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『ブラス・クーバスの死後の回想』マシャード・デ・アシス

作品について

ブラジル人作家、マシャード・デ・アシス(1839-1908)による長編。作家となった死者、ブラス・クーバスにより届けられた一冊です!

作品導入部

「私の死体の冷たい肉を 最初にかじった虫に捧げる 懐かしい思い出のしるしに この死者の回想を」

死者は一体何を語るでしょうか。

彼は死者ですが、死の直前、時間を遡り、原始の時代まで戻っていきます。そして人類のたどってきた歴史を、まるでビデオを見るかのように、第三者的視点で、上から眺めたという経験を持つ死者、ブラス・クーバス。そんな死者によるお話です。ここの時間を遡るシーンは何とも情景描写が美しく、1冊の本のうちで最も大切なパートかと思います。

引用した文は本編に入る前の1ページに書かれています。まずその一文にぐっと心が引かれました。でもその後のストーリーのテンションとの差にまた意外性を感じます。

作品本編

紹介した一文からも、そして題名からもわかる通り、本編は彼の回想です。

ナレーション人物(ブラス・クーバス)がちょくちょくこちら読者側に話しかけてくるところが面白いです。

小説のスタイル、社会制度、ブラジルの状況、等々様々な点へ挑戦と批判を投げかけた作品です。

感想・コメント

日本語ですと、解説まで読んでみるとより楽しめる・理解ができる本だと思います。(今回私は光文社古典新訳文庫出版のものを読みました)訳者、武田千香氏は数十頁を費やしてブラジルの当時の歴史的背景や作者に関する情報も交えての彼女の解釈を本に載せています。

最近、ブラジルではありませんが同じポルトガル語圏の作品『白の闇』という作品を読みました。その本との違いというか、テンションの違いというか分かりませんが、とにかく2つの作品の違いに「本(小説)っていっても、やっぱり色んなタイプがあるよね!!!」と改めて感じました。『白の闇』は常に緊張感などのある激動の物語であるのに対し、こちらは淡々と物語が進行していくものでした。

新しいスタイルにチャレンジした作品、一味違うテイストの小説、そんな作品に触れるのが好きな人には是非お勧めです。


作者について

マシャード・ジ・アシス。ブラジル国内で名前を耳にしたことがない人はいない程名の高い、ブラジルの代表作家。日本でいうなら夏目漱石くらいの知名度、と私の文学の教授は常に口にしていました。

作者はブラジルのリオデジャネイロ生まれ、混血児(父親が黒人の血を引き、母親はポルトガル出身の白人)。

当時白人層が政治面、文化面、あらゆる面において優位な立場を占めているというブラジルでしたが、彼は黒人の血を引く身でありながら文学の才能に花を咲かせ、ブラジル文学アカデミーの設立者であり且初代会長まで務めた経歴の持ち主。

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今回私は光文社古典新訳文庫から出版されているものを読みました。


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