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100回目 "The Four Horsemen" を読む(Part 4:読了回)4人の討論会の後半部分。「神の物語に関わる虚構は解る、しかし信仰は捨てられない」と言う人々の存在をどう考える?

今回の読書では、討論会の後半部分 'A Discussion II' を読み切ります。


1. 後半部分の冒頭、 Sam Harris は「理屈」と「心」を一つにできない人の多いことに焦点を当てて討議しようと提案します。

[原文 1-1] Harris: I think we have to highlight the fact that it's possible for people to be shown the contradictions internal to their faith, or the contradiction between their faith and what we've come to know to be true about the universe. The process can take minutes or months or years, but they have to renounce their superstition in the face of what they now know to be true.
[和訳 1-1] 《Harris の発言》 私たち(Atheists)の役目として、我々人間には一人ひとりが心の奥に持っている信仰の内に潜む内部矛盾に気が付くことが出来る能力が備わっているという事実を照らし出す(強く宣伝する)ことが必要だと私は思います。内部矛盾というか、彼ら自身の信仰と現代の私たちが知識として獲得したこの宇宙における様々な事実との間にある矛盾の存在に気が付くことが出来るという事実を広く知らしめるべきだと私は思います。これを達成するには何分どころか何か月も、あるいは何年もかかるでしょう。しかし、今この時点で自分たちが事実であると知っていることに鑑みて、心の奥に秘めていた虚構の物語(迷信)を表立って放棄することが必要です。

Lines between line 15 on page 85 and line 5
on page 86, "The Four Horsemen", Bantam Press

Harris の提案を受けた Dawkins は即座にこの Process に立ちはだかる困難を、具体的な例を取り上げて明確にします。

[原文 1-2] Dawkins: I was having an argument with a very sophisticated biologist who's a brilliant expositor of evolution and still believes in God. I said, 'How can you? What's this all about?' And he said, 'I accept all your rational arguments. However, it's faith.' And then he said this very significant phrase to me: 'There's a reason that it's called faith!' He said it very decisively, very - almost - aggressively: 'There's a reason that it's called faith.' And that was, to him, the absolute knock-down clincher. You can't argue with it, because it's faith. And he said it proudly and defiantly, rather than in any sort of apologetic way.
[和訳 1-2]《Dawkinsの発言》 私には理性に秀でた生物学者と議論したことがあります。その方は生物進化の機構の優れた解説者であるのに、それに加えて神を信じていらっしゃたのです。私は「どうして同時にそれらを受け入れることが出来るのですか? 一体どうなっているのですか?」と尋ねたのです。返事は「私はあなたが話される理論についてはその全てに同意いたします。しかしあなたご指摘の問題は信仰なのです。」というものでした。それに続けてこの方は重大に言葉を私に伝えました。「この世には信仰と呼ばれるところの論理があります。」との言葉でした。この言葉は非常に断定的なトーンで発せられました。攻撃的な口調ともいえるものでした。「信仰と呼ばれるところの論理があります。」という言葉は「相手が拒否するのを許さないぞ」というこの人の決意の表明でした。相手が誰であれ反論は許されません。なぜならそれが宗教なのです。もう一つ、この人この時の様子についてですが、その口調には誇りと頑固さが漂い、私が予測した「相手の許しを請う」類の気持ちとは真逆の雰囲気が満ちていました。

Lines between line 6 and line 17 on page 86,
"The Four Horsemen", Bantam Press

「And there's nothing, I suppose, neurologically wrong with that; there's no reason why one shouldn't have a brain that's split in that kind of way. (思うにそのような矛盾を抱えていることが精神学的に異常なのではないのです。そのように二つに分離した脳を持つことが病的だから駄目だとする科学的根拠はないのです。」という Dawkins の発言を受けて、脳の機能の研究を専門にする Dennett がこの辺りの問題を整理します。

Dennett の纏めマトメを聞いた Hitchens はこの「二つに分離した脳」なる現象を cognitive dissonance という表現で、もう一歩、明確化してくれます。

[原文 1-3] Dennett: But it is unstable in a certain way. And I'm sure you're right that people do this, and they're very very good at it. And they do it by deflecting from it. Let's start focusing attention ---
Dawkins: But how can you live with a contradiction in your---?
Dennett: By forgetting that you're doing this and by not attending to it. I think what I would love to do is to invent a memorable catchphrase or term that would rise unbidden in their minds when they caught themselves doing that. And then they would think, 'Oh, this is one of those cosmic shifts that Dennett and Dawkins and Harris and Hitchens are talking about. Oh, right! And they think this is somehow illicit.' Just to create a little more awareness in them of what a strange thing it is that they're doing.
HItchens: I'm afraid to say that I think that cognitive dissonance is probably necessary for everyday survival. Everyone does it a bit.
[和訳 1-3] 《Dennett の発言》 しかしそれ《訳注:split-brain の状態》はある意味で不安定です。あなた方がおっしゃる様に人間とはそのような行為をするのです。私もこのことには確信があります。人間は一般にこの種の行為に長けています。人間はその矛盾から目を逸らすことでそれを実行します。この辺の事情に焦点を絞って話し合いましょうよ。
《Dawkins の発言》 そうは言っても、人々は心の内に矛盾を抱えたままどのようにして日常を送るのでしょうね?
《Dennett の発言》 そんなことを頭から放り出して気にしないことで、煩わずに日々を過ごせるのです。私は自分が記憶に残りやすいキャッチフレーズというか短い表現を発明できたら良いなと思います。自分が矛盾を抱えていることに気が付いた途端に、思い出そうとしなくとも頭に浮かび上がってくるような言葉です。そうなると、当人は「ああ、これが Dennett、Dawkins、Harris そして Hitchens が警鐘を鳴らしている例の重要な事態の一つだな。そうだそうだ、先生方はこれが悪だとおっしゃっているのだな。」と直ぐに気付くという訳です。このように少しばかりとはいえ、人々をして、自身が行っている事態の不健全さに思いをはせる機会を増やしてあげるのです。
《Hitchens の発言》 少し皆様に逆らうようで気が引けるのですが、私は人々にとって認識間の齟齬を問題視しない生き方は日常生活の維持にとって不可欠だと思うのです。誰もがこの種の齟齬を問題視することなく暮らしています。

Lines between line 27 on page 89 and line 16
on page 90, "The Four Horsemen", Bantam Press


2. イスラム教の人々、国々、社会に対して彼ら Atheists は何ができるのか、キリスト教指導者たちがばらまく「虚構の物語」と同様、難問山積です。

'A Discussion II' の読者は、前段に引用したいらだちを彼らと共有した後、「キリスト教にまつわる虚構の物語よりも自然科学や俗世界にある真実の追求の方がより大きな満足感を私たちにもたらしますよ」といった趣旨の発言(Dawkins)や、「あなたは本当に宗教・日曜日に教会に行く人々の全くいない社会に住みたいのですか」との自問自答を楽しく読むことになります。

その次にテーブルに取り上げられるのがイスラムです。Islam の意味を辞書OALD で確認すると、the Muslim religion または all Muslims and Muslim countries in the world とあります。

[原文 2-1]Dennett: But let's talk about priorities. If we could just get rid of some of the most pernicious and noxious excesses, what would be the triumphs you would go for first? What would really thrill you as an objective reached? Let's look at Islam as realistically as we can. Is there any remote chance of a reformed, reasonable Islam?
[和訳 2-1] 《Dennett の発言》 ここで我々、優先順位を考えましょうよ。最も邪悪で酷い苦しみを生み出している様々な事情の中のいくつかを、もし私たちに取り除くことができるとしたら、皆さまが第一番に勝利したいと思われる事情は何なのでしょう? 皆さまが最も心動かされる攻撃目標は何でしょうか? イスラム社会をできるだけ現実的に考えてみてください。何であれ一つでも改革が実現され、今より少しは論理的な制度が行われるイスラム社会が生まれる可能性が僅かであるにしろあると思える分野があるでしょうか?

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page 100, "The Four Horsemen", Bantam Press

上記引用の問い掛けへの応答(Harris)は次の通りです。Islam にまつわる Atheists のいらだちの的が jihad であり、women が置かれた環境です。

[原文 2-2] Harris: Only up to a point. And again, whether or not we're equipped to deliver it, we're not the most persuasive mouthpieces for this criticism. It takes someone like Ayaan Hirsi Ali, or a Muslim scholar, someone like Ibn Warraq, to authentically criticize Islam and have it be heard by people, especially the secular liberals of the sort who don't trust our take on this. But it seems to me that you have distinct historical periods in the history of Islam. You have a caliphate, or a Muslim country where Islam reigns and is unmolested from the outside, and then Islam can be as totalitarian and happy with itself as possible, and you don't see the inherent liabilities of its creed. The political scientist Samuel Huntington said, 'Islam has bloody borders.' It's at the borders that we're noticing this problem; it's at the borders of Islam and modernity. But, yes, you can find instances in the history of Islam where people weren't running around waging jihad, because they had successfully waged jihad.
[和訳 2-2] 《Harris の発言》 残念だが限界があります。いつものことながら、そのような影響力を及ぼし得る環境に私たちは置かれいるのかという問題です。意見を述べるとしても、私たちは影響力を持つ発言者とはとても言えないのです。Ayaan Hirsi Ali 氏のような方、もしくはモスリム学者である Ibn Warraq 氏のような人が必要でしょう。このような人による権威ある批判・論評でないと私たちが何を発言しようが人々、特に私たちの口からでる発言を鼻から信用しない類の人々である非イスラムのリベラリストたちの耳に這入ることはありません。しかし私が推測するに、あなた方はイスラムの歴史には他の期間と特質を異にする特定に期間があった事実をご存じのようです。イスラムが支配しているのにその領域外の国から武力的脅威を受けなかったカリフが支配する国、あるいはモスリムの国の存在です。当時これらの国におけるイスラム社会は独裁的な統治と閉鎖社会という限定付きの幸福な暮らしが共存したのでした。そこではイスラムの教義がもたらす筈の規則・規律が順守された証拠が見つかっていません。政治科学者であったサミュエル・ハンチントン氏は「イスラムの社会は血にまみれた国境が付きものだ」と述べました。イスラムに関わる問題を私たちが取り上げるがそれはいつもイスラムと近代的文化との境界絡みの問題です。そうは言っても、そう、私たちが思い出さねばならないのは、イスラム社会の歴史において、人々がジハードを口にして走り回ったりすることがなかった期間も存在することです。ただしそれはジハードを成功裏に成し遂げた後の期間に到来したものでした。

Lines between line 10 on page 100 and line 7 on
page 101, "The Four Horsemen", Bantam Press

[原文 2-3] Dennett: But what about women in that world?
Dawkins: Exactly. The suffering of women within those borders.
Dennett:
Even in the best of times.
Harris:
Of course.
[和訳 2-3] 《Dennett の発言》 ところで、彼らの社会における女性たちはどうなのでしょう?
《Dawkins の発言》 そうその件です。今話された境界エリアに暮らしている女性たちが抱える苦しみです。
《Dennett の発言》 一番うまく行っていた時代においても(この問題は)あったのです。
《Harris の発言》 勿論そうです。

Lines between line 8 and line 12 on page 101,
"The Four Horsemen", Bantam Press

[原文 2-4] Hitchens: But there's obviously some kind of syncretism. We know quite a lot now. There have been some wonderful books, Maria Menocal's book on Andalucia, for example, - on periods when Islamic civilization was relatively at peace with its neigbhours and doing a lot of work of its own on matters that were not jihadist. And I saw, myself, during the wars post-Yugoslavia, the Bosnian Muslims behaving far better than the Christians, either Catholic of Orthodox. They were the victims of religious massacres and not the perpetrators of them, and they were the ones who believed the most in multiculturalism. So it can happen. You could even meet people who said they were atheist Muslims, or Muslim atheists.
Dennett: Wow!
[和訳 2-4] 《Hitchens の発言》 ところで私が見知っているだけながら、文化の混合といえるような事態が実現し得たのです。今では私たち、結構沢山の事例を知っていますよね。すばらしい本もいくつか出版されています。マリア・メノカルの「アンダルシア」がその例です。それはイスラムの文化がイスラム以外の文化と交わりにあって、その社会活動が比較的平和裏に維持された時代の話です。その結果この時代にはイスラム社会独自の活動がジハードを行う人々とは関係を持たない形で盛んになりました。翻って私自身の経験ですが、ユーゴスラビアが分裂した後の時代の話です。ボスニアのイスラム教徒たちがクリスチャン、すなわちカソリック教徒やオーソドックス派教徒よりも素晴らしい活動を成し遂げました。彼らは宗教に発する大量殺戮事件の被害者であったのです。殺戮行動への参加者ではありません。更に言えば彼らは多種類の文化が共存する社会を強く支持する人々でした。この実例からするとこのようなことは起こり得るといえるのです。もっと長くこの地に滞在していれば無神論者のムスリムであるとかムスリムの無神論者であると自認するような人々にさえ巡り合うことができただろうと思います。
《Dennett の発言》 わあ、すばらしい!

Lines between line 13 on page 101 and line 7 on
page 102, "The Four Horsemen", Bantam Press


3. Michelangelo の絵や彫刻作品は宗教心がなくとも、人々の心を打つものであり得たでしょうかと内輪で自問自答します。

Atheists の一人である Hitchens は宗教抜きに彼の作品の存在は考えにくいと自分の気持ちを吐露します。Dawkins は明確に Hitchens に反対します。

[原文 3] Hitchens: I think it's true we can't know, with devotional painting and sculpture, whether the patronage did or didn't have a lot to do with it. But I can't hear myself saying, 'If only you had a secular painter, he would have done work just as good.' I don't know why -- and I'm quite happy to find that I don't know why -- I can't quite hear myself saying it.
Dawkins: What? That Michelangelo, if he'd been commissioned to do the ceiling of a museum of science, wouldn't have produced something just as wonderful?
Hitchens: I some way, I'm reluctant to affirm to believe that.
Dawkins: Really? I find it very, very easy to believe that.
[和訳 3] 《Hitchens の発言》 敬虔な信仰心の表象である絵画作品や彫像作品に関して、その注文主がどこまで大きな影響力をもっていたか、それを知るすべは私たちにはありませんというのが定説で、それはその通りであると私も思います。しかしながら、私には「もし宗教心の無い絵描きがいたとして、果たして同様に素晴らしい絵画作品を残せただろう」という発想が起こりません。なぜそうなのかは私にも分かりません。更に言えばそれが分からないことに不満を感じることもありません。私にとって、宗教心無しでそのような作品ができたろうという発想は全く起こりません。
《Dawkins の発言》 何ですって? あのミケランジェロですが、もし彼がどこぞの科学博物館の天井画を描くよう注文を受けていたとしたら、彼はあのように素晴らしい天井画を残せてはいなかったろうとおっしゃるのですか?
《Hitchens の発言》 どういう訳か、私は素晴らしい天井画になったろうとは思いたくないのです。
《Dawkins の発言》 本気ですか? 私には素晴らしい天井画になったろうと思うのは極めて簡単ですよ。

Lines between line 19 and line 25 on page 107,
"The Four Horsemen", Bantam Press


4. Study Notes の無償公開

今回の読書はこの本 "The Four Horsemen" の最後の部分、合計 45 頁程です。この部分に対応するStudy Notes を以下に無償公開します。ご自由にお使いください。Word 形式と PDF 形式の二種類ですが、双方の中身は同じです。