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BUCK-TICK 全オリジナルアルバムレビュー【2】1991~1996

5回に分けて、BUCK-TICKの全オリジナルアルバム23作品をレビューしたいと思います。
前回は、『HURRY UP MODE』から『惡の華』をレビューしました。

第2回は、5th『狂った太陽』から9th『COSMOS』までをレビューします。
(※)なお、ベスト・リミックス・ライブアルバムなどは省いていますが、アルバム未収録のシングル、EPについてはレビューしています。

狂った太陽(5th 1991/2/21)

実験型の音楽スタイルと「生と死」の世界観を確立した金字塔

バンドとエレクトロニカを組み合わせ、アルバムごとに実験するかのように違う音楽性へと昇華するBUCK-TICKのサウンドスタイル。それを確立した金字塔的作品です。

最強イントロからブチ上げる「スピード」、深夜の高速を暴走する「MACHINE」、エレポップ精神異常「MAD」、サイケデリックでドラッギーな「Brain, Whisper, Head, Hate is noise」など、前作までのダークさにSF的な疾走感が加わり、聴くサイバーパンクとでも言うようなアッパーな作品に仕上がっています。

本作からシーケンスの同期サウンドが導入され、一気に音数が増えていますが、ただバンドの上で打ち込みが鳴っているわけではなく、バンドとエレクトロニカが浸食し合うように融合しているのがBUCK-TICKサウンドのキモ。
この点に関しては、本作からエンジニア比留間整氏が参加したことにより、今井さんが元々好んでいたテクノ系のサウンドが、レコーディングで再現可能になったことが大きいとインタビューでも語られています。
以降、比留間氏はほぼ全ての音源でエンジニアを担当されています。

また、本作を境に櫻井さんの詞世界が「生と死」に向かって深化していくことも非常に重要です。母親との死別に際して書かれた「さくら」「JUPITER」、そして「太陽ニ殺サレタ」にはそれが色濃く現れており、生と死、別れは彼が生涯かけて書き続けるテーマになっていきます。

さらには、ギタリストの星野さんがコンポーザーとして覚醒し始めたことも忘れてはいけません。バンドの代表曲の1つであるバラード「JUPITER」はもちろん、タンゴ調の「エンジェルフィッシュ」など、今井さんとは違う作風で音楽性を広げています。

マッドサイエンティスト今井寿のリミッター解除、櫻井敦司の死生観という生涯のテーマ、名曲メイカー星野英彦の覚醒。それが揃ったことで生まれた大傑作です。

個人的な話になりますが、BUCK-TICKで最も好きな作品を1枚選べと言われたら、私は『狂った太陽』を挙げます。私が死んだら、棺桶に『狂った太陽』を入れてください。

殺シノ調ベ This is NOT Greatest Hits
(6th 1992/3/21)

覚醒したサウンドで過去の名曲をリアレンジ

リアレンジベストアルバムですが、公式に6枚目としてカウントされています。

前作でスタイルを確立したBUCK-TICKが過去曲を新録。『狂った太陽』の流れを汲んだテクノ・エレクトロニカを取り入れた形で、どの曲も大胆にリアレンジされています。
選曲や曲順も単純なヒットパレードではないため、ファンの間でもベスト盤というより、ほぼオリジナルアルバムとして認識されていると思います。

大化けした曲としては、『SEVENTH HEAVEN』に収録されていた「VICTIMS OF LOVE」「ORIENTAL LOVE STORY」が白眉。
特に、幻想的な曲調にコーラスやドラムの厚みが加わった「ORIENTAL LOVE STORY」は本作のベストトラックでしょう。

アレンジの進化は言わずもがなですが、歌唱力と演奏力の進化にも驚かされます。
本作には未収録ですが、そもそも『殺シノ調ベ』を作るきっかけとなったのが、シングル『MAD』のカップリングに収録された「ANGELIC CONVERSATION」の新録バージョン。こちらはアレンジは大きく変わっていないものの、原曲と聴き比べると音の厚みが段違いです。特に、12弦ギターの美しさと、ボーカルの表現力の進化には耳を奪われます。

初めての人に80~90年代のBUCK-TICKを薦めるなら、本作からがいいかもしれませんね。音楽スタイルと世界観を確立した上での名刺代わりとなる充実作だと思います。

「…IN HEAVEN…」~「MOON LIGHT」の最強メドレーは、本作のバージョンも最高ですが、ライブだとさらに最高。
ライブ盤『CLIMAX TOGETHER -1992 compact disc-』でぜひ聴いてみてください。ファンのシンガロングで泣く!

darker than darkness -style 93-
(7th 1993/6/23)

暗闇よりももっと暗く。底なし沼へ誘う超重量級アルバム

そのタイトルの通り、BUCK-TICKのディスコグラフィーの中でも特に暗く、重く、難解なアルバム。
ただ、一度その魅力にハマってしまうと底なし沼のように引きずり込まれる作品で、本作をフェイバリットに挙げるファンも多いです。

『狂った太陽』『殺シノ調ベ』で目立っていたテクノ系シーケンスやギターシンセはほぼ排除、生のバンドサウンドが軸になっています。
ヘヴィなツインギターに対してリズム隊はレゲエやファンク、ジャズをルーツにしたリズムパターンをループし、さらに曲によってはダブ的な音響効果やノイズも飛び交うという超オルタナティブなサウンド。

とにかく1曲目の「キラメキの中で・・・」を聴いてみてください。
初めて聴いた時、私はまだ中学生だったのですが、めちゃくちゃ怖くて、間奏でCD壊れたと思いました……。

これまでの作品よりも、リズムや音響面を重視した音楽性となっているため、バンドサウンド以外の音楽などを幅広く好む人の方がハマりやすいかもしれません。
特に聴き所は、ストイック過ぎるユータのベース。横揺れのフレーズを淡々とループする楽曲が多く、本作の底なし沼感を担っているのは、間違いなくこのベースでしょう。

難解ではありますが、「ドレス」「die」といった人気の高いシングル曲も収録されており、一度体にしみこむと二度と抜け出せないアルバムです。

ちなみにCDだと収録曲が「93」と表示され、無音とノイズを乗り越えて最後まで再生し続けると、隠しトラック「D・T・D」が聴けるという仕様でした。
これもめちゃくちゃ怖かったし、やっぱりCD壊れた……?と思いました。

Six/Nine (8th 1995/5/15)

音楽的実験と自己内省の曼荼羅。ロック史に残る大名盤

16曲入り70分超。テクノ、ノイズ、インダストリアル、アンビエントをバンドにぶち込み、唯一無二のオルタナティブサウンドに昇華した異形の大名盤。

ポエトリーリーディングで幕を開ける「Loop」、ヘヴィかつ本作唯一のストレートなロック「love letter」、聴く変態セックス「君のヴァニラ」、宇宙へ輪廻していくシューゲイザーロック「鼓動」。
このオープニング4曲だけでもすごいのですが、ラストまで一切中弛みなく、1曲1曲の実験性とキャラクターにぶん殴られる非常に濃い作品になっています。

それがただの実験作で終わらず傑作として結実している理由は、楽曲自体の強度に加え、音響面での心地良さにあると思います。
いわゆるバンドサウンドとしてギター・ベース・ドラム・ボーカルを立たせるミックスではなく、曲によってはアンビエント的に楽器と声を均質に溶け合わせるようなミックスになっており、それが聴いていてどんどん気持ち良くなっていく。
その点において、本作はエンジニア比留間さんの代表作でもあると思います。

また、リズム隊の徹底したストイックさがテクノ的な反復の快楽を産んでいることも、本作の見逃せないポイントです。

そして、これだけ尖ったアルバムに統一感をもたらしているのが、櫻井さんの歌詞でしょう。
徹頭徹尾、自己否定と「それでも生きていたい」という煩悶を繰り返し、ときに「それも全部嘘だ」と煙に巻く。
それが本作の混沌としたサウンドと一体になることで、曼荼羅のような自己内省の世界観を作り上げています。

個人的に最も好きな作品は『狂った太陽』だと書きましたが、音楽的インパクトから最重要作を挙げるなら『Six/Nine』でしょう。
音楽誌やネット上の音楽評論でも、もっと評価されるべき1枚だと思います。

COSMOS (9th 1996/6/21)

ポップな笑顔で超絶ノイズ。まさに猛毒入りキャンディ

『darker than darkness』と『Six/Nine』で闇の果てまで潜ったBUCK-TICKが、あっけらかんとした歌物ギターロックに回帰したアルバム。
……に見えて、実はかなりひねくれた作品です。

最初期を彷彿とさせるバンドサウンドで、メロディーもポップな曲ばかり。テレレレレレ~のギターリフで押すシングル「キャンディ」、久々の疾走エイトビート「Ash-ra」などライブで盛り上がる人気曲も収録されています。

しかし、ただ素直なバンドサウンドといかないのがBUCK-TICK。
サウンドの軸としてノイズやテクノ、アンビエントを強く押し出したのが前作『Six/Nine』なら、歌物ギターロックの裏地にノイズやテクノ、アンビエントをたっぷり染み込ませたのが『COSMOS』です。

「キャンディ」のアルバムミックスは1曲通して轟音ノイズが鳴りっぱなしですし、「Ash-ra」はアウトロで突然アンビエント風になります。
めちゃくちゃポップな顔をして、実はあり得ないアレンジをしまくっているのが本作の魅力だと思います。

もう一つ本作の特徴を挙げるなら、独特のトリップ感。スペーシーな音色とちょっとラフに跳ねたリズムが混ざり、他の作品に比べると、どろりと酩酊していくような心地よさがあります。
特に中盤の「SANE」「Tight Rope」「idol」の浮遊感は本作のハイライトでしょう。ライブでファンがシンガロングする名曲「COSMOS」も、穏やかな死後の世界へ誘うようなチルアウト感があります。

ポップな笑顔を振りまきながら、実はBUCK-TICKで一番キマっているアルバム。

個人的な思い出話ですが、本作が初めてリアルタイムで買った新譜でした。
発売日に手に取った真っ白のCDケースは忘れられません。一生大好き!


BT1991-1996

この時期は、名作連発の第一次黄金期だと思います。

BUCK-TICKというバンドの本質は、「眩しい暗闇」とでも言うような、ギラギラした派手さとどこまでも沈む重たさの両極にあると思うのですが、それが無双状態で発揮されているのが、『狂った太陽』から『COSMOS』の時期ではないでしょうか。

それから、アルバムレビューのため割愛したのですが、この時期はカップリング曲も「ナルシス」「六月の沖縄」「楽園(シングルバージョン)」「君へ」など名曲が揃っています。ぜひそちらも聴いてみてください。
いずれも星野さん作曲ですが、彼の曲調の多彩さは実はカップリングで発揮されていることが多いので……!
ベストアルバム『BT』でまとめて聴くことができます。

『COSMOS』を最後に、BUCK-TICKはデビューから所属したレコード会社ビクターを離れ、同時期に事務所も独立。
環境を変えながら、より音楽的探求を深めていきます。

次回は、90年代後半~00年代前半。先鋭化していく実験期です。
10th『SEXY STREAM LINER』から13th『Mona Lisa OVERDRIVE』、そしてアルバム未収録シングル『幻想の花』までをレビューします。


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