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【詩作】忘れな草 -Forget-me-not-

悲しめる母なる大地の子守歌を聴け

雛鳥たちは 虚空を舞う翼を求めて
春の訪れを 心待ちにさえずり
夏には 蒼穹の天を仰ぎながら
向日葵が お日さまと笑っている

やがて 麦の穂の実る秋は過ぎ
真白に広がる雪の絨毯を 橇が走る頃
調子のよい 勇ましい軍靴の音は
地響きを立てて やって来た

踏みしめられた 黒い土の下に
まことを知る 春の蕾は
かたく口を閉ざされて
とうとう 涙も枯れてしまった

胎盤と結ばれた臍の緒を
銃剣で引き裂かれ
母は 泣かぬ子を抱きしめて
人知れず 子守歌を歌い続ける

滴る紅い血を呑み干し
数多の屍を養分にして
豊沃に熟した
その大地の上に

いつの日か
空のように 蒼い花びらと
優しい黄色の目をした
忘れな草が咲くまで

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