アマゾン過酷労働に見る、日米の労働哲学の違い。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:アマゾンに州政府の査察が入った件。なぜアマゾンは人間性軽視なのに、こんなに成長しているのか。アメリカの強みと弱み。新しい資本主義は、実はすでに世界に先駆けて日本が実践しているという件。
アマゾンの不思議
きのう日本の物流の批判をしたのですが、実はアメリカも同じなんですね。
その象徴がアマゾンです。
BusinessWeek2023年7月31日号はAmazon's warehouse go on trial (アマゾンの倉庫が裁判にかけられる)で、いかにアマゾンの職場環境が劣悪かを非難しています。
2021年11月にワシントン州が同社の現地フルフィルメント・センター(巨大物流倉庫)に査察に入り、以下の問題点を指摘しました。
アマゾン側の弁護士は、「サンプル数が極端に少なすぎる」と反論しますが、ワシントン州の労働局(Washington's Board of Industrial Insurance Appeals)は、「他社に比較して、異例ともいえる数値目標を押し付けて労働者を追い込んでいる」と同社を一刀両断しています。
なぜ、アマゾンに社会的非難が集まらないのか
アメリカはセクハラだとか、女性や人種差別だとかの問題では、企業を容赦なく叩くのに、従業員に対する非人間的な扱いには、寛容に思えてならないのです。
それは労働というものの価格が決まっていて、それぞれの人間は自分の市場価値とイコールのところで働いているんだから、仕方ない、というある種の実力主義が浸透しているせいかもしれません。
嫌ならやめろ、やめる自由はあるという企業の開き直り、そう考えることもできます。
日本のように、どうやって社員を定着させるか、という発想がないからかもしれません。
ホワイトカラーには弱く、ブルーカラーには強い、労働文化のせいかもしれません。
つまり、学歴強者の立場は強く、高卒社員は使い捨てのコマであり、常にレイオフ(一時解雇)におびえているという現実です。
ビジネススクールの現実
30数年前、僕はウイスコンシン州のビジネススクール(MBAを取得するための大学院)で学びましたが、そこで感じたのが、MBAを取得して転職しようとする社会人たちの必死さです。
アメリカは日本よりも学歴社会で、MBAを取れば条件のいいところに行くことが約束されているので、皆午後5時に仕事が終われば、一目散にビジネススクールに駆けつけ、懸命に勉強するのです。
ブルーカラーもホワイトカラーも、職業に貴賎などあるわけもないですが、現実に給与、手当、その他諸条件はれっきとした差があります。
労働条件をよくするためには、労組運動をして企業を変えようとするよりも、自分の学歴をアップさせるほうが現実的です。
このような、アメリカの労働文化が、アマゾンの倉庫業務が改善されない、根本的な理由だと考えます。
労働者の安全と官民の温度差
アメリカ企業は、所詮ダメですよ、資本主義の権化で結局カネしか考えてない。
それを煽っているのは、投資家と言われる、これもカネしか考えてない連中です。
投資家がアマゾンが非人間的なオペレーションを改めないから、投資やめる、っていやあいいのに、彼ら彼女らは「アマゾンは効率に熱心だから」という理由だけで、投資を増やすのです。
救われるのは、州政府と連邦政府の人間的な対応です。
今回ワシントン州政府は、アマゾンの同州フルフィルメントセンターでの全容を把握するため、電子モニターやビデオカメラをフル稼働させて、労働者の一挙手一投足を調べています。
連邦政府もアマゾンの労働現場の安全性に、高い関心を寄せており、労働安全を守る政府機関のOSHA(Occupational Safety and Health Administration 職業の安全と健康に関する機関)に命じて、特に問題とされるアイダホ、コロラド、ニューヨークの各州のフルフィルメントセンターには、警告の文書を送っています。
こういうところが、アメリカの強みだと思いますね。
日本企業の強み再考
アマゾンの例を考えると、自然に日本企業のよさをいいたくなります。
従業員を家族とみなし、大事にする、離職させないように色々整える、効率や利益だけで動かない。
政府は欧米並みに流動性を高めろ、つまり転職や離職を増やせというのですが、それをやれば歪な貧富の差を生むアメリカ社会になるだけ、だと思いますがね。
ある種、日本って、それこそ岸田さんが言う前に「新しい資本主義」を実践しているんじゃないでしょうか。
つまり、利益ドリブンでない企業がそこにある、ということです。
今日アマゾンを取り上げたのですが、さっき、TVで50年前の「仮面ライダー・アマゾン」をやっていて、思わず見入ってました。
シンクロニシティ、かな?
アメリカのアマゾンも、正義の味方であってほしい。そう願った次第です(笑)
野呂 一郎
清和大学教授