アメリカが武器供与をためらう本当の理由。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:戦争は忌むべきものだが、勝利のポイントは武器調達(ammunition)のマネジメント。プーチンの深謀遠慮とは何か。なぜアメリカは武器供与決定に時間がかかったのか。ビジネスという戦いに勝つための兵站戦略とは。
プーチンは案外戦略家だった?
プーチンはなぜ、昨年の2月のタイミングで戦争を始めたのでしょう?
一つの仮説はこうです。
プーチンはプランAとプランBをもっており、プランAは1か月以内に速攻でウクライナを攻め落とせるというものでした。
プランAはもろくも崩れたのは、ご承知のとおりです。
プランBは、案外長引くというシナリオ。
プランBのポイントは、その際アメリカが武器供与をするに違いないと踏んでいたことです。
プーチンはアメリカの兵器の提供能力に関する情報を集めていて、アメリカの兵器産業はコロナ等で、その製造能力が急落していることを知っていました。
昨年の2月24日に戦争を始めれば、アメリカからの兵器援助が十分でないウクライナを火気のパワーで圧倒できると踏んだのです。
この仮説は案外荒唐無稽なものではなく、The Wall Street Journal電子版2023年1月31日号はWhy Ukraine Hasn’t Been a Boon to U.S. Defense Companies(なぜ、アメリカの軍需産業にとってウクライナ戦争が特需ではなかったのか)は、まさにこのポイントをついています。
ウクライナ戦争で米軍需産業が潤わないワケ
ウクライナ戦争で、米軍需産業が請け負った武器の注文は現在までに270億ドル(2兆7千億円)にものぼります。
しかし、米兵器産業はこの受注に応えられてないのです。
理由はコロナによるサプライチェーンの崩壊、労働力不足、ペンタゴン(米国防省)の兵器調達に関する国内事情、です。
昨年2月24日に戦争が始まって以来、収益ベースで世界最大の軍需産業ロッキード・マーチン社(Lockheed Martin)の株価は、20%上がっています。
しかし、同社の看板商品であり、ウクライナからの注文が殺到している対戦車ミサイル、ロケットランチャーの受注がいくら増えても、収益は一向に上がらないどころか、減っているのです。
株式市場は秒単位で変化するけれど、兵器の生産は年単位だからです。そんなにすぐ兵器が調達できるわけではないからです。下手すると10年がかりです。
しかし、ウクライナからの受注は凄まじい勢いで増えています。
短期間にそれだけ激しい戦闘が行われているということですが、「あ、ミサイル100機追加ね、はいよっ」ってなわけにはいかないのです。
そしてペンタゴンの方も、米本土の国防計画がありますから、自国の兵器生産スケジュールを無視して、ウクライナへの兵器輸出だけにかまけるわけにはいきません。
実際にペンタゴンの高官たちは戦争開始してまもなく、キエフに武器供与した時に米軍需産業が現在の在庫に手を付けざるを得なかったことに、大きな懸念を抱いていました。
アメリカがこれまでウクライナに武器供与を渋っているように見えたのは、ロシアを刺激して第3次世界対戦を防ぐ云々とか言うことじゃなく、自国防衛の都合だったのです。
プーチンは、それを読んでいて、戦争のタイミングを考えていました。(知らんけど)
戦略とは変化を把握すること
戦略のポイントって、この件だけじゃないけれども、兵站(へいたん。武器調達)ですよね。
敵を知り己を知れば百戦あやうからず、とは孫子の兵法の基本ですが、敵を知ることでもっとも重要なのは、敵の火力つまり兵器調達能力ですよね。
プーチンは、同盟国アメリカの、ウクライナへの武器供与についての現実を把握していました。
もしそうだとすれば、彼は大変な戦略家といえましょう。
そして、プーチンは世界の情勢を冷静に見ていた(かも)。
サプライチェーンがノーマルでなくなったこと、世界的な労働力不足、ウクライナと米国、そしてNATOとの関係性の変化、等々です。
戦略ポイントの2つ目は、タイミングです。
兵站が弱くなった相手を叩く、ベストのタイミングをプーチンが考えていたとしたら、孫子も真っ青なやり手と言えるかも、です。
日本への教訓
こんなことは考えたくないけれど、現実だから考えましょう。
台湾有事の際、日本はアメリカとの日米協定にしたがって、台湾に武器供与をしなくてはならないかもしれません。
ウクライナ戦でアメリカが苦悩したことと、同じことが起きるかもしれない、ということです。
他国からの侵略を受けた時、火気の準備は十分なのか。これは軍事費の増強云々とはまた別の問題です。
例えばアメリカがボーイングが兵器を作っているように、航空会社にいざという時に兵器産業に業態変化させる準備があるのか、他国との武器供与にかんする協定を新しくする必要はないのか、なども考えざるをえない、ということです。
高名な戦争歴史家のフィリップス・オブライエンさん(Phillips O'Brien)さんは「現代戦は、兵器を最新にする戦争である」と言っています。
その伝でいくと、核を別にすればウクライナvsロシアも、最終兵器の完成が早かったほうがそれを使って逆転勝利、というシナリオになるのかもしれません。
日本も秘密裏にそれをやっているはずです。
日本のビジネスマンへの教訓
ビジネス戦士などという言葉が、昭和の時代にはよく聞かれました。
ビジネスは戦いだ、は一面の真実なので、その土俵に今回は乗ってみましょう。
あなたも僕も、戦いに武器が必要であり、「武器が使えなくなったら負け」かもしれない、ってことですよね。
武器は専門知識だとか、世渡り術だとか、カネだとか、人間関係だとか、色々あると思います。
でも、最大の武器は「運」じゃないでしょうか。
戦車は壊れて使えなくなっても、運はこわれません。
「運」とは、他者から力をもらうこと、にほかなりません。
またこれについては、詳しく論じたいところですが、僕の拙い経験では
「なるべく他者に親切にすること」だと思います。
でも、案外これって国際政治もそうなんじゃないかなあ。
日本はもっとアジアに、世界に親切にする、つまり貢献することが自国の最大の防衛につながると思うんですけどね。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
じゃあ、また明日お目にかかりましょう。
野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー