なぜ、「知的生産」では勝てないのか?
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:昨日批判した「知的生産」についての続き。知識詰め込み型はビジネスパーソンの研修にも巣食っている悪魔だ。今日は欧米企業研修の最前線の理論から、なぜ、知識偏重の企業教育を論破する。(笑)
世界の企業研修はケース・スタディ一択
ケース・スタディとは何でしょうか。
それは、参加者が3-5名のチームを作り、あるテーマで議論をし、まとめ、問題解決策を発表するという、完全ディスカッション型の教育のことです。
ハーバードビジネススクールで始まったとされるこのビジネス教育は、欧米の企業研修の主流となっています。
僕はこのケース・スタディを教師としてどう管理、運営するかを学ぶために、10年ほど前にスロベニアで行われた、2週間のプログラム(IMTA:International Management Teachers' Academy)を2回受講しています。
何度かこのnoteでも、恥を忍んで載せたのですが、下は学びの様子のスナップです。
昨日のnoteで「知的生産」を批判しました。
それは具体的に何に対しての異論かというと、中高大の教育と同じく、大人の皆さんの「知的生産の方法」も知識偏重である、という事実です。
世間で言われている知的生産とはいかに早く、効率的に知識を集め、それをどう効果的に整理しアウトプットするか、そのノウハウのことです。
でも、そこに決定的に欠けているのが「議論」なのです。
議論とは他者の考えに耳を傾け、質問を投げかけ、意見を戦わせ、妥協点を見つけ、それをまとめ、発表するという一連の知的な行為のことです。
このケース・スタディでもう一つ大事なことがあります。
それは「準備をする」ということです。
例えば、ライバルA社の戦略のウィークポイント、というテーマで、ケース・スタディを行ったとしましょう。
メンバー全員が、前もってリーダーから与えられたリサーチを行うことが義務付けられます。
この準備が十分にできているかどうかが、ケース・スタディの成否を左右することは、当然と言えましょう。
でもね、日本のビジネスマン・ウーマン(ビジネスパーソンって言葉は嫌い)の皆さんは、この経験がほとんどないんですよね。
ケース・スタディが定義する”知識”とは
さて、今日のはなしは、「なぜお前はそんなに日本人が好きな「知識」を非難するのか」、ということに絞りましょう。
結論は、例のIMTAという2週間の合宿で、教えられた以下の図を御覧ください。
この図によると、知的な価値は「インパクト✕習得の難しさ」と定義されています。
順位をつけると
1.態度(attitude)
2.スキル(skill)
3.知識(knowledge)
となります。
態度(attitude)という項目がわかりにくいと思いますが、これは問題解決の作法、と理解して下さい。
具体的に言えば、「ビジネスにおける問題をケース・スタディの方法で解決するというカタチを身につける」ということです。
知識やスキルよりも、ケース・スタディという型から学べる総合的な「態度」が重要なことは、もう説明するまでもないでしょう。
ケース・スタディは教師次第
こういうと、お前はアメリカの教育に毒され、今度はヨーロッパで洗脳されたのか、「欧米か!」となじられるかもしれません。
もちろん、アメリカのビジネススクールでは、すでにケース・スタディという学びは何度も経験しています。
しかし、今回は自分がどうケース・スタディを取り仕切るのかを学ぶ機会でした。
そこで、あらためて深く、ケース・スタディというメソッドを理解するに至ったのです。
単なる知識はそれだけでは全く役に立たない、それを思い知らされたのですが、その決定的な理由がわかりました。
それは「教師の質」ということです。
前もって課題に関することを図書館で調べる、自分の意見を人に説得できるようにまとめる、他者の話に耳を傾ける、ディスカッションをする、意見をまとめ発表する。
このケース・スタディで使用するオーソドックスだけでも、問題解決能力は相当身につきます。
しかし、それは教師の質次第なのです。
スロベニアでの研修は、まさに「ケース・スタディにおける教師の質向上」がテーマだったのです。
ケース・スタディをやろう!
読者の皆様は「じゃあ、どう教師の質が学びに影響するんだ、見せてみろ!」とおっしゃると思います。
noteではそれをなかなか説明できないので、機会があればオープンセミナーなどでお見せできれば、と思っています。
とにかく、新たな時代に求められる「知的生産の方法」は、ケース・スタディなのです。
これだけははっきり言い切っておきましょう。
ビジネスマン、ビジネスウーマンのの皆さん、もうテレビやセミナーやYouTubeで、専門家とやらのご高説をありがたくノートを取って拝聴するのはやめましょうよ。
本やインターネットで識者の見解とやらを鵜呑みにするのは、もういいですよ。
専門家の知識を覚えたところで、それは受け売りに過ぎないんですってば。
そんなの役に立ちませんよ。
いくらそんな知識を効率的に集めて、自分の中に「知的生産の方法」よろしくうまくしまい込んでも、それには知的な価値はありませんってば。
それより、仲間を集めてケース・スタディのマネごとでもしたらいかがでしょう。
ケース・スタディの特徴は、どんなカタチでも、参加者は莫大な知的刺激を受けるということです。
僕でよければナビゲーターとしてお手伝いしますよ。
野呂 一郎
清和大学教授