【園館訪問ルポ】詩のある動物園(Ⅱ)―― 徳山動物園「まど・みちお詩碑」/「ぞうさんの鉄琴」/「種田山頭火句碑」(山口県周南市)
2019年の夏、北九州は到津の森公園で動物園と「詩」が響き合う風景を目の当たりにしてから、動物園が詩歌を通じてより多様な解釈可能性に開かれていく萌芽を見出していました。
この感覚は後に私自身が短歌を作り始めたこともあっていっそう確かなものになっていきましたが、到津への旅以降この主題を掘り下げていくためのきっかけがなかなか得られず、個人的な探究の主題としては次第に後景化していました。
しかし2022年の秋、詩が主軸になった動物園についに訪問することがかないました。山口県周南市の徳山動物園です。
周南市(旧・徳山市)は、童謡「ぞうさん」「一年生になったら」の作詞で知られ、104年の長い生涯を生きた詩人、まど・みちおさんの生誕の地です。
徳山動物園には、入園してすぐのゾウ舎前に、童謡「ぞうさん」の詩碑と、かつてここで暮らしたサバンナゾウの「マリ」を題材にした「とくやまのまるみみぞうさん」の詩碑が残されていました。(※「マリ」はまどさんが訪問した頃はマルミミゾウとみなされていましたが、のちに「サバンナゾウ」であることがDNA鑑定で明らかになっています。)
さらに進むと、童謡「ぞうさん」のメロディが流れてきました。スピーカーで流しているわけではなく、設置された鉄琴を来園した人が自由に奏でていたのです。
童謡の響きは耳によく馴染み、この園全体を詩情で包んでいるような気がしました。
まど・みちおさんの存在をきっかけに「マリ」の死後、徳山ではゾウを誘致するための機運が高まっていきました。スリランカからゾウを迎え入れるにあたり、近年の動物福祉をめぐる情勢の変化も踏まえ、国内屈指の規模のゾウ舎を建設しました。
「キリンもゾウもライオンもいない、そんな動物園があってもいいじゃないか」と未来の動物園の姿を描く到津の森公園とは異なる形で、詩歌が動物園の姿を規定している現場に触れることができました。
私が徳山を訪れたかった最大の目的は、「動物園歌会」の共同主催者であるぽめさん(@zoo_no_otaku)と、この園で吟行をすることでした。ゆっくり一日を過ごしながら私たち自身が「詩のある動物園」を実践することで、ずっとあたためてきたこのテーマに決着をつけることができた気がします。
帰り際、パンフレットに目を通していたぽめさんが、「種田山頭火の句碑があるようです。」と教えてくれました。入園ゲートを出た少し先にその歌碑はありました。
到津の森に続き徳山の地でも、漂泊の俳人の句碑が出迎えてくれたこと。短歌に親しむ時間を経て数年越しにこのテーマとふたたび向き合ったからこそ、静かな、しかし大きな感激がありました。何度延期になっても訪問を断念しなくてよかったと強く感じた瞬間でした。
動物園には瞬間、瞬間があります。そのひとつひとつをすべてまなざすことはできなくても、言葉を通じて開いていくための実践の機会や場を広げていくことで、「未来の動物園」の姿が見えてくるかも知れません。