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エンピツで強盗を撃退できるか?
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:今日のスポーツマネジメントは、ぶっつけ本番の「強盗vs俺」のリアルバトル。俺の武器はエンピツだけ。武道経験者の私ははたして、エンピツ一つで賊をやっつけることができるのだろうか。一部創作を入れたが、ほぼリアルな描写である。
世界が求める武道の応用
ここ40年くらい海外を放浪して(笑)、つねづね思うことは、外国人は「武道の応用」を知りたがっている、ということです。
空手だの、剣道だの、合気道だのは少しは知っているし、YouTube見ればいくらでも実技も出てきます。
その気になれば英語の教則本とネットに氾濫する動画で、「なんちゃって武道家」くらいにはなれる時代です。
そんなことで、僕も暇さえあれば、また道場で稽古をしている時「どうやったらこの動きをビジネスに、教育に、日本文化の説明に使うことができるだろうか?」を考えているのです。
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今日は、とうとうスポーツマネジメントの授業で、「武道の応用」と銘打って、ある試みをしてみました。
それは「武道の動きの応用で、エンピツ一本で賊を制することができるか?」という実験です。
剣道は武道の集大成
しかし、武道の応用ですから、何か武道をやって見せなければ、学生は応用がわかりません。
そこで剣道の動画を僕が解説し、剣道の理でどうやって鉛筆を操作するかに迫りました。
僕は剣道は全く素人なのですが、あら不思議、剣道の動きを「武道の理」で説明することができたのです。
今まで僕がやってきた空手道、合気道、棒術の理で、剣道をまがりなりにも解説できたのは、武道の本質は変わらないことを示しています。
では、武道の本質とは何でしょうか。
それは、「間合い」と「武器」と「集中」だと思います。
ちょっと説明しましょう。
武道の本質1 間合い。
相手との距離のとり方が「間合い」です。
剣道では、自分が斬られず、自分の刀は相手を斬ることができる距離感が、間合いです。
一刀一足の間合いなどという言葉もあるように、一歩進めたら、相手を射程内に確保できる間合い。
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長足の一足で、3メートルも距離を稼ぐ間合いもあります。
武道の本質2 武器。
空手も合気道も素手の武道だぞ、何が武器なんだ?
そうあなたはおっしゃいますよね。
いや、空手の突きが伸びれば、剣ですし、回し蹴りなどは太刀を斜め横から斬り込んだのと同じです。
合気道の動きは、剣の動きから派生したものですし、合気道は裏拳も鈎突き(フック)もあるので、空手も合気道も武器術と言えないことはないのです。
実戦において重要な心得は、武器を見ただけで使える、使えないを判断できることです。
例えば剣道の竹刀は、掴んで振り回すことができますが、棒は丸太ですから、ぶん回すことができず、2つの武器は手になじませるという点では、棒の方が時間を要し、操作性が劣ります。
練達の武道家なら、初見の武器の本質を、一見してわかるはずです。
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武道の本質3 集中。
武道の本質は一撃必殺です。
そのためには、トドメの一撃に力を集中させなければなりません。
剣でも、棒でも、拳でも、蹴りでも、急所に最大限の爆発力をもってぶち込むことです。
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しかし、ここでもう一つの武道の理が働きます。
それは、集中の反対ともいうべき、「ゆるみ=リラックス」です。
力を集中するのは、最後に相手に斬り込む一瞬だけでいいのです。
それまでは力を抜いてリラックスする、必要があります。
集中とリラックス、これを武道では「緩急(かんきゅう=ゆるみと集中)」と表現します。
武道の修練ですべてを武器化できる
さて、なんとか、オレ流武道の理で学生を煙に巻いて、おもむろに鉛筆を取って、強盗役の学生と対峙しました。
鉛筆が相手ですから、仮に僕が武道の達人でも怖くない、学生の表情からは「鉛筆を剣に見立て、俺をついてくるって腹だろうが、のろみたいなジジイに俺がやられるもんか」の気概が伝わってきます。
学生が気を抜いた、その一瞬でした。
3メートルあった間合いが一瞬で縮まり、エンピツの先は、学生の鼻先でピタッと止まり、彼は尻もちをつきました。
つまりのろは、エンピツを持った瞬間、その武器の長所と短所、使える部分、使えない部分を見抜き、どう使ったら賊に最速で最大のダメージを与えることができるかを察知し、飛び込んだのです。
間合いを詰める足は、空手の軸をぶらさずに距離を稼ぐ足さばきですし、鼻を狙うのは本来目をつく急所攻撃で、目という急所を避けながらも、攻撃は最後爆発させています。
飛び込んだ瞬間も武道の理です。
それは相手の呼吸を読んだのです。
吸う呼吸のときに、相手は弱くなるのです、そこをついたというわけです。
応用とは身の回りのあらゆるものを使えること
幼稚な技量をひけらかしただけなのか。
いや、男は、長年の修練によって、何かを見ただけで、それに触れなくても、その本質がわかり、護身に最も適切に使えるようになっていたのです。
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信じる、信じないはあなた次第です。
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野呂 一郎
清和大学教授