鮨ほり川のお寿司には驚きと感動が詰まっていた。
世界中に数ある食べ物の中で、お寿司は私の好きな食べ物ランキングで不動の1位を誇る、絶対的な存在である。きっと3食お寿司でも飽きない。
それほどまでにお寿司を愛してやまない私がずっと気になっていたお寿司屋さんがあった。それは、前にnoteでも話題になっていた「鮨ほり川」だ。
73歳で仕入れからお寿司を握るまでを一人でされていることに驚いたし、noteの記事を見ていると、どうやら面白い試みもされているなと感じていた。
数ヵ月前、コロナの状況が少し落ち着いたタイミングで行くことができたのだが、食べ終わってお店を出る頃には、驚きと感動で胸がいっぱいだった。
時刻は18時前。世田谷代田の駅から静まり返った住宅街をスマホ片手に進み、念願の「鮨ほり川」に到着した。暖簾をくぐると立派な木のコの字カウンターがお出迎え。その中に写真で見ていたあの大将がいて、芸能人に会ったような気分になった。
今回は、電話で予約した時におすすめしていただいた「ほり川スペシャル」をお願いしていた。「どんなお寿司が出てくるんだろうか」と胸が高鳴る。
まず、お通しは3品。
サラダはさっぱりしていて食事のスタートとして嬉しいし、タコと揚げ物はお酒がすすむ味だ。
小さい頃は1口目からお寿司を頼むことが多かったが、大人になってからはおつまみでゆっくり始める楽しみ方も知り。「やっぱりこのスタートは良いよね」と思いながら食べ進めていると、大きな葉っぱに乗せられた野菜の盛り合わせが目の前に現れた。
「お寿司屋さんで野菜の盛り合わせ……!?」。しばし箸を止めてじっと見つめていた。これまでボリュームたっぷりなお漬物が出されるのは初めてだ。序盤からいい意味で予想が裏切られていく。
緑、赤、黄と彩りは美しく、どれもちょうどいい塩味。カボチャのお漬物は初めてだし、ウリはそこまで得意ではなかったから食べられるか心配だったけれど、あの独特な風味もなく美味しかった。
この時点で早くも「お寿司屋さんでお漬物をしっかり楽しむのもいいなあ」と新しい魅力に気づき満足していたけれど、この後も感動が止まらなかった。
野菜をぽりぽりと食べていると、目の前で静かに広げられた2つの木箱。そこにはきらきらと輝く魚介たちが収まっていた。まさに宝石箱だ(写真撮ればよかったと本当に後悔………)
それぞれの食材について産地や味わいを大将が丁寧に説明してくれた。ここから好きなものを3つ選んでよいのだという。「なんて究極の選択なんだ……」と迷いに迷った末、まず選んだのはカキ。
カキはわさびで、とのこと。斬新な食べ方にワクワクしながら口に入れる。ぷりっぷりでとってもクリーミー。「わさびだけの方がシンプルにカキの旨みを堪能できるのか」と思ったのだけれど、これはカキ自体が新鮮で良物だからこそなせる業だ。
もう1つは、ボラの白子を選んだ。
白子は食べたことがあるけれど(たぶんその大体がタラだと思う)、ボラは初めて。見慣れた白子とは違うビジュアルを興味深く思いながら頂くと、濃厚だけど少しさっぱりもしていて、ひと口に白子と言ってもこんなに違うことに驚かされた。
最後の1つには、カワハギの刺身を選んだのだけれど……。ここまでどんどん出されて気持ちが舞い上がってしまい、うっかり写真を撮り忘れてしまった。何にせよ、お皿にきれいに並べられて登場したカワハギは、ほんのり甘みがあり美味しかった。
このあたりからもう日本酒を飲み始め「なんて幸せな休日なんだ……」とお寿司の登場前にすでに満たされていた。そんななか、次に来たのは意外にも鍋。
器に並べられている具材を見てびっくり。松茸とアワビだ。もう一度言う、松茸とアワビだ……!
どちらも5秒ぐらいでさっと湯通しして食べるという。アワビはくるっと丸くなりかけたら食べ頃。貝というとコリコリしてるイメージあったけれど、噛むとスッと切れてなんとも柔らかい。
松茸は口に入れた瞬間に香りがぶわっと広がった。そしてしゃきしゃきした食感が心地よい。
私の人生で高級食材たちをこんな風に食べたことはないし、ここまででもう胸がいっぱいだったけれど、いよいよここからお寿司!待ってました!!
肉厚のマグロで、食べた瞬間にうっとりしてしまった。漬けの味が好みだったのもあり、今までの漬けマグロで一番好きかもしれない。
実はお寿司のネタでトップ3に入るぐらいに好きなエンガワ。この身の分厚さは自己ベスト更新。歯ごたえと上品な甘みがたまらない。
わさびで食べる。今までにない食べ方だ。ぷちぷちしていて、とっても濃厚。イクラ自体の味がしっかりしているからわさびでちょうどいいのかも。
パサパサ感やくさみもなく、しっとりとしていてうまみが凝縮されている。「エビってこんなに美味しかったのか……」と余韻にじっくりと浸った。
歯ごたえがあって甘い。お寿司のブリは何度も食べたことはあるけれど「新鮮で良いネタで握られたお寿司はこうも違うのだな……」としみじみ。
口に入れた瞬間に香ばしさが広がっていく。そして穴子が本当にふわっふわ。酢飯と甘いたれが心地よいハーモニーを奏でる。
とろたくが出てきた瞬間、小躍りしたくなった。お寿司の中で一番好きなのだ。しかも本マグロ! 口どけのいい上質な脂にとろける。
野菜のお寿司はこれまでも食べたことがあるけれど空芯菜は初めて。シャキッとしていて軽やかだ。野菜のさっぱりした味わいと酢飯が合う。
実はほり川で一番に楽しみにしていたのがフルーツ寿司。しかもこの日は「ル・レクチェ」! 新潟の幻の洋梨、ル・レクチェを知ったのは少し前のこと。思いがけない出合いが嬉しい。食べてみると、今まで知っている洋梨と違って舌触りが滑らかで甘い。何よりお寿司と合うと思わなかった!
コースはここで終了。夢のような時間はあっという間に過ぎていった。
「ほり川スペシャル」は、一品一品が驚きと感動に満ちていた。食べ終わった時は、コンサートやサーカスを見終えた時の興奮が冷めやらない、あの感覚に近い。食材のみならず食べ方までも新鮮だった。さらに、時折大将と会話を楽しみながらお寿司を味わうことができて、お寿司屋さんというものを存分に楽しませてくれた最高の空間だった。
お寿司のネタはもちろん、野菜や果物、鍋の具材も時期で変わるのだそうだ。
きっと季節が変わるたびに足を運ぶことになる。そんな気がしている。