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インスタントフィクション「12月」

作・高山遥

夕方には顔を出すと言っていたのに、結局あいつは来なかった。
タイムカードを押して店を出る。
西から吹く風が冷たい。
レポート課題の締め切りを思い出した。
ため息をつく暇もない。
コンビニに寄って暖かい飲み物を買う。
レジに並ぶ。
開いた財布の中には、今朝祖父から貰った一万円が。
「これでうまいもんでも食え」なんて言いながら渡されたけど、正直使い道に困る。

コンビニを出てしばらく歩くと駅前の大きな交差点に出る。
街はキラキラして浮かれているけど、明日になればまた元通りだ。
ふと、後ろに気配を感じる。
振り返ると、あいつが気まずそうにして立っていた。
「これ」
「なに?」
「ごめん今日、行こうと思ったんだけど、気まずいかなって思って」
そういって渡された紙袋は意外と重たい。
「ありがとう」の声がバイクの音でかき消される。
遠くで誰かの舌打ちが聞こえた。
街灯の明かりは、私の目の前に途絶えることなく続いている。
「どうしよっか」
「私、課題やらないと」
「つまんないの」

これから長い夜が始まろうとしている。
街は寒さに沈んでいく。
雪はまだ降らない。

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