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"起業家ではない創業者〟の自覚。 NOT A HOTEL CFOが初めて明かす事業構想と秘められた想い

「世界中にあなたの家を」をコンセプトに、建築・ソフトウェア・ホテルサービスなどを掛け合わせることで、これまでにない暮らしをつくるNOT A HOTEL。

CFOを務める江藤大宗は2020年、新卒から一貫して勤めたJPモルガン証券(以下、JPモルガン)を離れ、立ち上げの創業メンバーとしてNOT A HOTELに参画した。CFOのタイトルにとらわれることなく全領域を越境し、新産業の創造に挑んでいる。

これまで明かされてこなかった江藤のキャリアとNOT A HOTELへの思い。まずはキャリアチェンジの決断の背景にある日本への思いと人生観から話を聞いていく。“起業家ではない創業者”の知られざる苦悩とは?創業から現在までの3年間の軌跡を振り返りつつ、「第2次日本列島改造計画」と江藤が呼ぶ未来の構想まで余すことなく語ってもらった。


「40歳になったら起業する」ーーNOT A HOTELへ参画を決めた人生観


ーまずはNOT A HOTELに参画した経緯からお伺いできますか。

2020年の3月、VCの方のご紹介で初めて濵渦さん(NOT A HOTEL創業者兼CEO)に会いました。その際、彼から聞いた構想と自分が(JPモルガンで)お客さまに提案しているモデルの親和性を感じたんです。「これなら一緒にできるかもしれない」と思いはじめました。

ーとはいえ、新卒から長く勤めたJPモルガン証券で築かれたキャリアから、スタートアップの立ち上げに参画する意思決定は簡単ではなかったと思います。この決断の背景には、どんな思いがあったのでしょうか。

自分のなかで、以前から「40歳になったら起業しよう」という思いがありました。寿命がざっくり80年だとすると、最初の1/4は人に学ばせてもらう学生の期間。次の1/4は会社をはじめとした大きな仕組みのなかで、なんらかの貢献をさせていく期間だと思うんです。次の残りの1/4(40~60歳)は社会のため、最後の1/4(60~80歳)は自分たちのために時間を使うべき期間だという感覚があります。

NOT A HOTELに参画する前、JPモルガンで役職をいただき、かなり自由に時間を使わせていただいていました。もちろん、そのままやり切ってから辞めることも考えました。それでも先ほど説明した、人生を20年単位のスパンで捉える自分なりの人生観があるなかで、早めに次の20年の解像度を上げる選択をしました。

また、JPモルガン(投資銀行業務)はあくまでもお客さんのアドバイザーといった立ち位置。お医者さんで例えると、外科手術のようなアプローチしか採れません。なにか悪い部分があるときに、それを切り取るのか、あるいは外から入れ替えるのか。社会から求められているものと自分の人生を立ち返ると、お医者さんでいるよりは、自分自身で治療法を生み出したい。そう思い至り、JPモルガンのなかに居続けるのではなく、“0.5歩目の起業”としてNOT A HOTELに参画することを決めたんです。

江藤 大宗:執行役員 CFO。慶應義塾大学卒。JPモルガン証券にて投資銀行業務に従事。M&A、株式引受業務の実務を経て、エグゼクティブ・ディレクターとしてインフラセクター企業を担当。2020年8月NOT A HOTELに参画。

気づかぬ日本のよさを再発見・再定義し、後世に残したい

ーNOT A HOTELで取り組まれていることを含め、江藤さん自身が人生を通して実現したいビジョンを伺えますか。

日本で生まれ育っているので、日本に関わる人たちが、日本を誇れる国であり続けられるようにしたいと思っています。それぞれが生まれ育った国や地域を誇れるようになれば、オリジナリティの集合体として世界はきっと美しくなる。そのためにも、自分がもらったもの、受け継いだものをしっかりと次の世代へバトンタッチしたい思いは強いです。

そうした思いを抱くようになった原体験が2つあります。

1つ目は、佐賀県唐津市の離島 神集(かしわ)島で漁師をやっていた祖父の言葉です。漁業組合長として地域の取りまとめを行っていた祖父は、私がまだ幼かった頃から島の将来を憂いながら「この島の風景が、いずれお前たち世代の日本全体の風景になる」と言っていました。実際、東京から遠く離れたこの島の風景は、体感として2世代分ほど遅れている感覚があります。遅れている分、過疎化も速い。自分の2世代先、つまり私の孫の世代に日本という国のオリジナリティを残しながら、どうすれば繁栄を続けられるか。祖父とのやり取りから、今に至るまでその思いを持っています。

2つ目は、JPモルガン時代の経験です。在職時は世界中の顧客、同僚たちに日本をプレゼンする機会が多くありました。その際、海外からみた日本のイメージに触れ、自分の知らない日本の強さ弱さに気づかされたんです。以来、自分たちも気づいていない日本の良さを再発見、再定義していきたいと思うようになりました。

東京は世界でナンバーワンになれる都市だと思うものの、東京だけが日本における1等地だとは思いません。「2世代先まで残さなきゃいけない場所はどこだろう」ーーNOT A HOTELの土地探しにはそんな視点があります。

たとえばNOT A HOTELの第1弾拠点でもある宮崎県・青島。実は、青島は僕の祖父母の世代の新婚旅行の聖地なんです。当時、九州に住んでいた実に7〜8割の人が新婚旅行で青島を訪れていたといいます。ただ往々にして、観光地化に伴う大規模ホテルの建設などの開発は、ブームが去るとともに廃れていきます。青島に続いてNOT A HOTELが開業した那須や、現在プロジェクト進行中の北軽井沢も同様に別荘地として開発された土地です。

そのほかNOT A HOTELが展開中のみなかみにせよ石垣島にせよ、それぞれの土地には歴史があります。ある土地にNOT A HOTELが関わることで、少なくとも向こう50年間はその地域の価値が失われるような開発が起こらないことが約束される。表向きはシェア別荘を販売するサービスですが、裏側には後世に残すべき日本の1等地をピン留めしていく感覚です。「ピン留め」とは何も僕らがその場所を占拠することではなく、最低でも50年間はその土地を変えずに残していくことです。


オーナーの想い、土地の歴史、豊かな自然を生かした『NOT A HOTEL ISHIGAKI』(計画中)

“起業家ではない創業者”というチャレンジーーCFOの領域を越境する


ーでは江藤さん自身のビジョンとNOT A HOTELのビジョンが一致している?

私の場合、濵渦さんとは創業時から接点があるので、「NOT A HOTELとは何か」に自分の色を思い切り突っ込んでいる感覚があります。そのため、NOT A HOTEL全体のビジョンにも自分の考え方が反映されています。ただ、もちろん起業家であり創業者は濵渦さん1人です。なので私は、“起業家ではない創業者”という難しい立場にあります。創業当時からの歴史を知ることを背景に、会社に居座るだけの存在になるかもしれないし、創業者の意見を拡大解釈するだけの存在にもなりがちです。リスクを一身に背負い、最終判断を下す濵渦さんを尊敬している分、自分だったらどうするかの意思を伝えるように心掛けています。起業家じゃない創業者になることーー自分だけの起業とはまた違うチャレンジに向き合っているつもりです。

なので、「CFO」という肩書きにもこだわりはありません。CFOの「F」はあくまでも、アルファベットでいうCEOの「E」の後に続く「F」くらいに捉えています。だから一般的なCFOが担う領域を越境しながら、自分が会社を営んでいる感覚なんです。

濵渦さんは、事業売却経験がある連続起業家であり、過去の経験も踏まえ、いろんな人の推進力を活かしながら、自分の歩みたい方向に物事を進めていく力に長けています。その力は誰もが持っているものではありません。私の推進が、濱渦さんの向かいたい方向性から若干逸れた場合でも、その推進力を活かしながら軌道修正をし、私の推進力を掻き消すことなく、新しい絵を描く濵渦さんの存在は本当に心強いものです。

ーある程度事業が成長し、上場が見えてきてからCFOを置くスタートアップも多いなか、NOT A HOTELは立ち上げと同時にCFOがいますよね。

不動産を扱う業態であり、私たちのビジネスでは損益計算書とキャッシュフロー計算書にギャップが生じます。この点をマネージしたり、会社の成長に合わせて最適な資本構成を考える必要があります。ただし、「ファイナンス」は会社が回り続けるのであれば、究極的には方法はなんだっていい。資金を調達するだけでなく、プロダクトを販売してもいいんです。

CFOとして大切だと思うのは、事業の解像度を誰よりも高めておくことです。資金を出してくださる投資家や銀行も事業の設計図が頭に入っている人と会話したいはず。なので、CFOは事業の毛細血管まで目を配らせる必要がある。初期はコンセプトに基づいた土地の仕入れから、建築、商品組成、会社全体のお金のコントロールーーこれを繰り返しながら、どうやって事業を収益化し、拡大するのか。その前提がないとテクノロジーに先行投資する戦略的な理由もビジョンも説得力を持ちません。

濵渦さんが全体のブランドづくりを担いつつ、私は裏側で経済性を成り立たせる。お互いにうまくバランスを取りながら、NOT A HOTELの事業を前に進めているわけです。

新しい産業づくりへの挑戦ーーNOT A HOTELは土地と建物で稼ぐのではない

ーファイナンス周りだけではなく、細部にわたる事業構造の全体を把握したうえで、ビジョンと戦略を考案、実行していく。投資家の方々との目線合わせで意識していることはありますか?

単純に投資家の方々に僕らのビジネスモデルを理解していただき、“お金を出してもらう感覚”でいると、お金は集まらないと思っています。究極、肝になるのは「投資家抜きで僕らは事業をつくれるのかどうか」です。もちろん今成り立っているビジネスは初期、ANRIさんをはじめとした投資家の方々が投資してくださったおかげです。僕らはスピード感を買わせてもらっているわけですが、本来的には、独力で回るビジネスにしか投資家の方々もお金を出したがらないはず。

だからこそ、核心は資金調達のストーリーや拡張性にあるのではないと考え、とにかく自分たちの事業の1周目(プロダクトを作り、販売、運営を始める)を回し切ることに尽力しました。それを示した上で、「お金を出してください」ではなく、「出したいですか、どうですか」とこちらが主体的に問えないと、フェアな関係性は築けないと考えています。

ーそれぞれの土地や建物にはそれぞれにユニークネス(個別性)があると思います。ただ、事業としてスケールさせるため、ある程度プロダクトを型化させる必要があるようにも思われます。ただ、事業の性質上、それぞれのプロダクトをつくるにはお金も時間もかかるので、PDCAを回すスピード感を出すのも難しそうです。

NOT A HOTELとしてどの部分で稼ぐのかが重要だと思っています。土地を仕入れ、小分けにして転売して儲けるーーこのモデルは最も避けなければいけない。そもそも、究極的には土地は誰のものでもありません。なので、土地自体を売買することで収益を出すことには違和感がある。では、どのように私たちは価値を生もうとしているのか。将来なくなることが前提の建物にサービスを付帯させ、拠点同士をネットワークでつないでいく。仕組みによって付加価値を生むことで、アセット(土地)から離れて制約を外していくことがポイントです。

なので、土地を仕入れる部分に関しても、土地を買うのか、買わずに借地をするのか、エンドユーザーであるお客さまに届けるまでのスキームは一つではありません。私たちの信用や資産価値さえ担保できれば、将来的には土地や建物さえいらなくなり、サービスが成立する可能性もある。そうした新しい産業づくりにNOT A HOTELは挑んでいるのです。

『NOT A HOTEL MINAKAMI TOJI』が計画中のみなかみ町は、温泉地として発展を遂げた歴史ある“水の街”

「満足できない。まだまだ遅い」ーーNOT A HOTEL創業からの3年間を振り返る


ー創業から現在までの3年間半を振り返ってみると、成し遂げたい未来にどこまで近づけていますか。

自分の人生を大きく3つに分けると、全ての経験や人との出会いが交わってきている感覚があります。まずは音楽に打ち込んでいた学生時代、社会人になり大企業と対峙し続けたJPモルガン時代、そして現在のNOT A HOTEL。創業から3年半が経過し、拠点の運営も始まり、ようやく大企業にNOT A HOTELの初期モデルが説明できるようになってきました。なので、JPモルガン時代に築いた人脈の方々も興味を示してくれています。加えて、音楽をやっていた時代の人たちともデザインやブランディングで接点ができてきている。自分の人生の点と点が全部つながり始めている感覚が味わえるようになってきました。

ただ、やはり満足はできません。まだまだ遅い、こんなに縮こまってちゃダメだと思います。もっと大胆な発想が必要だし、もっと成長させなくてはならない。企業単位でみれば、まだまだ限られた人にしかNOT A HOTELを届けられていませんからね。

ーどのようにスピードを加速させていこうと思っていますか?

スピードを10倍速、100倍速にするには人海戦術では無理でしょう。間違いなくテクノロジーの力が必要です。とはいえ、一足飛びに人を介さない世界が訪れることもありません。レガシーアセットと呼ばれる領域に徐々にテクノロジーが入り込んでいき、時間をかけながら浸透、変革していく。

ーNOT A HOTEL単体というより、外部環境に適応する必要があると。

NOT A HOTELの商品をオンライン完結で売ることがゴールだとしても、いきなりそこに持っていくことはできません。現状は電話でフォローアップを行う部隊がお客さんにご案内しています。ただ、人力で行っているこの仕事の量を2倍にしたり、スピードを2倍速にすることはできても、10〜100倍にするのは無理です。この無理なチャレンジをする昔ながらのゲームから離れなくてはいけません。

NOT A HOTELでいえば、どうしても煩雑な手続きが付随する不動産の所有権から、いずれは離れる必要があるかもしれない。離れられた瞬間に、数段階スピードが上がるのだと思います。こうした最終的なゴールのイノベーションを描くことは大切ですが、そこに至るまでのプロセスの設計図を立てることも不可欠です。とりわけアセットが絡むビジネスでは信用がベースになります。自分たちの理想だけを掲げるのではなく、着実に前進させていかなければならないのです。

ー創業から3年間半事業づくりに取り組まれるなか、江藤さんのなかでブレークスルーが訪れた瞬間はありますか。

“NOT A HOTELを取り巻く全て”を自分ごととして、捉えられるようになってから変わりました。NOT A HOTELにはビジネス、テクノロジー、運営とそれぞれの領域に責任を持つCxOレイヤーのメンバーがいます。ただ、自分の領域以外は見ないでいると、スピード感に限界を覚え始めるんです。

あるときから、建築やテクノロジー、拠点運営のメンバーに嫌われる覚悟で、全てに首を突っ込んでいくスタンスに切り替えました。そうしないとクオリティも担保できないし、スピードも上がっていかない。何より、自分の領域にも口を出してもらえなければ、誰も自分のケツを叩いてくれなくなるんです。全社を背負う覚悟で、全領域に自分がコミットしていくことに決めたのがブレークスルーポイントです。

ーそうしたスタンスに切り替えるに至ったきっかけは何ですか。

実は大谷翔平選手からインスピレーションを受けたんです。バッターかピッチャーか、一つの役割を負うのが常識なのに、彼は“野球”そのものを一人で体現しています。投げるし打つし、走る。時にはバントだってする。その姿に感銘を受けて、自分の時間の使い方を見直してみました。もちろん一日20時間働けば身体は壊れる。限られた人生の時間を出来る限り自分のやりたいことに向けるため、食生活から見直し、生活のなかでどうしても必要なものなもの以外は捨てていきました。特定の領域の仕事を終えるごとに、脳を1度リフレッシュするため、間に必ず運動を挟むようにもしています。

“自分なりの豊かな暮らし”の理想像を持っているか?ーーNOT A HOTELにフィットする人の人物像


ーNOT A HOTELの構想を聞いていると、かなり射程の長い事業に取り組まれている印象です。ビジョンの実現にあたり、採用で意識されていることはありますか。

マネジメントレイヤーも含め、勤めている全員がNOT A HOTELをずっとやりたいわけではないと思っています。数名を除いて(笑)。NOT A HOTELが実現したい世界観をつくることにコミットしていたとしても、節目ごとにマイルストーンがあって然るべきです。そのスパンが1年にせよ、次の3年にせよ、人が入れ替わってもビジョンに向けた事業づくりがなされ続けていく組織でいなければならない。

私たちが取り組んでいる規模の一大事業を成し遂げるには多くの人の力が必要です。だからこそ、「あのプロジェクトは自分が精一杯やったんだよ」と時間の長短ではなく、在籍する間に全力を出せる環境をつくりたいと思っています。そのうえで、人の出入りがあってもいい。もちろん出戻りもウェルカムです。なので、採用においては私たちが候補者を選んでいる感覚はあまりないんです。あくまでも認識のギャップを埋めにいくことが大事だと思っています。

なので、一番の理想形としてはNOT A HOTELの辞め方まで考えて入ってきてもらうことです。個人として何がやりたいのか、何がゴールなのか。それが見えていると、すごくNOT A HOTELでの仕事がやりやすくなります。

ーNOT A HOTELのカルチャーにフィットする人、フィットしない人の違いはありますか。

大きく2つあります。まずは「私はこれができます。これが苦手です」と自分で語れる、自己評価と他己評価が確立している人はフィットします。現状はリモートワークがベースの環境なので、この前提がないと仕事の受け渡しがスムーズにいきません。それぞれの強みと弱みを理解したうえでキャッチボールができないと仕事を推進していくのに時間がかかるからです。

2つ目は部門や役割にこだわり過ぎない人です。たとえば今日セールスとして入っても、明日には企画をやってもらうかもしれません。

中華屋を例に挙げてみます。高級中華と町中華では、もちろん客席の雰囲気が全く異なります。高級中華にはテーブルクロスがかかっていて、テーブルの上にはフォークとナイフさえ置かれている。一方、町中華では色褪せた暖簾や庇を潜り、レトロ感漂うカウンターでラーメンをすすったりするわけです。表向きはまったく異なる両者ですが、実は、厨房はほとんど一緒のはず。中華料理は基本的にすごいスピードで調理されるので、客席の向こう側はごった返している。

つまり、NOT A HOTELのサービスの華やかな部分にだけ憧れを持っていると認識にズレが生じてしまいます。あくまでも、私たちはサービスをつくる側なのです。なので、それをつくる覚悟があるかどうかが重要になります。

ー採用におけるミスマッチを避けるために、必ずみているポイントはありますか。

面談のときには、厳しさも含めて私たちの素直な姿を伝えています。そのなかで楽しく自分なりのやりがいを見つけられそうかどうかは確認しますね。ただ、NOT A HOTELで活躍できるかどうかは入社前の時点でほとんど決まっていると思います。一言でいってしまえば、入社前に自分で下準備ができているのかどうか

会社の幼さでもあるのですが、NOT A HOTELはすごく速いスピードで回っています。なので正直、入社してからキャッチアップしていくのでは間に合わない。かつ、重要なのはNOT A HOTELの中身を学ぶというより、“自分なりの豊かな暮らし”の仮説や願望を持っているかどうか。「こうだったらいいのに」と自分の欲求に根ざして、思想レベルで考えられている人はNOT A HOTELに合流してからすぐに活躍している印象です。


まだ何も建っていない那須の土地へ家族と出かけた時の一枚。この景色を見たときに「大切なひとが幸せそうに過ごしてくれる場所」の力を感じたと江藤は話す

「第二次日本列島改造計画」ーーNOT A HOTELが目指す“マスターアプリ化”構想

ーいよいよ最後のテーマです。NOT A HOTELが目指すビジョンが実現された先にある世界観についても伺えますか。

現在のNOT A HOTELはPCでいうところのハードウェア(不動産)を販売しています。将来的には、ソフトウェア単独での販売まで手掛けられるようになっていきたい。NOT A HOTELのハードウェア(不動産)を有しておらずとも使える汎用的なソフトウェアとしてマスターアプリ化する未来像を描いています。もちろん、NOT A HOTELのハードウェアを有する方が出来ることは多いですが。

現在、NOT A HOTELのハードウェアを有していると室内の温度、湿度、明るさの調整からお風呂のお湯張り、サウナの温度調整、自分のハードウェアの貸出管理まで行うことができます。

たとえば、タクシーの配車アプリをイメージしてください。ユーザー目線に立てば、タクシーさえ来てくれるのであれば、どのアプリでも構わない。だとすれば、マスターアプリであるNOT A HOTELからタクシーを呼んだっていい(裏側は既存のタクシー配車アプリ)。他にもクリーニングの依頼からピックアップ、あるいは郵便物の受け取りまで、生活の利便性を上げるサービスが1つのアプリ内で完結していれば間違いなくユーザーの便益を向上させるでしょう。こうしたサービス間で横断的に顧客データが管理されれば、顧客に合わせた最適化もできます。

そうしたサービスの拠点になるのが、現状のNOT A HOTELでいえば各拠点になります。ただ、アセットクラスは重たい順番に家、ホテル、車...などさまざまです。ユーザーは拠点にインストールされたNOT A HOTELのソフトウェアだけで、生活に必要なサービスがワンストップで受けられる。ホテルに限らず、さまざまな場所にNOT A HOTELが埋め込まれ、どこにいてもこのサービスが受けられる世界観を見据えています。

私はこの構想を「第二次日本列島改造計画」と呼んでいます。1970年代、田中角栄さんは高速道路や新幹線などの高速交通網を結び、土地の価値を上げていきます。私たちの改造計画で核となるのはインターネットです。地域をつなぐマスタープラグになるのはそこにあるNOT A HOTELの建物ですが、各拠点はネットワークでつながっている。

たとえば、出先の遠隔地で病気になったとしましょう。(NOT A HOTELのアプリから既存の遠隔診療サービスを受信可能にした場合)個人の電子カルテの情報がネットワーク上で管理されていれば、ローカルの病院と連携して診療を受けられる。そうした世界が実現すれば、あらゆる場所で不便を感じることなく暮らせるようになります。

ーそうなると、別荘やホテルよりも、生活全体を包括するプラットフォームに近い。

そうですね。アセットのピラミッドがあったとき、ボトムアップで攻めているのが、膨大なユーザーとの接点数を持つGAFAT(Google, Amazon, Facebook, Apple, Tesla)をはじめとしたプラットフォーマーです。とにかくサービスを無料で提供し、ユーザーに選ばれていくアプローチはマネーゲームの側面も強い。そこで、スタートアップの私たちとしては逆にアセットの重たいピラミッドの上から攻めて行こうとしているのです。

「本当にいい暮らしってなんだろう」と考えると、豪華絢爛な建物が欲しいわけでも、全国に別荘が欲しいわけでもないと思うんです。NOT A HOTELのどの拠点に行っても、自宅と近い生活がすでにインストールされており、環境が整っている。パソコンでいうログイン/ログアウトに近い感覚かもしれません。それを可能にし、新しい時代の豊かな暮らしを実現するサービス。そんなNOT A HOTELを追い求めています。


採用情報


現在、NOT A HOTELのビジネスチームでは経営企画や事業開発、営業戦略をはじめ複数ポジションで採用強化中です。カジュアル面談も受け付けておりますので、気軽にご連絡ください。

STAFF
TEXT:Ryoh Hasegawa
EDIT/PHOTO:Ryo Saimaru

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