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今更、葬送のフリーレンを読んだ感想

 自分は未読のまま山田玲司の評価だけを知っていた身だが、読んだ後に思ったのは、彼は随分と的外れだなと。
 自分は、そもそも今の若者がこの作品を評価した事に驚いた。だってこれ間違いなくハッピーエンドに向かっているとはいえ、喪失を題材にしてるから。奥野や我々のようなおじさんがその感覚を抱くのはわかる。旧世代と新世代の両方を判断できるようになった年齢で、若い時ほど未来は明るくなく、老いているほど暗くもない現在。そういう合間にいる年代がこの作品を評価するのはわかるけど、20代以下の若者がこの作品をどう評価しているのか、是非とも感想を聞いてみたい。そこまで達観しているのかと。
 山田玲司に関しては失笑。彼は若者に理解があるふりをしているけれど、自分が若いアピールをしたいだけで全く若者を捉えられていないと思う。自分も若くないので、例えばYoasobiとか鬼滅とかの良さが全くわからない。うるさいとか過剰とか幼いと感じてしまうが、自分を含めて子供向けの作品はいつの時代もそうなので、そういうものだという認識でしかない。
 フリーレンの万能感などに触れているが、むしろ万能であるはずのフリーレンが些細な機微を汲み取れず、その些細は凡人でもわかる簡単な事で、人生はその些細の積み重ねである、という至極真っ当な古典的な人情もの、むしろ古典的過ぎてどうして若者に受けたのか理解できないくらいの古典的で王道だと思うのだが、山田玲司には何が見えてるのだろうか?
 しかも、強引に言えば萌え美少女ものだと言えるが、それにしては絵柄も劇画を踏襲しながら今風の美形をおさえて、実に丁寧で見事な描写だ。鳥山明や三浦建太郎など偉大な日本の漫画家の要素を間違いなく継いでいて、手抜きもない。山田玲司は日常系と同列にして語っているが、自分はけいおんなどに代表される日常系は大嫌いで、男が出てこない作品や大人や老人が出てこない、出て来ても10代みたいな顔と振る舞いの作品を気持ち悪いと思っている人種なので、そんな自分に刺さった時点で日常系の作品と並べられる価値基準が自分にはわからなかった。日常系が避ける別れなどを正面から扱い、むしろ終わらない日常を否定している作品だと思うのだが。
 自分としては、もう歳で新しい漫画に興味も持てず、実際に話題の作品を読んでも既視感があるか作者が若いゆえに描写や価値観が幼く、大友克洋や鳥山明や三浦建太郎ほどの衝撃を受けられずに終わり、漫画を読むのをやめ始めて、今ではハニワットとヒストリエと修羅の刻しか読んでいないが、フリーレンは今の世代に受けているにも関わらず、自分のようなおじさんにも刺さる世代を跨ぐ良い王道作品だと思う。
 自分は傾向として、特定の世代やジャンルにだけ刺さる作品に興味を惹かれず、老若男女に好かれながら奥深い作品を好む。もっと言うなら歴史に残りそうな作品にしか興味が無い。フリーレンが今後どういう評価を得るかはわからないが、読者を舐めていないし、作品の核が何かをちゃんと自覚していそうだし、恐らく人情ものの代表作として残り、テンプレのひとつとして扱われるんじゃ無いかと予想している。この作品自体が類型的であり、必ずしも斬新な作品ではないのは事実だが、斬新とは鮮度があり長続きしないもので、むしろ類型の中に個性を出すくらいの方が名作として語り継がれるのではないかと思う。
 フリーレンが今後名作として語り継がれるかはわからないけれど、少なくとも評価が短期的な作品だとは思えない。情緒ある作品として古典的で王道。背景美術もしっかり描きこんであり、それでいて、ある意味で何も起こらない漫画なのに、丁寧な仕事なのは間違いなく、それが報われて良かったね、という感想である。
 ハニワットだって同じくらいに丁寧で面白い漫画なのに、打ち切られて終わりそうだったのだから、ハニワットもフリーレンも好きな身としては、フリーレンが羨ましい。ハニワットも同じくらいに売れて良いと思う。

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