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NEO表現まつりZ|クロストーク【朝比奈竜生×曽根千智+蜂巣もも+水上優】

6月21日から2週間にわたって開催される『NEO表現まつりZ –技術開放!芸術家たちがなんかやる!!』。13組のアーティストが参加し、10の演目+5つのWSが開催されます。
「まつり」開催に向けてそれぞれ準備を進める参加アーティストの方をマッチングし、普段の活動や「まつり」に向けての心境などを伺うクロストークを実施。
今回は、朝比奈竜生さん、曽根千智+蜂巣もも+水上優から3名をお招きし、それぞれの創作状況や心境を伺いながら、まつりの全貌とそれぞれの取り組みに迫ります!

-今回の「まつり」で実施することから伺えたらと思います。

朝比奈:僕は普段、ドラマトゥルクを目指してると言いながら、知り合いと個人的な勉強会として戯曲を音読する会をよくやっていて、今回はそれをオープンにするという感じです。今回は、自分で翻訳したチェーホフの『かもめ』という戯曲を扱います。
下駄さんに『何をやりたい?』と聞かれた時に、市民劇をやってみたいなと思って。普段、個人的にやってる勉強会をちょっとオープンにしてみようかなというつもりです。

蜂巣:私は「乗る場」に参加してから一年くらい経つんですが、自分が企画する一歩手前の部分を開拓するための場所として「乗る場」を使いたいなという気持ちがあります。このお二人(曽根、水上)に関しては私が「乗る場」に参加する前から、「鳥公園」の『昼の街を歩く』という企画で、(八王子という街で)被差別部落を扱うというテーマを掲げて一緒に話したり体験したりという時間がありました。企画自体は実現しなかったんですが、その経験をもう少しブラッシュアップできそうだなと思ったところからスタートしました。西尾久の街には「梅の湯」があって、銭湯を使える可能性を感じたということから「まつり」で何かできそうだなと始まりました。二人とは以前から洗髪をワークショップにしてみたいねという話があったので、ちょうど良い機会になるのではないかと思っています。

-洗髪を取り扱うというのはどこからどういう経緯で生まれたんですか?

曽根:去年の8月に私と蜂巣さんが目黒のImpact Hub Tokyoという場所で、二ヶ月弱ぐらいの滞在型のアーティスト・イン・レジデンスに参加していて、そこでは八王子の企画を違う角度から深めてみようというサブテーマを持ってやっていました。何度も話題に出たのが、生理とか質感みたいなものが、直接的な嫌悪感につながってしまう場合もあれば、そうじゃない時もあること、そこから、生活の延長線上にあるものをもうちょっと探ってみたいねとなっていって。優さんと喋っているときに、『そういえば街中で洗濯をするワークショップがあるんだよ』みたいな話をして、髪の毛は外で、みんなの前で洗ったりしないパーソナルな取り組みなので、その人自身の履歴と形質、生きてきた質感みたいなものに即していて。それが他者の生理的な感覚とどう寄り添うのかっていうことが反映される営みの一つなんじゃないかなと考えています。
洗髪のワークショップを実際にやったことがある人がいないというのが分かって、春頃にまず3人でやってみようかとなり、お互いの髪の毛を洗い合うところからスタートしました。

朝比奈:パーソナルな取り組みをワークショップにすると聞いて、ぶっちゃけ怖いなと思う部分もありますね笑。
前回の八王子での企画は成立させられなくて、今回は『これなら行けそうだな』みたいな感じがあってワークショップになっているんだと思うんですけど、未完成だったり繊細なものを扱う時にどういうことに気をつけていますか?

蜂巣:そもそも私たちの中に、台本書いて演劇の企画するぞというふうに踏み出す人はいなかったんですよね。どちらかというと外部の人と共通のテーマをもとにおしゃべりしたり、ワークショップという形態で交流をしてみたくて、その方が演劇の作品を作り込む前段階としていいような感触があったんです。三人で企画を考える中で、ワークショップも例えば何かを教えるという形とか、ファシリテーターも参加者と共に考えて学んでいく形とか、いろんな形態があるということを発見し、「参加者と共に学ぶ」というのは面白そうだなと可能性を感じています。

曽根:「怖いな」っていう気持ちは、私たちもまだ解消できずにずっと持っていて、保留状態にあります。朝比奈さんが言った、怖さとか未完成の状態をどう共有するのかということはいまだ考え続けています。髪質の話はどうしてもセンシティブになるので、そこが心理的な負担にならないように、例えば、グランドルールの制定だったり、ファシリテーターが強い権力を持たないような設計はどうしたら作れるかということをこの期間中議論を重ねてきています。ワークショップを開催するにあたって会場の設えとか進行を考えているんですけど、3人で話している中では、それぞれの『差別ってなんだろうな』とか、『人と交流するにはどうしたらいいかな』という部分を深めていく議論を主にはしていてその状況自体が面白いかなと思います。

朝比奈さんに質問していいですか?『かもめ』を選んだのはなんでなんですか?

朝比奈:趣味でいくつかの戯曲を訳してて、その翻訳の方針が自分の中でいくつかあって、たとえば『三人姉妹』も訳してて、すごくいい出来だなとは思っているんですけど、いきなり読んでって言われてあんま面白いかはわかんないなーって。『かもめ』はいきなり読んでも、まだ面白いだろう、と。でもすごく知り合いから批判されて、何が良くなかったんだろうって気になってて。『かもめ』でやったことも今後活かしたいなと思ってて。

曽根:朝比奈さんの勉強会は私も出たことあるんですけど、朝比奈さんがある種の意図を持って、今までとは違う新訳を作るんだという気持ちになったのはどういう動機づけだったのかなとすごく気になってます。

朝比奈:翻訳したのは2020年とちょっと前で、いろんな理由があるんですけど、僕は青年団演出部に所属してたんですけど、そこの主宰の平田オリザのインタビューで、「自分は近代劇をやっている」「新劇は文体が不思議だから発話を頑張らなきゃいけないのを、現代口語演劇では、違う文体にしている」というのを見て、僕も、現代口語演劇っぽく近代劇を訳すことってできるのかなと思ってやってみました。

曽根:翻訳を読んでもらった時に批判があったんですよね。その批判を受け止めることと今回のワークショップはどう繋がっているのかも気になります。

朝比奈:セザンヌの絵を黒いマジックでなぞってるみたいと言われた。印象とか意味を限定しすぎてるよね、ということなのかな。でもよくわかんなかったから、読んでみたらどうなるんだろうという期待があります。Webサイトにも戯曲のデータ上げてるので是非読んでみてください。

朝比奈:水上さんは、ここまでの話で気になったこととかありますか。

水上:朝比奈さんが普段考えてることと、今回この音読することが関わってたりするんだろうか?と思いました。私は普段、人類学をやっていて、身体的に考えるってこととか、身体を通して何かを経験して、それを言語化するっていうことをやっている感覚があるんですけど、その部分が演劇の人はすごく違う回路があるし、違う言語化の特性があるなと感じています。朝比奈さんはご自身の身体感覚みたいなものが翻訳に生かされていたりするでしょうから、「そのフィードバックのための音読をやってもらう」みたいに考えられるような気がして。

朝比奈:なんでみんな作品とか作ったり出演したりするんでしょうねって気になってるんですけど。自分が翻訳したものを他の人に読んでもらうっていうのは確かに謎の欲望ですよね。自分としては面白いと思っていて、でも批判もされていて、いろんな人に話を聞いてみようみたいな感じで。水上さんの質問は他のアーティストの方にも当てはまるような気がしました。

水上:人類学者ってエスノグラフィーというものを書くんですけど、それは現場で経験したものを言語の形にして、かつ自分の母語話者の人に伝わるように書くということをします。多くの場合、人類学者は外国に行くのでその現地の人にはなかなか読めない言葉なんですけど、それを自分の言葉にして読んでもらうってことをやるんですね。でもそれを身体的に表現してもらうことはなくて、だいたい黙読か、学会で読まれて批評されるかに留まる。演劇で面白いと思うのは、物理的な人間が声に出して読んだりとか、物理的な人間が何か身振りをつけたりとかすることで、結局テクストだけでは成り立たないっていうところが、すごく面白いメディアだなって私は常々思ってるんですよね。だから、多分ご自身が翻訳されても違う人が読んだら、多分違う意味が付与されていったり。社会的なものになっていくというのが戯曲というメディアの面白い部分だなと思っています。
チェーホフってロシアの人でしょうか?社会的にも文化的にも文脈が違う人々の話を翻訳してどうでしたか?

朝比奈:自分があんまりキャッチできてない部分は切り落としたのかもしれないですね。キャッチした気になっている部分もあります。

-ワークショップということで、当日の振る舞いに向けての準備としての思考や議論が進んでいる話を聞けて嬉しいです。
最後に、来場してくれるお客さんに向けて一言ずつ頂けたらと思います。

朝比奈一緒に考える時間になるのかな。告知文は出てるし、翻訳も出してるので、パッと見て、ピンと来たら来てもらうか、「『かもめ』だから」というので来て、翻訳読んでみて、あー、やっぱ変だなくだらねーなってもいいですし。

曽根:朝比奈さんの勉強会に参加した時に、初めましてよろしくお願いしますってなって、全然顔知らん人と一緒に本読むっていうのがめっちゃ面白かった。みんな初めましてですみたいな感じで、声聞いたことない人から新しい声を聞いて。朝比奈さんも読んでる時全然違う声だったように記憶しててそれも面白かった。

-この二つのワークショップに関して、やっぱり上演じゃなくてワークショップだから、最初にも出てた危なさとか怖さみたいなのがあって、今曽根さんが言った「初めましての人と本読む」というのもっちょっとヒリヒリするみたいなこともあるし、初めて会った人の髪の毛を洗うみたいなのも、ちょっとグレーに感じる部分はあるけど、そういったことが「まつり」で銭湯とか普通の部屋で起きてるっていうことは、全体のプログラムのバランスとしてすごい重要だなと思いますね。

蜂巣:確かに私も朝比奈さんのワークショップ行った経験があるんですが、「外に開かれてる」っていうのが大事なのかなって思いました。面識がなかったり、演劇を知らないとこういう場にはなかなか入りにくいけど、朝比奈さんの会はいつもそこに窓口があって、何が見つかるか確約されてないけど、でも演劇を体感することはできる。そういう場所を朝比奈さんがずっとずっと継続してるっていうのがすごい大事な部分なのかなって思ったな。

朝比奈:ちなみに昨日とかもやるつもりだったのに予定を勘違いしてて、最近そういうの多いからしばらく休もうかなとは思ってて。

蜂巣:我々のワークショップは、人前で髪の毛を洗うっていうのはすごい特殊なことだから、その経験に乗り出せるぞっていう気持ちがあれば、もうぜひとも来てほしいです。きっとそこに来たら、もう発見することは山ほどあるよと。すごくプライベートな行為をオープンにすることになるので、そこに抵抗がなければ、何ならノリノリでやれるなっていうふうに思う方がいたら、ぜひ来てみてほしいなと思います。

水上何か出来上がったものを理解してもらうとか提示する場ではないので、一緒に考えてくれる人が集まると楽しいだろうと思っています。躊躇する経験かもしれないですが、ワークショップを通して自分の身体って何なんだろうとか、自分って普段どんな身体加工をしているんだろうとかを一緒に考える場所になったらいいなと思います。

曽根:このワークショップ考えてる時に、何度も観察と発見をやろうとしていて、そこにフォーカスするために、その他のいろんなことが着実に進むように考えてると思う場面がたくさんあって。何かをじっと見つめて考えてみる時間、しかもお風呂で、携帯も手元にはございませんっていう状況で、本当に目の前の、自分と、一緒にやる人たちをじっくり見ながら、発見を重ねていく時間にできればなと思っています。

インタビュー・編集:中條玲


朝比奈竜生『朝比奈が訳したチェーホフ『かもめ』を音読する会』

自分で翻訳した、チェーホフ『かもめ』をいらした方と音読する会をしたいです。 趣味で翻訳をしています。いつか、自分で訳した戯曲で市民劇をやってもらう、という野望があります。ただ、少し、恐かったり、億劫だったりするので、お祭りに乗じて、ちょっとしたお披露目の機会をいただこうと思います。(読み終える前に、私が、やめ、やめ、と言いませんよう。)

日程|6月23日㊐ 17:00〜(3時間程度)
会場|サロン梅の湯

曽根千智+蜂巣もも+水上優『洗髪のレシピ ー身体加工から表現を考えるー』

人間は知らず知らずのうちに、美しさや醜さ、健康や経済状況を髪や頭皮の状態で判断しています。社会的な「こうあるべき」が一人一人の美的感覚に侵入し、美しさを表現するためにシャンプーやドライヤーで身体を加工しているのではないでしょうか。このワークショップでは、銭湯で髪を洗い合うことを通じて、互いにどんな手入れをしているかを知っていきます。私たちは、髪を洗うことでどんな表現をしているのでしょうか。

日程(90分程度)
6月22日㊏13:00〜
6月29日㊏13:00〜

会場|梅の湯


朝比奈竜生
ドラマトゥルクを目指している、と言いつつ、特になにもしていません。

曽根千智+蜂巣もも+水上優
鳥公園で行われた、被差別部落へのリサーチプロジェクトを期に集まった曽根千智(劇作、演出、ドラマトゥルク)、蜂巣もも(演劇・演出家)、水上優(人類学者)はプロジェクト終了後も「人類にとって差別とは何か」考え続けている。 既存の上演やワークショップに留まらない、人が集まり参加することで学ぶ社会運動としての演劇を志向している。2023年8月アーティストインレジデンス(Impact HUB Tokyo)参加。


『NEO表現まつりZ­ –技術開放!芸術家たちがなんかやる!!』
会期|2024年6月21日(金)〜6月30日(日)

『NEO表現まつり』は2023年、アトリエ「円盤に乗る場」のメンバーが中心となって、東京・荒川区の西尾久エリアにて開催されました。アーティストによるいつもとは一風違った表現≪NEO表現≫を多数展開した『NEO表現まつり』は、多数のメディアに紹介されるなど大きな反響を呼びました。

そして2024年、よりパワーアップした『NEO表現まつりZ』となって帰って来ます! 同じ西尾久エリアを中心に、個性の異なる5種類の会場をご用意。ステージパフォーマンスやワークショップ、分類不可能なものまで、あらゆる表現が展開されます。

今年のテーマは「技術(ギジュツ)」。アーティストが日々アトリエで磨いている「技術」は、普段は作品の奥底に隠されています。しかしそこには、あっと驚く発見や思わず「自分も表現したい!」と感じてしまうような「何か」があるはず。それを掘り起こして、みなさんの前にお披露目します。

ここにしかない体験にあふれた6日間、あなたも未知に出会いに来ませんか?

チケット購入はこちら↓

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円盤に乗る場

¥500 / 月

演劇プロジェクト「円盤に乗る派」が運営する共同アトリエ「円盤に乗る場」情報ページです。詳細はhttps://note.com/noruha…

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