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【識者の眼】「バブルとダイヤモンド・プリンセス」岩田健太郎

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)
Web医事新報登録日: 2021-07-27

本稿執筆時点、日本は五輪の金メダルラッシュで大いに盛り上がっている。同時に、連日メディアが大きく報じた新型コロナウイルス感染症については沈黙された。

国内感染者も増加している今日このごろだが、もう一つ気になることがある。五輪関係者の感染だ。

既に155人の感染者が確認されている(https://www.asahi.com/articles/ASP7W3RGVP7WUTIL00N.html?iref=comtop_7_03)。ブラジルで行われたサッカー大会では179人の感染者が発生し、感染対策の不備が批判されたが、その数を追い抜いてしまいそうな勢いだ(https://www.thehindu.com/sport/football/copa-america-ends-with-179-confirmed-cases-of-covid-19/article35293923.ece)。

「安心、安全のオリンピック」と関係各氏があれだけ連呼していた五輪だが、いざ始まってしまうと、「いやー、盛り上がってるねえ、イエイ。安心、安全? そんなの二の次だよ」という関係各氏のホンネが聞こえてきそうだ。

「いやいや、サッカーという単独競技とたくさんのアスリーツが集まる多種目のオリパラを同列に扱っちゃダメだよ。議論の仕方が間違ってるだろ」

そんなツッコミが聞こえてきそうだが、そこが問題の核心だ。

たくさんのアスリーツが集まる多種目のオリンピック、パラリンピックだからこそ感染リスクが増すのであり、よって東京で感染者が増加している状態で本当に大会を開催していいものかどうか侃々諤々の議論が行われたのである。「Jリーグやプロ野球で客を入れているのに、どうしてオリンピックはダメなの?」という意見は的外れなのである。

連日、感染者数しか発表されないのも問題だ。朗報なのか、凶報なのかの判断もない。日本メディアの質の低さの典型だ。

水際作戦で入国した感染者を捕捉したのであれば、感染者数は悪い報告ではない。が、バブルが破綻しての感染であれば問題だ。両者を区別する必要がある。

これはまさに去年のダイヤモンド・プリンセスのときとおんなじだ。だから不安が募った僕が船内に入らざるを得なくなったわけだ(ガセが多いが、「勝手に入った」わけではない)。

あれから、日本の感染対策には本質的な進歩がない。

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