プロレス&マーケティング第36戦 「名勝負数え唄」復活を阻む壁とは
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:格闘技からファンを取り戻す切り札としての、「名勝負数え唄」復活作戦。しかしそうは問屋が卸さない理由。諏訪魔の「名勝負数え唄」はなぜ実現しなかったのか。アントニオ猪木という名フィクサー。諏訪魔=ビジネスマン説を追う。トップ画はハラダ画伯の藤波イラストです。
ファン奪還戦略
前回の記事で、プロレスファンを奪還するためには、
「プロレスの魅力をもう一度、プレイバックさせる」ことです、と申し上げました。
たとえば、「名勝負数え歌」復活などはどうでしょう。
名勝負数え唄、といえば、言わずと知れた長州力vs藤波辰爾、です。
いや、これ以外に名勝負数え唄と呼べるマッチングはなく、以下この記事では、名勝負数え唄=長州vs藤波の長期抗争ということにします。
もう死語になりましたが、むかし「ドル箱」という言葉がありました。
当たり興行のことで、まさにこの二人のマッチアップはドル箱でした。
何度戦わせても色あせず、プロレス・マーケティングはかくあるべし、の手本となりました。
しかし、名勝負数え唄復活には、大きな障壁が立ちふさがっているのです。
名勝負数え唄復活の条件
プロレス界の隠語に「手が合う」というのがあります。
これはジャズの言葉で言う「スィングする」、つまり戦っていて両者が心地よいリズムを奏で、観客もノル、という現象です。
しかし、プロレスビジネスを爆発するためには、手が合うだけでは足りません。
手が合う二人が、火花を散らし、喧嘩腰でやりあい、観客も我を忘れて二人のドロドロした世界にのめり込む、これが名勝負数え唄の条件で、このカタチを作らなければなりません。
そのためには二人に”遺恨”が必要です。もっというと”憎しみ”、”嫉妬”、”いがみ合い”というドロドロとした感情が欠かせないのです。
それが「名勝負数え唄」を生むのです。
なぜ、それが平成、令和にはないのか。
それはライバル意識、ジェラシー、なんでオレだけが・・という被害妄想という歪んだ感情が、プロレス界、プロレスラーからなくなってしまったから、です。
今はプロレス界といえども、公平、公正、平等という意識が経営陣にも、レスラー間にも浸透していています。
昔のような露骨なえこひいき、会社都合がレスラー都合よりも上回る、という風潮がなくなっているからです。
昔は、理不尽を絵に描いたような上下関係や待遇、組織と個人のいびつな関係などあたりまえでした。
例えば力道山と猪木の関係に、それは見て取れます。
それらを美化するわけには行きませんが、ひとかどのプロレスラーは皆、そうした理不尽な屈辱をエネルギーに変えてきたからこそ、今があると言えましょう。
長州力vs藤波辰巳は、長州が一方的に会社の「藤波推し」の理不尽に怒り狂い、憎しみを藤波に向けたからこそ、名勝負数え唄たり得たのです。
フィクサーが必要だ
ただ、これも背後で糸を引いていたものがいたのです。
アントニオ猪木、です。
長州vs藤波の抗争の引き金を引いたのは、1982年10月8日の後楽園ホール大会の6人タッグでした。猪木、長州、藤波のチームは最初からギクシャク、最期はなんと長州が藤波に襲いかかり、「お前の噛ませ犬じゃない」とのプロレス史に残る憎悪のセリフを藤波に吐いたのです。
諸説あるので、また長くなるのでこの経緯は省略しますが、猪木が焚き付けたことは間違いないと言われています。
要するにガチな遺恨を作り、それをリングで表現させようとしたわけです。
作りごとでは、本当の熱狂など生まれません。
猪木はそれを知り抜いていました
名勝負数え唄のポイントは、そこに本気の憎しみがあった、ということです。
そして、そこにはフィクサーがいたのです。
藤田vs諏訪魔はなぜ消えた
名勝負数え唄になりそうな、二人がいたんですけどねぇ。
藤田和之vs諏訪魔、です。
もうあれから10年くらいたちますかねぇ。
舌戦から、接近遭遇の小競り合いを繰り返し、タッグで遺恨をエスカレートさせ、シングルで激突の機運が高まって、金のなる木に育ちそうな予感を振りまきながら、諏訪魔がひいてしまった、という経緯がありましたよね。
残念でなりません。
諏訪魔は、いまやウナギ・サヤカとの「すあま劇場」で、いい味を出している一方、ブードゥー・マーダーズから追放の憂き目に会い、マーダーバッグに詰め込まれ、プロレス版ペーソス芸人という新しいポジションを手に入れたかに見えます。
これも一つのマーケティングの成功と言えますけれど、プロレスファンとしては、あの時藤田の挑発に乗って、「名勝負数え唄」をぶっ放したら、諏訪魔のぼやっとしたイメージもシャンとなって、独自のマーケティング・ポジションをつかんだと思うんですよ。
今となっては、あれが諏訪魔のレスラーとしての分岐点、ターニングポイントだったかもしれないですね。
諏訪魔としては、殺し合いになるかもしれない流れを断ち切ろうとしたのかもしれず、そこは彼の常識人がプロレスラーの破天荒を上回ったともいえるでしょう。
だからこそ、ウナギ・サヤカに「すあまっ!」とか言われてニヤついているんでしょう。
すあまさんは、ビジネスマンなのかも、です。
さて、格闘技からファンを取り戻す作戦として、「名勝負数え唄」を上げてみましたが、結局はダメみたいですね。
自分で押して、自分で引いて、どうする!
おあとがよろしいようで。
今回も絵をハラダ画伯からいただきました。ハラダ先生、いつもありがとうございます!
それでは皆様、梅雨ですので、明日も傘を忘れずに。
野呂 一郎
清和大学教授