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BUCK-TICK 全オリジナルアルバムレビュー【3】1997~2003

5回に分けて、BUCK-TICKの全オリジナルアルバム23作品をレビューしたいと思います。
前回は、『狂った太陽』から『COSMOS』をレビューしました。

第3回は、10th『SEXY STREAM LINER』から13th『Mona Lisa OVERDRIVE』、そしてアルバム未収録シングル『幻想の花』までをレビューします。
(※)なお、ベスト・リミックス・ライブアルバムなどは省いていますが、アルバム未収録のシングル、EPについてはレビューしていきます。

SEXY STREAM LINER (10th 1997/12/10)

機械の中で蠢くモンスター、その名は「最新型の流線形」

レコード会社をビクターからマーキュリー(現ユニバーサル)に移籍して最初の作品。しかし結果的には、本作がマーキュリー在籍時唯一のオリジナルアルバムとなっています。

タイトルの意味は「最新型の流線形」。
ドラムンベースの高速ビートが生ドラムを覆い、シーケンスのループとサウンドエフェクトやノイズが音の隙間を埋め尽くす先鋭的なアルバムです。
本作を境に、いわゆるギターロック的なバンドサウンドからは一度離れていきます。

メロディーに関しても、シングル「ヒロイン」などポップな曲も入ってはいるのですが、アルバム全体としてはテクノ的に反復されるタイプの抑揚を排したメロディーが主体。

エレクトロニカに傾いた作風ながら、印象的なのは妙に耳に残る生々しさやグロテスクさです。
「蝶蝶」「囁き」など、機械的な中にわざと生物の気持ち悪さを残しているような曲が多く、ボーカルの歌い方や、ギターの歪ませ方などにそうした意図を感じます。すごくモンスターっぽいんですよね。

同じSF的な作風でも、『狂った太陽』がサイバーパンク『ブレードランナー』だとしたら、『SEXY STREAM LINER』はホラーサスペンス『エイリアン』といった感じでしょうか。

リリース当時は異色作とも呼ばれた本作ですが、その後のBUCK-TICKの音楽的変遷や、2000年頃を境にバンドサウンドとエレクトロニカの垣根がなくなっていく音楽シーンの流れなどを考えると、時代の先を行っていた作品だと言えるでしょう。

月世界 (Single 1998/5/13)

涅槃に沈み込むようなダークなミニマル・テクノ

『SEXY STREAM LINER』レコーディング時に作られていた、ミニマルなビートと旋律を繰り返すスローナンバー。
“赤 黄色 向日葵 橙 群青 紫陽花”のリフレインが呪文のように巡る、超ダウナーな1曲です。蓮沼に沈み込むようなイメージは完全に涅槃。
よくこれシングルにしたな……!

本シングルと、その前にリリースされている「囁き」のリミックスEPまでを含めて、『SEXY STREAM LINER』シリーズという印象ですね。

BRAN-NEW LOVER (Single 1999/7/14)

エレクトロポップ×バンドで奏でる世界の終わり

ノストラダムスの大予言が騒がれた1999年7月にリリース。
“世界の終わりなら真夏の海辺”、"この宇宙でもう一度会える日まで"といった終末観のある歌詞が秀逸です。

エレクトロニカに接近したサウンドの方向性はそのままに、『SEXY STREAM LINER』の楽曲よりも風通しよくポップになったシングル。
アルバム未収録のため見逃されがちですが、初期作品を思わせる開放的なサビのメロディーと、中期のエレクトロサウンドが掛け合わさった名曲だと思います。

カップリングにはインダストリアルヘヴィロック「DOWN」、シューゲイザー・UKインディ感のある「ASYLUM GARDEN」を収録。当時の海外バンドシーンとの同時代性も感じさせる、聴き応えあるシングルです。

ミウ (Single 1999/10/20)

美と残酷、幻想と寂寥を織り込んだ星野曲の最高峰

「JUPITER」「ドレス」近年であれば「さよならシェルター」など、数ある星野名曲の中でも、ファン満場一致の大名曲。

寂しさや美しさだけではなく、不安や残酷さ、逃避願望、幻想までも織り込んでいくのが、櫻井作詞&星野作曲の真骨頂だと思うのですが、その世界観の究極とも言える1曲が「ミウ」でしょう。
賛否あるかもしれませんが、私は第二期体制で星野さんボーカルの「ミウ」を聴いてみたいです。

「ミウ」だけでなく、カップリングの今井さん作4つ打ち暗黒ぶち上げダンス「パラダイス」も必聴の出来。

度重なるレコード会社移籍などがあり、前後のアルバムと切り離されているこの時期のシングル群ですが、クリエイティブ的にはかなりの充実期。
聴き逃している人は今すぐ聴きましょう。

ONE LIFE, ONE DEATH (11th 2000/9/20)

美メロとエレクトロニカが融合した中期の傑作

再びレコード会社を移籍し、BMGファンハウスから2年9カ月振りにリリースされたアルバム。
現在これが最長のインターバルなのですが、37年活動してオリジナルアルバムが3年空いたことがないってどういうこと……?

サウンドは前作『SEXY STREAM LINER』を踏襲しつつ、「BRAN-NEW LOVER」「ミウ」のようなメロディアスさも兼ね備えた、バランスのとれた充実作となっています。

キャッチーなメロディーと疾走するシーケンスが印象的なシングル「GLAMOROUS」、00年代通してライブの定番となった”トロピカル・SEXY天国”「Baby, I want you」、激推しファンが多いラブソング「FLAME」を筆頭に、人気曲も数多く収録。
ここ数年追及してきたエレクトロニカの流れにありながらも、耳に残る美しいメロディーが多いことが本作の特徴でしょう。

ただ、全10曲と曲数が少ないせいか、移籍で間が空いた影響か、充実度・完成度の高さに対して知名度の低いアルバムという印象もあります。
なんでですかね、ジャケットが怖すぎるんですかね……。

たらればの話ですが、もし本作に「BRAN-NEW LOVER」「ミウ」などが入って13~14曲入りだったらもっと評価されていたのかも……と想像することがあります。
(BUCK-TICKは制作時期の違うシングルは基本的にアルバムに入れないので、有り得ないとしても)

テクノやダンスミュージックが好きな方や、2020年前後の『アトム 未来派 No.9』『No.0』などからBUCK-TICKにハマった人には特におすすめ。
エレクトロサウンド期の代表作です。

極東I LOVE YOU (12th 2002/3/6)

静謐さの中に強いメッセージが込められた悲哀の一作

ニューヨーク同時多発テロ事件、アフガニスタン紛争などで世界情勢が一気に不穏な方向へ傾いていた時期にリリースされたアルバム。

反戦の意思を押し出したリードシングル「極東より愛を込めて」、母に向けて戦場から最期の電話をかける姿を描いた「Long Distance Call」も収録されており、”極東”とアルバムタイトルに冠したことも含め、当時の世界情勢に対するメッセージを強く示している作品です。

同時に、21世紀最初のアルバムということもあり、“共に青い春を駆け抜けよう”とこれまでになく未来を向いた「疾風のブレードランナー」が幕開けを飾っているのも印象的。
同曲は、2023/12/29に開催されたライブ「バクチク現象-2023-」でもオープニングナンバーとして演奏されました。

アルバムを通してメロディアスで幻想的な曲が多く、特に「WARP DAY」「謝肉祭 -カーニバル-」などで聴くことのできる静謐なエレクトロニカとバンドの融合は、本作の象徴的なサウンドだと言えるでしょう。

冒頭の話に戻りますが、反戦はBUCK-TICKの中で、おそらくは特に櫻井さんの中で、本作以降より強いテーマとなっていきます。
それが大きく結実するのが2023年作品『異空 -IZORA-』なのですが、『極東I LOVE YOU』はそのテーマ性と幻想的なサウンドの原点となった作品のように感じます。

また、本作と次作『Mona Lisa OVERDRIVE』は対になっており、時期を空けずに続けて制作されています。双子アルバムとして、併せて聴くのもオススメです。

Mona Lisa OVERDRIVE (13th 2003/2/3)

インダストリアルなテクノサウンドが炸裂する怒りの一作

前作『極東I LOVE YOU』と対をなすアルバム。前作録音時から存在していた曲も多く、1年弱の短いスパンでリリースされました。
『極東I LOVE YOU』が幻想・悲しみ・青色なら、『Mona Lisa OVERDRIVE』は現実・怒り・赤色というイメージでしょうか。

サウンドは、『SEXY STREAM LINER』『ONE LIFE, ONE DEATH』の流れを汲んだエレクトロサウンドがメインですが、アグレッシブな曲が並んでいます。
ハードコアテクノ、それもキックが鳴りまくるガバの「ナカユビ」、久々にロックバンドBUCK-TICKの熱を感じさせてくれるシングル「残骸」、エロス・タナトス・ブレイクビーツの「LIMBO」など、キマりっぱなしの暴れっぱなし。ギターも終始歪みっぱなし。

これぞ今井寿という尖ったインダストリアルサウンドが炸裂する、ディスコグラフィーの中で最も攻撃的なアルバムだと思います。

ただ、これはあくまで個人的な見解ですが、これ以上エレクトロニカに寄ってしまうと、実験的であること自体がマンネリにつながるような、そんな飽和感も本作からは感じます。
1991年の『狂った太陽』でバンドとエレクトロニカの融合というスタイルを見い出し、アルバムごとに音楽的実験を繰り返してきたBUCK-TICKですが、本作までで一度その流れをやり尽くした感があったのではないでしょうか。

事実、本作リリース後にソロや別バンドなどの活動を経て、BUCK-TICKはストレートなロックサウンドへと立ち返っていきます。

幻想の花 (Single 2003/12/3)

『極東』『Mona Lisa』シリーズのエンドロール的シングル

星野さん作曲のバラードシングル。『極東I LOVE YOU』の録音時から存在した曲ながら、『極東I LOVE YOU』『Mona Lisa OVERDRIVE』には収録されず、後に単体のシングルとしてリリースされました。

「極東より愛を込めて」のアンサーソングともとれる歌詞で、悪化する世界情勢に対する悲しみや怒りを経て、“この世界は美しいと歌いながら きっと咲いている”と希望が込められています。

カップリングは今井さん作曲の「ノクターン -Rain Song-」。テクノとどこかスパニッシュ感のあるメロディーの組み合わせは、後の『アトム 未来派 No.9』の雰囲気にもつながりますね。


BT1997-2003

エレクトロニカの路線を推し進めながら、それをどうバンドと組み合わせていくか。90年代後半から00年代前半のBUCK-TICKは、その実験期だったと思います。

当時、音楽シーンを見てもそうした動きは盛んで、海外であればRadiohead、Nine Inch Nails、Primal Scream(今年新作出ますね!)などが、国内でもスーパーカーやBOOM BOOM SATELLITES、THE MAD CAPSULE MARKETSなどが、それぞれにエレクトロニカとバンドを融合させ、次々と挑戦的な作品を発表していました。

その中でBUCK-TICKの特異性を挙げるとすれば、そうしたバンドの多くが解散や活動休止、活動ペースの鈍化をしていった中で、実験期の後も立ち止まらずに、別の方向性の作品を作り続けたことではないでしょうか。

エレクトロニカ実験期を経て、BUCK-TICKはバンドサウンドに立ち返り、その後さらに独自のサウンド進化を遂げていきます。

次回は、00年代中盤~10年代中盤。
バンドに立ち返り、魔王が爆誕する円熟期です。
14th『十三階は月光』から19th『或いはアナーキー』までをレビューします。


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