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アダム・スミスが泣いている。アストラゼネカ・ワクチン大失敗の真因

つまらない日本の新聞

日本のメディアがダメなのは、物議を醸すようなことを書かないことです。以下の拙論でもふれましたが、いわゆる悪魔の提言ってやつができない。世論に、スポンサーに忖度し、自己規制し、結局どこも似たりよったりの記事になるし、日本語の曖昧さを好む性質も手伝い、明快で胸のすくような主張にお目にかかることはほとんどどありません。

悪魔の提言 

その意味で昨日とりあげた、ベーカー元国務長官の論説は熟読に値すると思います。
ベーカー論説 

ほぼ事実上、言論の自由などない日本ですが、それと対称的に自由さにあふれ、それも世界全体に鋭い問題提起を投げかけるような言説を紹介したいと思います。まさにこれぞ「悪魔の提言」だと思います。

経済学の父、復活!

それは、The Wall Street Journal2021年5月5日号のStakeholder capitalism caused the Oxford vaccine debacle(ステークスホルダー資本主義がオックスフォード大学のワクチン代失敗の原因だ)というタイトルの記事で、著者はMatthe Lesh 氏。意外な肩書が目を引きます。Head of research at London’s Adam Smith Institute(ロンドン・アダム・スミス研究所、調査主任)。彼は経済学の父・かのアダム・スミスの信奉者なのです。

この記事の大意は、以下です。

EUがアストラゼネカをワクチン遅配で訴えた。でも悪いのはアストラ社じゃない、研究&ビジネスパートナーのオックスフォード大学だ。オックスフォードは今流行りのステークスホルダー資本主義にかぶれて「利益は悪」という間違った理想主義に走り、経済合理性が全く働かない製造・研究開発プロセスを選び、結果として世界のワクチン接種に大きなダメージを与えた。

そもそもオックスフォードの連中が忌み嫌い、糾弾するアダム・スミスは「利益は悪」だなんて言ってない。草葉の陰で経済学の父が泣いている。

俺流に解釈しましたけれど、ざっとこんな感じです(笑)。

ステークスホルダー資本主義って何だ?

そうなんですよ、いま資本主義が叩かれっぱなしです。

一昨日BSフジに出演されてるのを見ましたが、新進気鋭の経済学者・斎藤 幸平氏の「人新世の資本論」という本が売れています。

彼は、資本主義をこのまま放置すれば気候問題で世界は滅びると主張しています。

資本主義に反対する言説が、この頃とても目につくのです。資本主義は悪だからそれに代わるものを、という主張も勢いを増していて、その一つがこのWSJの見出しに出てくる“ステークスホルダー資本主義”という概念です。

簡単に言えば、私がこの連載でしょっちゅう言っている「社会正義」に即した資本主義にしろ、という主張です。

ステークスホルダーとは利害関係者を意味し、従業員、取引先、顧客、地域社会などのことです。

ステークスホルダー資本主義とは、今までの株主の利益を第一にしてきた株主資本主義から脱却し、ステークスホルダーの利益すなわち環境保全、公正な賃金や待遇、格差、差別の撤廃などを優先しろ、という思想です。

無報酬でワクチン開発を強要したオックスフォード研究チーム

WSJのこの記事の解説を続けましょう。

オックスフォード大学ワクチン開発研究チームは、最初ワクチン開発を業界2位のメルク社(Merck & Co.)に頼ったのですが、ワクチン開発は公共の利益に供するものだからをタダでやれと主張しました。これで両者は決裂。オックスフォード製ワクチン開発は消滅しました。

オックスフォードは今度はアストラゼネカをパートナーに指名しましたが、アストラ社はワクチン開発は実績ゼロ、開発に必要なサンプル数も集まらず、関係各所とのコミュニケーションもひどく、結果的にアメリカでのワクチン認可は下りず、ヨーロッパへの配給も大幅に遅れ、EUが提訴するに至ったということです。

アダム・スミスが誤解されている

この記事の著者のLeshさんはこう憤るのです。

オックスフォードの経済合理性と利益を無視したやり方は、大失敗を招いた。今、ステークスホルダー資本主義とか言って、利益の追求を後回しにして、社会のために奉仕すべきなどという考えが流行しているが、それは間違っている。やつらのステークスホルダー資本主義を拡大解釈すると、「利益は悪」となる。

アダム・スミスが言ったのは逆だ。「利益は社会に益をもたらす。利益は企業に社会貢献をするインセンティブを与える。社会が欲しいものを企業が与えるようになるためにも、企業は利益追求を最優先すべきだ」というのがアダム・スミス師匠の教えだ。

どうなんでしょう、皆さん。
このほうが僕には正論に聞こえるんですが。

前述の斎藤先生をはじめ、資本主義にブレーキをかけろ、という論が多いのですが、僕はアダム・スミス大先生に座布団一枚あげますね。

経営学の立場からは、経営学ってつまるところモチベーションって何だ、っていうジャンルだと思うので、人間の欲望を規制するようなやり方は間違っている、そう言っておきますね。

アダム・スミスの国富論を英語と日本語でしっかり読むことも、今後の宿題にしたいと思います。

今日も長くなりました。最後までお読み頂きありがとうございました。

また明日お目にかかるのを楽しみにしています。

                              野呂一郎


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