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聖地を求め、翼を広げ。|スマートu25で熊本へ

悶々とした思考を整理するのにも疲れたので、
久々に取り留めのないことを書いてみる。



20歳へと向かう僕。
俄然悩まされることが増える。
恋愛、交友、将来、お金。

一つ一つは取るに足らないことが蓄積し、
頭を無理に働かせる。オマケにバイトも
多くなり、あまりに忙しい大学も始まった。

限界だ。



そう思ったのは、ちょうど20歳になる日。
何のために頑張る?節目を迎える?乗り越える?

誕生日を祝う人も、華やかなプレゼントも、
大人になってしまった僕の前には現れない。


それなら、自分で自分を祝えばいい。
悩み考えつかれて、腐ってしまった心と身体。
そんな自分に与えた、翼という贈り物。

この翼で現実から逃げ、
「西の聖地」を目指すことにした。


ツバサが生えた!



翼|スマートU25

人は鳥のように空を飛べない。
人は鈴のように綺麗な音は出ない。
だけど、走ること、歌うことはできる。

互いの良さを認め合う尊さを詠った、
山口県仙崎出身の歌人、金子みすず。

しかし、文明の進化は人の想像力を凌駕する。
「人は飛べない」というパラダイムを覆した
飛行機という発明、そして展開。

普段は文明や社会を恨み嘆いて過ごしているが、
今日ぐらいは味方にしてもいいじゃない。

スマートU25。それは若く青く不安定な心に
安価で翼を授けてくれる栄養ドリンクのような。

ANAが提供しているこのサービスは、
当日予約限定で航空機に安く乗ることができる。
例えば、羽田-新千歳の普通運賃は4.6万円に
対して、スマートU25だとたったの9650円
(10月末まで)。

どこに行こうが運賃が大差なく、
当日のみという制約もあるので、行き先も
決めずに旅行できる自由な翼である。



飛行機|超越の表象

中部国際空港セントレアに向かう。
2週間前にも来たので、特に感情を
揺さぶられることはない。

早速保安検査場を通過した。


セントレアは九州方面の便が多い。
本数が少ないのが玉に瑕。


本日は13:40発のANA3865便(スターフライヤー運航)で福岡空港に向かう。


保安検査場を抜けて制限地区に入ると、
目前には飛行機が飛び込んでくる。
飛行機。それは地形やら県境やら国境やら、
様々な制約を超越し、自由に羽ばたくもの。

飛行機の中に乗り込む。
スマートフォンを機内モードにするよう
指示が入ると、社会と自分を繋ぐ碇である
インターネットからも解放され、地理的にも
社会的にも自由な存在になる。

まさしく、超越の表象。束の間の楽園。


本州育ちの僕は、関門海峡を越えて一安心する。



博多|人と美食が出会う湊で


名古屋を出て2時間弱。博多に到着する。
この夏は九州と縁があり、3度目の訪問だった。


博多駅は百貨店や電気屋、駅ビルが立ち並ぶ。
地元名古屋が脳裏によぎるのは癪だが、九州の
玄関口として相応しいランドスケープである。

博多の歴史はとても古いものらしい。
奈良時代から「博多津」の名で知られた博多は、
中世にかけて日中貿易の地として栄えた。


九州の各地や外地から来た人々が交わる
博多駅や、「世界一忙しい空港」である
福岡空港を目をやれば、今でも、博多の
ルーツである湊町らしさを感じる。

そして、人の集まるところには美食も集まる。


「長浜ナンバーワン」のラーメン

無数の美食のうちの一つにすぎないが、
おそらく最もポピュラーであろう食べ物
「博多豚骨ラーメン」の名店を紹介する。

北九州在住の友人曰く地元民こそが通う
お店らしく、博多駅という立地ではあるが
物見遊山の人は少ない。

博多豚骨の食べ方は少し変わっている。
多忙な博多商人向けの食べ物なので、
量は少なく味が濃い。そして、茹で時間を
短縮するために、麺は硬めで出される。

それを啜る、というよりむしろ食べる。
腹がまだ鳴るなら替え玉。

娯楽としての食事とは一線を画した、
合理的な栄養補給。
しかしそこには、ビタミン剤にはない
有用の美がある。


かくいう私も新幹線の時間が迫っていた。
嘗ての博多商人に倣ってラーメンを吸い込み、
足早に熊本へと向かう。


細かい意匠が旅情を掻き立てる。
800系「つばめ」


散歩|心安らぐ「西の聖地」へ

熊本に着いたとき、時刻は5時を回っていた。
残っていた仕事を済ませ、温泉へと向かう。

熊本で温泉。
「西の聖地」と呼ばれている湯らっくすである。
ホテルから徒歩で30分の距離らしいが、
歩ける気候になったので歩いてみることにした。


熊本の目抜き通りであろう通町筋。
奥に見える「鶴屋百貨店」は
地方百貨店でも有数の規模。


一本裏に入れば、小泉八雲の旧居。
縁側の猫は人目も気にせず毛繕いをしていた。

辛島町→上通アーケード→通町筋まで歩いた。


熊本市は熊本平野に広く発達した街であり、
こうした平野に位置する都市は市街地が
薄く広くなりがちだが、熊本は違う。

アーケードを軸に店が密集し、
そのエリアを中心に郊外へとバスが走る。
さすがは九州第3位の都市。
市街地の密度は申し分ない。

こうした密度の高いまちは歩くのが楽しい。
そして景観もよく変わる。


どこにでもあるようで、
ここにしかないような。
安心するような成分も熊本は持っている。



湯らっくす|「西の聖地」考察

片道30分のところをじっくり1時間歩き、
湯らっくすまでやってきた。

地方では珍しい24時間営業の温泉。
そしてここのサウナは西日本でも
一番だと名高い。
それが「西の聖地・熊本」の所以である。

早速、体を清めたあとサウナの中に入ってみる。

スーパー銭湯の狭い遠赤外線サウナとは違い、
優しい暑さが身体を包み込む。
これなら長居にも向いている。

そして、サウナマットや帽子代わりにできる
タオルもある。最深171cmの水風呂や、
豊富なアウフグースイベントも魅力。



セルフロウリュのサウナもある。
地元のサウナにもあるので、あまり珍しさを
感じなかったが他ではあまり見ない。

セルフロウリュ(自分で石に水をかけて熱くする)のサウナは非常に耐えごたえがある。
この種のサウナを目的にするのも旅のゴール
として十分に意義あるものだと感じる。


翌朝撮った湯らっくす。
午前中はそれほど人がいないので狙い目。


他に一風変わったものがあるとすれば、
蒸し風呂である。岩盤浴があるスーパー銭湯は
よくあるが、蒸し風呂はあまり見ない。

1ヶ月前、広島の怪しい日帰り風呂で
入ったぶりの蒸し風呂である。
あまりの湿度の高さに身体が悲鳴をあげ、
それだけ快感あるものだった。



夜風で体を冷やしながら、
聖地の意味について少し考えた。

熊本らしさがあるわけでもない。
唯一無二なものが存在しているということも
感じない。ただ「丁度良い」。

この足らざるも過ぎるもないサウナは、
どこにでもあるようで、ここにしかないもの。


こうした中庸、「これでいいんだよ」を
そのまま描き出したサウナだからこそ、
「西の聖地」と呼ばれているんだろう。

それを云うなら、熊本という街が、
求められているもの、ある種聖地のような場所。これは過言かもしれないが。



熊本城|「西の聖地」展開

翌日は熊本市内を観光してみようということで、
九州随一の名城でもある熊本城に行ってみた。

熊本城は2016年の大地震で甚大な被害を
受けて修復中である。天守閣などは
無事再建されたが、今も爪痕は大きく残る。


石垣が崩壊してから、
手付かずとなっている場所もある。
復興計画は35年に及ぶ壮大なものである。
現在の熊本城はその一歩を
歩み出したに過ぎない。


しかし、熊本城には沢山の観光客が訪れていた。

それ以上に、
地元の人の姿も多く見かけることができた。
遠足でやって来た小学生。一家で訪れた老夫婦。

どうやら今日から秋祭りが始まるらしく、
NHK熊本のアナウンサーも取材に訪れていた。

熊本城が長い再建の道を歩んだきっかけは、
主要な観光資源だからという理由だけでなく、「熊本市民にとっての一つの聖地たるもの」
という想いではないだろうか。


熊本城がいかに熊本のものであるか。
宇土櫓の工事を眺める老夫婦の曲がった背中が、
そのアイデンティティの長さを物語っていた。


秋祭りの雲海パフォーマンスは壮観。



熊本城最大の櫓「宇土櫓」は地震で
歪んでしまい、10年をかけて復旧する。



熊本城を見た帰りは熊本ラーメンを食べた。
熊本ラーメンを全国区にしたとも言われる名店、桂花本店である。

ランチラーメンとチャーハンセット。
ラーメンの味が濃いので、
これぐらいが丁度よかった。


熊本ラーメンは焦がし醤油と豚骨の味が
特徴的である。パンチのある味とそれらを
引き立てる具のバランスが優秀。

ラーメン屋では珍しいたくあんも、
名バイプレイヤーとして味が濃い二品の味を
さらに引き立てる。


そして、やはりというべきか、
ここも地元の人がほとんどであった。
高校生や会社員が談笑しながらラーメンを
食べるその生活は、僕が求めている暖かい幸せの像を少し撫でるような感覚がした。




聖地。
それは現実離れをした遠い場所でなく、
今を歩み、生活を重ねる中で生まれるものか。


とりあえず僕も
いなければいけない場所に帰ろう。



20歳のスタート、
スマートu25という翼を手に入れた話。

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