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BUCK-TICK 全オリジナルアルバムレビュー【1】1987~1990

昨年の10/19に櫻井さんが旅立たれてから、ずっと、BUCK-TICKの作品について一つひとつ語りたいと考えていました。
そう思って少しずつ書きためてきたものを、今日から10/18まで5回に分けて、「全オリジナルアルバム23作品レビュー」としてアップしたいと思います。

動機は私自身の気持ちの整理でしたが、ファンの皆さんに少しでも楽しんでもらえたら、また、BUCK-TICKの音楽について知りたい方や未来のファンの方にとって、ディスクガイドのようなものになれば嬉しいです。

第1回は、インディーズ盤『HURRY UP MODE』から4th『惡の華』までをレビューします。
(※)なお、ベスト・リミックス・ライブアルバムなどは省いていますが、アルバム未収録のシングル、EPはレビューしています。

HURRY UP MODE (Indies 1987/4/4)

35年以上にわたるBUCK-TICKの歴史の原点

音楽性としてはニューウェイブ、その中でも分類するならポジパン(ポジティブパンク)に近い作風です。
演奏や歌、録音は荒いですが、それがすべてバンドの勢いとして昇華されている理想的なインディーズ盤だと感じます。

しかも、ただ初期衝動を詰め込んだだけではなく、その後のBUCK-TICKの楽曲の独自性や、退廃的な世界観がすでに表現されつつあるのが本作の聴き所。
表題曲「HURRY UP MODE」には、今井さん独特のモンスターの鳴き声のようなギターフレーズや、変則的なパターンをストイックに展開するリズム隊、SF×ゴシック的世界観など、後のBUCK-TICKエッセンスとなる要素がふんだんに詰め込まれています。

BOØWY直系のビートロック曲や、歌謡ロック的なラブソングも収録されていますが、全曲どこかニューウェイブ的な陰翳を感じさせ、そこにオリジナリティが光ります。
「TELEPHONE MURDER」や「ONE NIGHT BALLET」は、曲調はチェッカーズみたいですが、あっちゃんの声の妖しさもあって切なく耽美。こうした雰囲気が、30年後に「SEASIDE LOVE STORY」「舞夢マイム」などのニューウェイブ歌謡曲に超進化していった気もしますね。

「HURRY UP MODE」「FLY HIGH」「MOON LIGHT」など、ファン人気が高い楽曲も収録。これらの楽曲は、2010年代以降もアニバーサリーライブやFC限定ライブなどでたびたび演奏されています。
ライブ映像、超かっこいいので観ましょう!

初期衝動の中にオリジナリティの萌芽が見て取れる、堂々たるデビュー作です。

SEXUAL ×××××! (1st 1987/11/21)

ビートロックバンドのきらめきが炸裂するメジャーファースト

メジャーデビューは9/21のビデオ作品『バクチク現象 at THE LIVE INN』で、シングルは1988年の「JUST ONE MORE KISS」までリリースしていないため、本作がメジャー初音源です。

前作『HURRY UP MODE』に比べると、音が軽快かつきらびやかになり、ビートロック曲がかなり増えています。BUCK-TICKディスコグラフィー中、最もポップなアルバムと言えるでしょう。

一方で、前作にあったニューウェイブ的な空気感は若干影を潜めており、そこで好みが分かれる作品かな、とも思います。
中域寄りでシャキシャキしたミックスも、前作よりゴージャスな音にはなっていますが、歌物感が強すぎると感じる人もいるかもしれません。

演奏面はまだ拙さが残りますが、その中で年長者としてグイグイとバンドを引っ張るアニイのドラムが聴きどころ。
特に、全キャリアを通してライブを盛り上げてきた「SEXUAL ×××××!」では、これぞアニイ!というタイトなビートを聴くことができます。ブリッジのタムビートからスネア16分連打のオカズは必聴。

ファン人気投票で必ず上位に入るセツナ系ビートロック「MY EYES & YOUR EYES」、”首筋に少し 美辞麗句の爪を立てた”の歌詞があっちゃんに似合いすぎ(でも作詞は今井さん)の「HYPER LOVE」なども収録。

BUCK-TICKで最も(唯一?)青春っぽい、若さと勢いの結晶です。

ROMANESQUE (EP 1988/3/21)

REMIXも収録したバラエティに富んだ初期EP

表題曲のREMIXを含む、5曲入りEP。ロックバンドでありながら、この時代からREMIXバージョンを収録していたことには改めて驚かされますね。

EPながら『SEXUAL ×××××!』よりも曲調のバラエティに富んでいる印象の1枚ですが、中でも注目は1曲目の「MISTY ZONE」。
BPM速めのニューウェイブ・パンクで、90年代中期以降はあまりライブで演奏されていませんでしたが、2010年代からに再びセットリストに入るようになり、アンコールなどで披露されていました。
原曲ももちろん良いのですが、ぜひ近年のライブバージョンを聴いてほしい1曲です。

SEVENTH HEAVEN (2nd 1988/6/21)

ポップな中に実験精神の萌芽が見られるセカンドアルバム

前作『SEXUAL ×××××!』から半年、EP『ROMANESQUE』からはわずか3カ月でリリースされたセカンドアルバム。
しかも当時はメジャーデビュー後のツアーやプロモーションで多忙を極めており、「時間がない中で慌ただしく録ったアルバム」とインタビューなどでも語られています。

ポップなメロディーを保ちながら、これまでよりキーボードを多彩に導入し、今井さんの実験精神が現れてきた作品です。
ちなみに本作のキーボードは、SOFT BALLETの森岡賢氏によるもの。本作のファンタジックな曲調とアレンジには、モリケンの貢献も大きいと思います。

しかし、前述の多忙さもあり、表現したい音楽に対して時間や経験値が足りていない印象を受ける作品でもあります。
BUCK-TICKビートロックの代表作「…IN HEAVEN…」、幻想的なバラード「ORIENTAL LOVE STORY」、敦司のエロス全開「VICTIM OF LOVE」など人気曲が収録されてはいるのですが、いずれも後にリアレンジアルバム『殺シノ調ベ』で完成をみる曲ですし、次作以降の進化と比較すると、まだ飛躍前の助走段階という感は否めません。

とは言え、本作での試行錯誤が次作以降の進化につながっていることも間違いないでしょう。
次々作『惡の華』から民族音楽的な音階・音色を取り入れ始めますが、前述の「ORIENTAL LOVE STORY」「VICTIM OF LOVE」に加え、「CASTLE IN THE AIR」にもその萌芽が見られます。

メジャーデビュー直後の狂騒の中で、音楽的に挑戦し始めた過渡期作と言えるのではないでしょうか。

TABOO (3rd 1989/1/18)

ダークサイドへ舵を切るターニングポイントとなった一作

ロンドンでレコーディングされ、オリコンチャート1位を獲得した出世作。
ダークで耽美、妖しく攻撃的というBUCK-TICKのパブリックイメージを確立したのは、間違いなく本作でしょう。

これまでのニューウェイブ、ビートロックの香りは残しながらも、より重たく、より暗く、より美しいゴシック・ロックの世界観を確立。
サイレンのようなギターと妖しげな囁きの交錯する1曲目「ICONOCLASM」の時点で、違うギアに入ったことがはっきりと分かります。
歌詞も櫻井作詞の割合が増え(前作までは半分以上が今井作詞)、エロスやバイオレンスをテーマにした内容が前面に出てきています。

ダークさが強調された分、『SEVENTH HEAVEN』までのポップさは意図的に封印されている印象があり、アルバム前半は低音で起伏の少ないメロディーの曲が中心。
しかし後半には、キャリア屈指の美しい展開と舞い上がるようなメロディーをもった「ANGELIC CONVERSATION」、レコード大賞で新人賞をとったヒットシングル「JUST ONE MORE KISS」が控えており、暗闇の中に光るポップセンスが癖になる1枚でもあります。

本作でダークサイドにバンドのアイデンティティを見出したBUCK-TICKは、ここからさらに深い闇に潜っていくことで、加速度的な進化を遂げることになります。
その第一歩となった記念碑的作品であることは疑いようがありません。

惡の華 (4th 1990/4/1)

遊びはここで終わりにしようぜ――。

上の歌詞の通り、本作からBUCK-TICKは別のバンドになったと思います。

前作までは、ニューウェイブならバウハウス、ビートロックならBOØWY、ゴシック・ロックならCUREなどの雛型があり、まだ線の細い声と演奏で、それらを追いかけながらオリジナリティを模索していた段階でした。

しかし本作から、櫻井敦司が太く魅力的な低音を響かせるようになり、バンドアンサンブルも強靭になり、そして今井寿が他の誰にも書けない曲を書きまくるようになりました。
バクチクは、『惡の華』でBUCK-TICKになったのだと思います。

それを象徴するのが、1曲目「NATIONAL MEDIA BOYS」のあり得ない譜割り、コード、メロディー。それをガッチリと組み合って演奏するバンドとカリスマチックに歌い上げるボーカル。
この曲はまさしくオリジナリティの産声です。

アルバム全体としては、前作『TABOO』のダークさを推し進めながら、中東風の音階や音色を匂わせた「幻の都」「MISTY BLUE」などでゴシック感を強めた作品になっています。

しかも、ただダーク&ゴシックなだけではなく、しっかりロックでポップ。
ギターロックバンドの力強さを爆発させた代表曲「惡の華」、性急なビートロックに漂うような美メロが乗る「LOVE ME」、古い映画のワンシーンのような「KISS ME GOOD BYE」など、名曲揃いです。
(アルバム未収録ですが「惡の華」カップリングの「UNDER THE MOONLIGHT」も隠れ名曲!)

2015年には発売25年を記念し『惡の華 2015mix盤』もリリースされました。次作『狂った太陽』以降、ほとんどの作品でエンジニアを務める比留間整氏がミックスし直したバージョンで、2020年代の作品と比べても遜色ない分厚さ・立体感の音像に変わっています。
サブスクでも両方聴けるので、ぜひ聴き比べてみてください。


BT1987-1990

『HURRY UP MODE』から『惡の華』までの時期は、言うなれば黎明期。

群馬の仲良しヤンキーが、BOØWYやバウハウスに憧れ、髪を立て、ド派手なメイクで「誰にも真似できないことをしよう!」と走り続けていた時期です。

『TABOO』でたどり着き、『惡の華』で血肉にしたダークな世界観は、BUCK-TICKの表現の方向を決定付けました。
また、この後30年以上にわたり、どんな尖った音楽性になっても決してカルトバンドにならず、メジャーシーンで活躍し続けられている最大の理由は、最初期3作がもっていたポップネスを保ち続けているからだと思います。

次回は、第一次黄金期である90年代。
5th『狂った太陽』から9th『COSMOS』までをレビューします。


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