偶然のオマージュの産物~Womanとbreath~

クリエーターとしてある作品を作っていると、自分の作品のどこかが先発の作品のどこかと似ていることがあります。

そして意図的にオマージュとして作品に入れ込んだものでない限り、私はそのことを偶然のオマージュと呼ぶことにしています。

作品に偶然に入ったものがオマージュと言えるのか?は解釈が分かれるところですが、私は自分の内から出たものは「出るべき相応の理由」があるはずで、その理由は自分では無意識に影響を受けていたから出た(作品に入ったタイミングは偶然だが結果的にオマージュとして出ている)と解釈することにしています。

今回は過去の音楽作品にもそんなケースがあったんだというお話。

「Woman」の静かなる浮遊感のサビ

1984年10月にリリースされた「Woman」という曲があります。この曲は映画「Wの悲劇」の主題歌で薬師丸ひろ子さんが歌った曲です。

今から40年前の曲ですが、いまだいろいろなところで話題になる曲。

この曲がなぜそんなに愛されているか。これはひとえにシンプルなメロディラインから静かなる浮遊感のサビへの移動の仕方に秘密があります。

まずは聞いてみてください。

曲全体としては昭和感が満載ですが、そこに埋もれない秀逸なメロディ進行が隠れています。

実は、開始1:09から始まるサビ直前のコードのベース音とサビの最初のコードのベース音が同じです。そのくせコードの性質はサビ直前とサビ直後で変化し、サビから無意識的に転調しています。

普通に聞き流しているといつのまにか転調している?という感じで、曲の盛り上がりであるはずのサビなのに聞いている側は迷いを感じてしまい、なぜか浮遊感を感じるという作りになってます。

その微妙な変化に追い打ちをかけて歌詞の重み?が迫ってきます。

「あぁ 時の河を 渡る船に オールはない 流されてく 横たわった 髪に胸に 降り積もるわ 星のかけら」

サビをあえて目立たせず、周りを凹ませることにより浮きだたせるようなコード進行。これは偶然の産物ではないですね。

このサビの感覚を覚えておいてください。もうひとつの曲を紹介します。

「breath」の力強い躍動感のサビ

1987年7月にリリースされた「breath」という曲があります。この曲は渡辺美里さんが歌った曲で、彼女の初めての長編バラード曲です。

これもまず聞いてみてください(15分30秒から)

7分もあるこの曲。冒頭ピアノのイントロから憂う感じのメロディ入りが素晴らしく、それは1:30から始まるサビへつながります。

このサビなんですが、まさにコード進行としてはWomanのサビとほぼ同じ感覚です。

気づかれましたか?

同じなのはあくまで感覚で細かく言えば違いますが、breathを知ってる人がWomanを、Womanを知ってる人がbreathを聞いたら、あれ?もしかして似てる?となるわけです。

ところがbreathにはサビ直前とサビ直後のコードのベース音に跳躍があります。跳躍というのはコード進行に共通のベース音がないということですが、そのためbreathのサビでは浮遊感はなく、曲が持つ力強さが前面に押し出されています。

偶然のオマージュの産物

この2つの曲を聞いて、あ~たしかに! と感じる人が多くいてくれるんじゃないかなぁ。

2つとも違う曲です。作曲者も違う。おそらくどちらの作曲者もお互いを意識して作っていたわけではないかと思います。進行としても音楽のよくある進行で、使われているテクニックも9thのテクニックで珍しくはありません。

ですが、偶然似ていると感じられるものが部分的に出てきて、それらは似ているけれども性質は全然違っていて、お互いの曲で「聞く人に届ける大切な要素」に対して大きな影響を及ぼしている。。。

素晴らしいですね~。これがあるから作品作りはやめられない。それに気づけた時もうれしい感動がある。

そして前にも書いた、

「自分が考えだしたものが他の他人と似たようなものだった時、その人と同じ考えを自分ができたことになる」

という嬉しい感覚を得ることができる。。。

そう考えたら作品のネタが尽きるなんてことからは解放されるような気がします。

文章にも同じことが言えるのかな。。。

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