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BUCK-TICK 全オリジナルアルバムレビュー【4】2005~2014

5日連続、5回に分けて、BUCK-TICKの全オリジナルアルバム23作品をレビューしたいと思います。4回目まで来ました!
前回は、『SEXY STREAM LINER』から『Mona Lisa OVERDRIVE』をレビューしました。

第4回は、14th『十三階は月光』から19th『或いはアナーキー』までをレビューします。
(※)なお、ベスト・リミックス・ライブアルバムなどは省いていますが、アルバム未収録のシングル、EPについてはレビューしていきます。

十三階は月光 (14th 2005/4/6)

魔王・櫻井敦司覚醒。漆黒の美学で構築された世界

初のゴシックコンセプトアルバム。ソロや別バンドの活動を挟み約2年振りにリリースされたのは、シンプルなバンドサウンドでゴシック・デカダンスの美学を70分たっぷり展開する、映画のような大作でした。

ジャケットの雰囲気そのままに、ピエロとバレリーナ、ドールと火吹き男が歌い踊る見世物小屋で、紳士淑女が秘密のパーティに耽っているような、そんな世界観が頭の先から爪の先まで貫かれています。

魔王・櫻井敦司の代名詞にしてキャリア屈指の大名曲「ROMANCE」、ライブ会場が秘密宗教結社ツンドラ教と化す「夢魔 – The Nightmare」、見世物小屋のカーテンコール「DIABOLO」などが収録され、いずれもこの後長くライブの定番となっています。

サウンド面は、前作まで長く続いた実験的なエレクトロニカは一切なくなり、生バンドのグルーヴが中心に。
全編ゴシックな曲調のため、バンドサウンドと言っても中心になるのは直線的なエイトビートではなく、シャッフルやバウンス感のある跳ねたビートか、重心の低いダウンビート。それを腕利きのキャバレーハコバンのように聴かせてくれるのも本作の魅力でしょう。

そして、本作のハイライトは何と言っても歌。水を得た魚のように、曲ごとに世界観に没入し、演じるように歌うボーカルが圧倒的です。
10年代以降、櫻井さんは「演じるように歌う」というアプローチで表現力が爆発的に進化していきますが、本作はその個性が目覚めた作品だと思います。
ときには男に、女に。ときには人間に、魔物に。演じることで、彼は存分に死生観や耽美的世界観、そしてその中に隠れた希望を歌うことも、自由にできるようになったのかもしれません。

魔王爆誕、圧巻のゴシックアルバムです。

蜉蝣 -かげろう- (Single 2006/8/2)

J-POPらしいメロディーが耳に残る和風ゴシック

CLAMP原作アニメ『×××HOLiC』主題歌となったシングル。
『十三階は月光』のゴシック感はそのままに、そこにJ-POPらしい歌謡メロディーを乗せた1曲で、MVも和テイストの妖しく美しい櫻井さんが印象的です。

楽曲の雰囲気は『十三階は月光』のゴシック感がありつつ、サウンドはよりストレートなロックの次作『天使のリボルバー』に近くなっています。

とは言え、アニメの世界観に寄り添っている分、どちらのアルバムに入っていても浮きそうな印象も。一発で覚えられるメロディーで、めちゃくちゃシングルらしい曲なんですけどね。

天使のリボルバー (15th 2007/9/9)

逆にこれが新境地。ドストレートなロックンロールアルバム

デビュー20周年の年にリリース。
シンプルなバンドサウンドに歌いやすいメロディーの曲がほとんどで、誤解を恐れずに言えばBUCK-TICKで最もJ-ROCKらしいアルバム。個人的には、リリース時に「そっちに行くの!?」と最も驚いたのが本作でした。

カントリーやロカビリーを下敷きにした跳ねたリズムの「リリィ」「モンタージュ」など、これまでやって来なかったオールドスタイルなロックンロールが逆に新鮮。気持ち良さそうに叩くアニイが目に浮かびますね。

スカッとするロックンロール曲を軸にしながらも、ゴシック&キッチュなライブの定番曲「Alice in Wonder Underground」、コミカルにぶっ飛ぶ「CREAM SODA」(星野曲なのが意外!)、あっちゃんの昭和歌謡風の歌唱を引き出した2大バラード「RAIN」「Snow white」など、要所にフックとなる曲も。
「RAIN」と「Snow white」は鏡合わせな印象もありますが、片方が今井曲、もう片方が星野曲というのも面白いですね。

そして、全体にリラックスした雰囲気の漂う本作であっても、最後は戦争や紛争を描いた本作中最もハードな「REVOLVER」で終わるところが、一筋縄ではいかないBUCK-TICKらしさだとも感じます。

シンプルなロックアルバムだからこそ、曲調の多彩さやバンドアンサンブルの巧みさをより感じられる、20年目の貫禄を見せつけた一作。

memento mori (16th 2009/2/18)

人生は愛と死!ロックバンドBUCK-TICKの集大成的傑作

ロックバンド・BUCK-TICKとしての最高到達地点。
1曲目「真っ赤な夜 -Bloody-」から速い裏打ちのビートで駆け抜け、全シングル中1、2を争うほどポップな「GALAXY」、荒野ゆく叙情詩「Coyote」、超スピードで滑空する「Jonathan Jet Coaster」、可愛くもせつない雨ソング「セレナーデ 愛しのアンブレラ-Sweety-」、天才ツインギターリフでライブ爆上げ「天使は誰だ」などを経て、ラストナンバー「HEAVEN」で一面の花畑に連れていかれる大優勝アルバムです。

サウンドは前作『天使のリボルバー』の流れを汲んだロックンロールの延長線上にありながら、根底にあるグラム魂&オルタナ気質が爆発しており、より荒々しく、よりセクシーさを増して展開していきます。

さらに特筆すべきは楽曲のポップさ。キャリアを通しても、頭一つ抜けて楽曲が粒揃いのアルバムだと思います。
とにかくメロディーが耳に残る曲が揃っている上に、15曲入りインストなし。強い、物理的に強い。

そして、そんなアルバムのど真ん中8曲目に据えられているのが、アンセム「Memento mori」。
激しいアニイのタムとうねるユータのベースの上に沖縄音階のメロディーが乗り、”人生は愛と死”と繰り返し歌われる、生者も死者も踊り狂うダンスナンバー。BUCK-TICKというバンドの雑食性、享楽性、そして「生まれ、愛し、死んでいく」というテーマ性を体現した珠玉の1曲です。

ロックバンドとして20年以上積み上げてきた表現力と演奏力、休みなく創作を続けてきたことに裏打ちされた優れた楽曲、そして5人とファンで編み上げてきたバンドのテーマ性。
それらを惜しみなく披露した当時の集大成的傑作です。

RAZZLE DAZZLE (17th 2010/10/13)

乱痴気騒ぎの幕が上がる。ショウを思わせる官能的な作品

画家・宇野亜喜良氏の描き下ろしジャケットも鮮烈な、極彩色ハイテンションのダンスアルバム。
前作『memento mori』のグラマラスさとオルタナティブ性を、そのまま享楽的なディスコサウンドに落とし込んだ作品です。

ライブの圧倒的起爆剤「独壇場Beauty -R.I.P.-」、アニメ『屍鬼』主題歌となった「くちづけ」、久々にシーケンスが躍動する「羽虫のように」、アダルトなショウタイムを思わせる「Django!!! -眩惑のジャンゴ-」と、ダンサブルで官能的なカラーがアルバムを通して貫かれています。

そんな濃い官能性といかがわしさに包まれた作品ながらも、緩急があって聴きやすいところも本作の特徴でしょう。
前作『memento mori』で完成したバンドサウンドに、再びエレクトロニカをバランス良く融合させたことで、サウンドの押し引きや曲のバラエティも豊かになっており、繰り返し楽しく聴ける1枚だと思います。

また、コンセプト感の強い作品のため、櫻井さんの演じるように歌うアプローチが存分に引き出されているところも大きな魅力。
『十三階は月光』が漆黒の魔王なら、本作はどんな役にも七変化するカメレオン俳優といった雰囲気で、さまざまな曲調を歌い分けています。中でも、優しく力強く歌い上げられるラストナンバー「Solaris」はショウの大団円にぴったりです。

ロックバンドBUCK-TICKとも、実験集団BUCK-TICともまた違う、コンセプチュアルなショウバンドBUCK-TICKを堪能できる1枚。

夢見る宇宙 (18th 2012/9/19)

ただの暗闇ではなく、ただの希望でもなく

デビュー25周年の年にリリース。ポップなサウンドの中に、櫻井さんの歌詞が強く印象に残るアルバムです。

冒頭は攻撃的なリフで押す「エリーゼのために」、続いて25周年をファンと祝う「CLIMAX TOGETHER」とノリの良い今井さん作詞曲が続き、その後も星野さん作曲のサーフロック「人魚 -mermaid-」など、アルバム全体を通してポップで軽快な曲が多くなっています。

5人のバンドアンサンブルを軸にしながら、鍵盤やホーン隊が彩る楽曲もあり、いわゆるスタンダードなポップスに最も近いアルバムかもしれません。

しかし、本作でサウンド面の変化以上に重要なのは、櫻井さんの声と歌詞の変化ではないでしょうか。
おそらく前年の東日本大震災の影響があったのだと思いますが、これまでよりも前を向いた言葉を選び、よりハッキリと歌っているように聴こえます。

表題曲の「夢見る宇宙」では、これまでもテーマとしてきた生と死を歌いながらも、出会えた喜びと希望の方に重きが置かれています。
そして、深い爪痕を残すのが「禁じられた遊び -ADULT CHILDREN-」。家庭内暴力や幼少期の心的外傷を歌った内容で、櫻井さんの実体験をベースにしながらも、最後には聴き手に手を伸ばすように“あなたは自由”と歌っています。

BUCK-TICKには応援ソングもなければ、安直な優しい歌もありません。
それでも、暗闇を愛する櫻井敦司という人が、そこから希望をよりはっきりと歌い始めたのがこの時期だったのではないか、と思います。

LOVE PARADE/STEPPERS -PARADE-
(Single 2014/1/22)

"いいね もう一度言うよ パレードがゆくよ"

トリビュート盤リリース、イベント「BUCK-TICK FEST 2012 ON PARADE」開催、『夢見る宇宙』リリース&ツアー、映画『バクチク現象』公開など、大々的に行われた25周年プロジェクト。そのラストを飾る形でリリースされたのが本シングルです。

両A面で、「LOVE PARADE」は星野さん作曲、温かさと祭の後の寂しさが残るバラード。「STEPPERS -PARADE-」は今井さん作曲のブギーなパーティーチューンです。
どちらも、その後の30周年や35周年などメモリアルなライブでたびたび披露されています。

第2期は超楽しみにしていますし、1年前と少しずつ自分の気持ちも変わってきているのですが、それでも。
この曲を5人の40周年、45周年でも聴きたかった。聴けると思っていました。

或いはアナーキー (19th 2014/6/4)

アバンギャルドでイこうよ!無秩序さの中にある瞬間の美

シュルレアリスムをテーマにしたアバンギャルドなアルバム。

1曲目から今井さんボーカルのニューウェイブパンク「DADA DISCO -GJTHBKHTD-」が来たかと思えば、中盤には激甘ロマンチック「ボードレールで眠れない」や能天気サンバ「SURVIVAL DANCE」があり、終盤には『darker than darkness』より深く闇へ沈んでいく「無題」が入っているという突拍子のなさ。
ジャンルの全く違う14曲をシャッフルして並べたような無秩序さが本作のカラーでしょう。

その無秩序さゆえに、ともすれば散漫に聴こえかねないアルバムですが、1曲1曲はメロディアスであること、音の質感が冷たいニューウェイブ調でまとめられていることで、全体はしっかり統一感があるという不思議な作品です。

従来のアルバムが1つのテーマに基づいた長編小説なら、本作は短編小説集のようなアルバムだとも感じます。
1曲1曲が物語のようでもありますし、瞬間を切り取るだけで、あまり説明しない潔さも全体に共通しているムードではないでしょうか。

それを特に感じる曲が「形而上 流星」。時が静止したようなディレイのリフレインから、サビで一気に轟音シューゲイザーになり、まさに流星が燃え尽きる一瞬のように消えていく。
アート性の高い本作を象徴する、見事なラストナンバーだと思います。

本作の無秩序さは、「もう何でもできる」という自信の裏返しだったのかもしれません。それを証明するように、次作からBUCK-TICKは第二の黄金期を迎えます。


BT2005-2014

00年代前半までは、エレクトロニカを取り入れた未来方向へ進化していったBUCK-TICKですが、この時期はロックの歴史をたどるように、まず過去方向へ進化していきました。

『十三階は月光』でスウィングやキャバレー、『天使のリボルバー』で初期のロックンロール、そして『memento mori』でより現代的なロックサウンド。
『memento mori』でロックバンドとしての完成をみてからは、再びエレクトロニカも駆使するようになり、『RAZZLE DAZZLE』『夢見る宇宙』『或いはアナーキー』ではアートワークや衣装、ライブ演出も含めた総合芸術的なアプローチへと進化していきます。

過去も未来も関係なく、かっこいいと思ったものは取り入れる。その姿勢で20周年、25周年を迎えたこの時期は、まさに円熟期だったと思います。

『或いはアナーキー』を最後に、BUCK-TICKはアリオラジャパン(旧BMGファンハウス)から移籍し、古巣のレコード会社ビクターに復帰。

次回は、「常に最新作が最高傑作」の第二次黄金期です。
20th『アトム 未来派 No.9』から23rd『異空 -IZORA-』までをレビューします。

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