プロレス&マーケティング第39戦 天龍源一郎が救う日本のマーケティング。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:古いものをバカにするなかれ、そこには新しいヒントがたくさん隠されている。時代を超えた正しいものは存在する。天龍源一郎の箴言を聞き逃すな。
昭和プロレスはノスタルジーにあらず
ネットのプロレス掲示板みたいなものを覗くと、よく「老害」だとか、「時代遅れ」などの、悪口を散見します。
「昔は良かった」的なことを書けば、「昭和の亡霊」呼ばわりです。
僕などもこうした風潮にビクビクしながら、プロレス記事を書くようになってしまいました。
情けない、臆病な態度ですが、少しは世論にも沿わないと、などと言う小心者がここにいます。
でも実際に今まで50年以上もプロレスを見て、昔のプロレスのほうがはるかに面白いという本音は隠せず、どうしてもこのコラムはそっちよりになっている現実もあります。
しかし、「昔はよかった」は間違えではなかったのです。
最新号の週プロ(週刊プロレス)に、こんな記事が載ったのです。
天龍源一郎の月刊プロレス時評というような連載の中で、天龍がこんなことを言っているんです。
これはノアのエースともいえる拳王(けんおう)が、YouTubeをはじめさまざまな新しい発信をしていることに、エールを贈る中で発したことばです。
天龍さんは、「拳王がどうとらえるか?」という謎掛けをしていますね。
これは天龍さんなりの「お前のプロレス頭、査定してやるよ」(ウナギサヤカの口調で)、というところなんでしょうね。
さて、じゃあ、わたくしめが拳王に代わってこの天龍源一郎のことばを解析してみましょう。
要するにリボリューションということです。
もちろんこれは文字通りの改革という意味ではあるのですが、あくまでプロレスの文脈での言葉です。
あの天龍源一郎と阿修羅・原がタッグを組んで、当時ぬるま湯とされた全日本プロレスに全力真剣ファイトのカツをいれた、あの行動を指します。
今のプロレスって、なんとかユニットとか、仲良しこよしの軍団みたいのは作るけれど、なにかプロレスそのものを変えるような強いロマンに満ちた主張で、ムーブメントを起こすものが誰もいないんですよね。
天龍は拳王のプロレス以外でのやり方で、プロレスを世間に認めさせようとしている努力は認めつつも、暗に「それは違うだろ」と言っているようにも聞こえます。
つまり、「プロレスの本流で世間とプロレスファンと勝負しろよ」と言いたいのです。
マーケティングをわかってる今のレスラー
これも週プロネタなのですが、現代に生きる企業らしく、全日本プロレスも社員研修があり、ある日「SNSでの発信」についてのセミナーが開かれたそうなんです。
おそらく外部の講師を呼んだんでしょうけれども、こんな指導があったというのです。
「正面切ってSNSにプロレスで切り込むのは、今の時代得策ではない」。
これを聞いた、最近三冠ベルトを腰に巻いた青柳優馬(あおやぎ・ゆうま)選手が呼応し、「じゃあオレもあえてプロレス路線じゃないのをやろう」と言ってYouTubeちゃんねるを開設したそうです。
時代、なんですねぇ。
そりゃ仕方がない、昭和の時代は一週間のうち、ゴールデンタイムにプロレスが8団体ひしめき合って、視聴率ではプロ野球と互角の勝負をしていたんですから。
プロレスの認知度、世間へのアピールは、今とは比べ物にならないのです。
僕も20年前は千葉商科大学で、もちろん経営学の文脈で、ですが(笑)プロレスの映像をガンガン流してました。
でも、今はほとんどプロレス、やりません。
なぜか?
学生がプロレスに興味ない、というか、「知らない」のです。
だからYouTubeチャンネルでプロレスラーなのにあえてプロレスで勝負しない拳王や青柳優馬は、マーケティングを心得ている、ともいえましょう。
強迫神経症のプロレスラーたち
YouTubeでプロレス以外で勝負するレスラーたち。
実はそうした意識は、実はプロレスそのものにも反映されているのです。
いま、プロレスからクラシカルな展開が消えつつあります。
例えばゴングが鳴って、手四つの態勢から手足の取り合い→寝技に移行するなどのじっくりレスリングを見せるような場面は、めっきり少なくなりました。
いきなりロープに飛んでぶつかり、相手もそれを受け一回転してアームホイップで返す。
まるで呼吸を合わせたかのようなムーブがずっと30分エンドレスに続く、そんな試合展開です。
よく言えばスピーディで変化に富んだファイトですが、悪く言えばレスラーたちは一種の強迫神経症にかかっており、こうしたプロレスを何者かに強制されているようにも見えます。
レスラーの強迫観念の正体は、世間、です。
レスラーは皮膚感覚で、今のファンが求めているものを察知し、昔のプロレスというわかりにくい体系ではなく、わかりやすいプロレスを余儀なくされているのです。
つまりそれは「時短プロレス」なんです。
イントロなんていいから、早くサビを聞かせろ、ということなのです。
最初っから派手な展開を見せて、それを息を切らさずにずっと続けてろ、というのです。
今の会場に来ているファン、有料配信で見ているファンは、昔のプロレスを知りません。
だから、レスラーのファイトはその新しいファン層に、必然的に寄り添うことになるのです。
これでは、昔のファイトスタイルがはいる余地など、ありません。
プロレスが小さくなってる
しかし、プロレスはいわゆるそういったサーカスもどきの演劇ではありません。
喜怒哀楽を表現する稀有なジャンルではありますが、本質は”戦い”なのです。
天龍の時代、アントニオ猪木の影響もありましたが、そこには”戦い”があり、プロレスの戦いでしか出せない緊張感と迫力が、感動がありました。
天龍革命とは、まさにそれでした。
「思い切って古いことをやれ」とは、「拳王よ、プロレスに戦いを取り戻せ!」という意味なのです。
そして、今がプロレスマーケット拡大のチャンスでもあるのです。
プロレスの本質をまだ、新しいファンは知りません。
でも、プロレスの本当の戦いに彼ら彼女らが触れたら、もっとプロレスの面白さに目覚めると思うのです。
そこからまたプロレスが広がっていく、これが僕が天龍さんからヒントを得た、これからのプロレス・マーケティングです。
天龍金言を他ジャンルへ応用する
天龍源一郎のこの金言、「古いことを腹をくくってやれば、結果的に新しいことになることが多々ある」はプロレス以外のジャンルにも通用します。
古いこと、というのは基本であり、物事の本質であり、忘れ去られた大事なこと、です。
ですから、大雑把に言えばこうなります。
拳王の気づき
拳王がこんなことを言っていました。
この間、彼のふるさと徳島で、凱旋興行があり、会場で「拳王のチャンネルを見た」と言えば無料で入場できる、というサービスを行ったそうなんです。
しかし、フタを開けてみたら、27人しか無料チケットをもらわなかったそうなんです。
拳王選手は「あれだけSNSで仕掛けたのだから、100人は軽く来るだろう」と高をくくっていた、というのです。
彼も言ってましたけれど、これが現代のマーケティングを象徴している現実です。
SNSでガンガンやっても、フォロワーがいくら多くても、実際に消費者が、それで動いて行動してくれるかというと、そうじゃないんですね。
もちろんデジタルをアナログにすればいいっていう、単純な話でもないのですが。
この続きは深い話なので、また後日に。
皆様今日も暑いので、水分補給を忘れずに。
野呂 一郎
清和大学 教授
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