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BUCK-TICK 全オリジナルアルバムレビュー【5】2016~2023

5日間連続で、BUCK-TICKの全オリジナルアルバム23作品をレビューしてきました。(今気付いたんですが、23+インディー盤で全24作品でしたね……。あえて直さないでおきます)
ついに5回目、ひとまず最終回です。

前回は、『十三階は月光』から『或いはアナーキー』をレビューしました。

第5回は、20th『アトム 未来派 No.9』から23rd『異空 -IZORA-』までをレビューします。
(※)なお、ベスト・リミックス・ライブアルバムなどは省いていますが、アルバム未収録のシングル、EPについてはレビューしています。

アトム 未来派 No.9 (20th 2016/9/28)

進め、未来だ!最新型のニューウェイブロックバンド

レコード会社ビクター復帰第1作にして、20枚目のアルバム。
1曲目からダブステップにオリエンタルな呪言メロディーが乗る「cum uh sol nu -フラスコの別種-」、続いてハードコアテクノとバンドが一体になって爆走する「PINOA ICCHIO -躍るアトム-」と、ハイテンションなニューウェイブサウンドに圧倒されます。

曲調・演奏・アレンジはめちゃくちゃ熱量があるのに、サウンドの質感はどこまでも冷たいという、本当にどこにも類を見ない「最新型の流線形 ニューウェイブロックバンド」の堂々たる誕生です。

本作のさらなる魅力は、そこに加わる歌謡曲性とラテンフレーバー。「THE SEASIDE STORY」「Cuba Libre」に顕著な、ラテンのリズムでメロディーが昭和歌謡(ここまではわかる)、なのにサウンドは激ニューウェイブ(意味がわからない)というジャンルを超えた面白さ。
掛け合いソング「FUTURE SONG -未来が通る-」も、パンキッシュなラップの今井パートに対して、櫻井パートは突然”ベサメムーチョ”ですからね。

本作以降、歌謡曲とワールドミュージック的リズムの折衷は1つの特色になっていきますが、それが櫻井さんの表現スタイルにマッチしたことも大きいのではないでしょうか。中でも、物語的に情熱・愛・死を歌うラテン音楽は櫻井さんと親和性が高かったのだと思います。

そして、ずっとピークタイムが続く本作で最も美しい瞬間。それがアルバムの最後「NEW WORLD」です。
BUCK-TICKのポップネス、バンドアンサンブル、美しいシーケンスの融合、そのすべてが味わえる名曲で、リリース以降、ターニングポイントとなるライブで必ず演奏されています。

”名前も知らない 星屑 綺麗ね 誰もひとりね”

闇と孤独、そしてその先の希望について歌った歌詞で、これ以上のものはないと私は思います。

No.0 (21st 2018/3/14)

幻想小説のような世界観をエレクトロニカで構築した傑作

デビュー30年を超えリリースされたアルバム。
前作『アトム 未来派 No.9』が出たときの「もしや、BUCK-TICKは今黄金期なのでは?」という多くのファンの予感が、確信に変わった傑作です。
実際に本作を最高傑作に推すファンも少なくないと思います。

前作の延長線上にあるニューウェイブサウンドながら、より現代的なエレクトロニカに接近した曲が多く、爆裂EDMに乗せて猫可愛い!しか言わない「GUSTAVE」、BUCK-TICK流テクノポップの完成形「光の帝国」など、極上のダンスミュージックを収録。
他にも、最後の最後のビートチェンジがたまらない、アンビエントテクノとバンドを美しく織り合わせた「Moon さよならを教えて」や、空間系のギターと高速の打ち込みリズムが絡み合う幻想曲「Ophelia」など、エレクトロニカを駆使した構築美が印象的です。

そして、本作の重要なポイントになっているのが、軸となっているテーマ性と物語性。
インタビュー記事で、インスピレーション元の1つとして大正~昭和期の作家・稲垣足穂の名前が挙げられていますが、昭和前期の幻想小説のようなレトロでどこかおどろおどろしい世界観が全体に漂っています。

そうした幻想奇譚のような雰囲気を保ったまま、終盤にはゴシック大作「BABEL」、戦争の恐ろしさと犠牲を痛烈に描いた「ゲルニカの夜」へと展開していき、最終曲「胎内回帰」で生命が巡るように再び1曲目の「零式13型「愛」」へと円環していきます。
この美しい構成は、これまでコンセプチュアルな作品やライブをいくつも作ってきたBUCK-TICKの真骨頂と言えるでしょう。

映画や小説に没入しているかのような、構築された世界観に圧倒される傑作アルバムです。

獣たちの夜/RONDO(Single 2019/5/22)

ダークなタンゴに乗せたネオ昭和歌謡

両A面シングル。「獣たちの夜」は次作『ABRACADABRA』に収録されるエレクトロロック曲ですが、「RONDO」がアルバム未収録A面曲なのでレビューに含めます。
黒色すみれによるヴァイオリン&アコーディオンの入った「RONDO」は、アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』エンディング曲。ダークなタンゴ歌謡がニチアサに流れるのは若干シュールだな……と思いつつも、早起きして観ました。

クラシック的な曲調に歌謡曲メロディーと歌唱が映える、BUCK-TICKネオ昭和歌謡の流れにある1曲。

同様の曲調では、33rdシングル『形而上 流星』のカップリングに収録されていた「VICTIMS OF LOVE with 黒色すみれ」もおすすめ。

ABRACADABRA (22nd 2020/9/21)

疫病退散!真昼の百鬼夜行の如く踊り狂うダンスアルバム

33年目のメジャーデビュー記念日にリリース。
コロナ禍の中で制作・発表されたアルバムで、タイトルには「疫病退散」の意味が込められています。

前2作と異なるのは、その狂騒的な陽のオーラ。アッパーなダンスビート曲がアルバムの約半分を占め、クリスタルな音色のシンセと獣の叫び声のような歪んだギターが、4つ打ちのキックの上で暴れ回ります。

GARIのYOW-ROW氏のアレンジでよりダンサブルになった「獣たちの夜 YOW-ROW ver.」、『Six/Nine』期を思わせる狂気が迫る「Villain」、ボーカルもコーラスもノリノリのディスコソング「ダンス天国」、スナック・あつ子ママの部屋「舞夢マイム」など、コロナ禍の閉塞感を吹き飛ばすように、やり過ぎなくらい派手でけばけばしい楽曲が乱れ打ち。

その一方で、コロナ禍で一層閉じた状況に追い込まれた人に寄り添うような楽曲があることも見逃せません。
辛い生からの逃避をある種の安らぎとして描いた「MOONLIGHT ESCAPE」「凍える」の2曲は、櫻井さんにしか描けない孤独に対する手の差し伸べ方だと思います。

幻想的な歌詞や世界観の多いBUCK-TICKですが、個人的に本作は最も現実に根差していると感じます。狂騒的なダンス曲も、現実の2020年の東京で叫んでいるようなイメージです。

それを象徴するのが「ユリイカ」「忘却」のラスト2曲。
最初期のビートロックの進化系サウンドに乗せて“PEACE!”と何度も叫ぶ「ユリイカ」と、 “忘れ去られていけばいい 通り雨のように”と歌う壮大な「忘却」。
コロナ禍に直面し混乱する世界の中で、希望と痛みを正面から歌っているように聴こえます。

真昼に現れた百鬼夜行のように騒がしい、しかし同時に、コロナ禍でより一人一人が分断されていく世界への祈りが込められた名盤。

Go-Go B-T TRAIN (Single 2021/9/21)

非難GO-GO!BUCK-TICKのダサさはキュートさの証

34年目のメジャーデビュー記念日にリリースされた4曲入りシングル。

「Go-Go B-T TRAIN」は、35年目を迎えるバンドをオンボロ列車に例えて歌うロックンロールブギー。タイトルといい、“ヘイヘイヘイ!”という掛け声といい、初めて聴いたときは正直ずっこけたんですが、ライブで聴くとすごく盛り上がるんですよね。
BUCK-TICKには、ダサいけど妙に中毒性があって気が付くとハマっているタイプの楽曲がありますが、それの代表格だと思います。BUCK-TICKのキュートさが詰まっているというか。

2曲目は「恋」。星野さんによるバラードですが、浮遊感のあるエレクトロアレンジが光る隠れた名曲だと思います。
系譜でいうと2001年のシングル『21st Cherry Boy』のカップリング「薔薇色の日々」(こちらも隠れた名曲!)に近い雰囲気ですね。

そして「唄(Ver.2021)」「JUST ONE MORE KISS(Ver.2021)」。どちらもコンセプトライブ「魅世物小屋が暮れてから~SHOW AFTER DARK~」で披露されたバージョンです。
「唄(Ver.2021)」は、3枚目のトリビュート盤で椎名林檎さんがカバーされたバージョンを参考に、リズムがシャッフルになったスウィングアレンジです。
「JUST ONE MORE KISS(Ver.2021)」は、原曲よりもスローでアコースティック。聴き比べると、原曲は若く激しい恋の最中という感じで、Ver.2021はその恋を大人になって想い出しているようなイメージでしょうか。
サビから入るキラキラシンセも印象的で、メロディーの良さが一層引き立っています。

異空 -IZORA- (23rd 2023/4/12)

暗闇で咲き乱れる命を歌う。櫻井敦司が描く世界観の完成形

暗く幻想的な世界観の中に、反戦のメッセージや社会に居場所のない孤独感、生と死と別れの死生観など、ボーカル櫻井敦司が長年書き続けてきたテーマを凝縮した作品。

暗いといっても、ただ陰鬱で重たいというわけではなく、静謐な美しさで統一されている印象です。バンドの音を中心にシーケンスやシンセ、ときに弦楽が幻想的なイメージを広げ、ここ数作に比べると派手さを抑え、繊細に音を重ねていくサウンドになっています。

1曲1曲にはっきりとテーマが見え、サウンドもそれに寄り添うように展開。
「SCARECROW」の”逃げられない”という歌詞を追い立てるように変わるビート、「ワルキューレの騎行」の怒りに呼応するようなヘヴィなエレクトロロックなど、がっちりと詞世界とサウンドが組み合っています。

そして、本作の世界観が特に強く表現されているのが、以下の楽曲ではないでしょうか。

戦争で犠牲になる市民の視点で書かれた「さよならシェルター」。
死を“悲シクハ無イ コレデ自由ダ”と歌う「太陽とイカロス」。
トランスジェンダー女性の心情を歌う「ヒズミ」。
そして、まるで人生の最期の瞬間を切り取ったような「名も無きわたし」。

ライブパフォーマンスでは、「さよならシェルター」で子供を抱きしめる仕草が、「ヒズミ」で歌唱前にヒズミ本人を演じた語りが加えられ、その表現はさらに突き詰められていました。

櫻井さんはデビュー当時、歌が上手いボーカリストでも、圧倒的な表現者でもなかったと思います(カリスマ性は最初からあったと思いますが)。
30年以上、迷いながら努力と研鑽を続け、生と死というテーマや幻想的なゴシックの世界観、演じるように歌う表現スタイルを血肉にしていき、50歳を超えて、他の誰にもできない表現にたどり着いた人だと私は思います。

その到達点が『異空 -IZORA-』です。
35年以上をともにしてきたバンドメンバーとともに、櫻井敦司がたどり着いた境地。


BT2016-2023(Continuous)

常に最新作が最高傑作。
BUCK-TICKを語る際、いつからか言われるようになった言葉ですが、2010年代後半以降のBUCK-TICKは、正にその言葉通りの第二次黄金期だと思います。

『アトム 未来派 No.9』『No.0』『ABRACADABRA』『異空 -IZORA-』は、方向性の違いはあれど、完成度と前作からの進化という意味では全く甲乙つけ難い、凄まじい傑作群です。

37年間、休むことなく24枚もの作品を発表し続け、そのたびに変化を追い求めてきた稀有なバンド。
永遠に続きそうだったその歩みは、2023年10月19日に突然、櫻井さんの急逝という形で止まることになりました。

訃報を聞いたあの日から、私はこれまで以上にずっとBUCK-TICKを聴いてきました。そして、聴き続ける中で、1枚ずつを語っておきたいという気持ちが強くなりました。
それも、あの日から1年を迎える前に、そして新しいBUCK-TICKの音を聴く前に、書いておかないといけない。

今井さん、星野さん、ユータ、アニイはBUCK-TICKを続けると言ってくれました。
私は、第二期BUCK-TICKがめちゃくちゃ楽しみで、だからこそ、それが始まる前に書きたかった。

聴き返すと、本当にどのアルバムも大好きで、思い出があり、聴くたびに発見がありました。1枚聴き返すたびに心の中のアルバムランキングは入れ替わり、何度も推敲しました。

きっと、人によって好きなアルバムも印象も違うと思うので、私のレビューに納得いかない人もたくさんいると思います。でも、その果てしない広さと深さがBUCK-TICKの最大の魅力で。
私自身、noteやブログ、SNSでさまざまなBUCK-TICK評やレビューを読んで、頷いたり驚いたりしてきました。この記事はそうしたレビューの影響も受けていると思います。この場を借りて、感謝を。

もし、私の記事を読んで、誰かがBUCK-TICKを聴いてくれたら、そしてまた語ってくれたら、嬉しいです。

読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。

それと最後に、手前味噌で大変恥ずかしいのですが、下記動画でもBUCK-TICKについて喋っています。良かったら、観ていただけたら嬉しいです。


次回は、雷神・風神が暴れ回る第二期BUCK-TICKの幕開け。
24th『スブロサ SUBROSA』から、27th Albumくらいまでが出たタイミングでレビューします。
そんなに遠くない未来だと信じていますので、もし良かったらその時にまたお会いしましょう。

読んでいただき、本当にありがとうございました。
ともに青い春を駆け抜けましょう。
人生は愛と死!

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