ながら、日本人はアメリカ人を笑えないレベルで科学リテラシーが低い。
たとえば、「すべての放射能は人工的に作られたものである」という質問に対し「NO」と答え正解できた人は「56%」しかいなかったという。つまり、44%は、すべての放射能は人工的に作られていると思っているほど科学リテラシーが低いわけだ。
なぜ、「血液クレンジング」が流行ったり、「塩化ナトリウムの入っていない塩」などとバカげたことを言う人が出てくるのか、この調査結果は様々な示唆を私たちに与えてくれる。
結論:バカなのに勉強しない人たち
さて、日本は科学リテラシーも低ければ、読解力も低く、数的思考力が弱いこともわかった。これをバカ社会と言わずして何というだろうか。日本は、科学リテラシーも読解力も数的思考力も低いバカが多いと考えられる。
では、バカが多いのであれば勉強すればいいではないか。そう思われるかもしれない。確かに、その通りだろう。バカならば勉強して賢くなればいい。知らないことを知ろうと学べばいい。
だが、日本人は学んでいない。日本人の学習習慣について次のような興味深い調査結果がある。
日本の社会人の一日の学習時間は平均たった6分だ。読解力、数的思考力、科学リテラシーが低いバカなのに、である。
バカだけど、勉強しない。これは、自分がバカだという自覚が欠如していることにも原因があるように思える。認知科学では、能力が低い人間ほど、自分の能力を高く見積もってしまう「ダニング=クルーガー効果」というバイアスがあることが知られている。
つまり、バカほど自分を賢い(科学リテラシー、数的思考力、読解力が実際の能力以上に高い)と勘違いしているのではないだろうか。自分がバカだという自覚がないから、勉強しようという気にならないのではないか。私にはそのような原因があるように思えてならない。
原因については、あくまでも、私の憶測にすぎないが、何にせよ、バカなのに勉強しないのであれば、日本がバカしかいないバカ社会になるのも当然なのだろう…。
※【コメントのルール】記事をちゃんと読んでない人はコメントしないでください。客観性のある根拠(参考文献など)を示して話をできない人もコメントしないでください。
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参照
*橘玲(著) 『もっと言ってはいけない』 新潮社 2019年
*齋藤孝(著) 『なぜ日本人は学ばなくなったのか』 講談社 2008年
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/pdf/r1393038_02.pdf
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1903/20/news090.html
https://gigazine.net/news/20220628-flat-earth-videos-disinformation-conspiracy-theories/
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