あなたのお子様の脳の前頭前皮質を守るため、今日からスマホを2時間別室に隔離せよ。
この記事を読んであなたが得られるかも知れない利益:いわゆるテクノロジー・マルチタスキング(アプリやソフトを同時に立ち上げて、行ったり来たりする行為)は現代人のなりわいだが、それは脳の混乱を招いているだけで、生産性を上げる行為ではない。デジタル・ネイティブなどと子供を持ち上げるな、彼ら彼女らはメディアテクノロジーに被爆する時間が長いだけ、リスクにさらされているのだ。
作家に向かない人とは
先日、某有名作家の講演会に行った話をしましたが、彼は「作家に向かない人」に言及してこんなことを言っていました。
「スマホを手放せない人」
作家はこう続けます。
「電車やバスに乗ってスマホをやっている人は、作家に向いてないと思いますね。作家として芽が出る人は、スマホなんかに見向きもせず、電車やバスに乗っている人たちを観察し、想像するものなんです。このふたりはどういう関係かな、付き合って何年で、職業は何で、お互いま何を考えているのかな」などと考えにふけるものです。
作家の命は想像力であり、何かを観察して脳の中にビジュアルを描くことなのだが、スマホばかり見ているとそれが大いに阻害されるということなんですね。
とりわけ僕が、共感したのは彼のこの一言でした。
「現代人はスマホに脳を乗っ取られているんです」
テクノロジー・マルチタスキングの弊害
要するに、スマホがないと昼も夜も明けない、何はなくとも条件反射的にスマホに手が伸びる我々は、スマホに脳を乗っ取られている証拠だ、というのです。
作家の洞察力は凄いなと思ったのですが、さっき読んだ最新脳科学の知見は、彼の賢察を裏書きしていました。
その記事はThe Wall Street Journal電子版2022年4月30日号で、タイトルはHow to Overcome Multitasking Madness(マルチタスキング狂いをどう克服するか)というものです。
マルチタスキングとは同時に複数の仕事をすることです。
例えば洗濯をしながら、音楽を聞くのはいいですが、問題なのは試験勉強をしながら、音楽を聞いて、SNSの書き込みを見るような習慣がいけないのです。
電子機器のアプリの操作をなにかのついでにやっていることを、テクノロジー(メディア)・マルチタスキングと呼びますが、最新の科学的知見によると、それは生産的な行為ではなく、脳を混乱させているだけだというのです。
ヘルシンキ大学の脳科学者のチームは、多くのことを同時にやろうとすると、脳をコントロールする中枢である前頭前皮質(prefrontal cortex)に障害を起こすことを突き止めました。
米ボストンにあるマサチューセッツ・ゼネラル・ホスピタルの精神科医カール・メルシ氏(Carl Marci)によると、同時に二つのことをやると脳のキャパシティがすぐに限界を迎えるというのです。
メルシさんによれば、特にアプリを複数立ち上げて、メールしながらSNSを見たり、Slack(ビジネス用のラインのようなアプリ)をやるのが一番よくありません。
それは情報を処理し、保持する能力を低下させ、外部からの様々な情報を仕分けする能力をダメにし、注意力を散漫にさせ、仕事のミスを多くするだけだ、というのです。
脳へのダメージが限界に近づいている
メルシさんたちの調査によれば、2002年にアメリカ成人の4割が、電子機器を使っていたが、20年後には、これが80%に急増しています。
ムーンライティング(moonlighting副業)が当たり前になっているアメリカ。
人々はテクノロジー(メディア)マルチタスキングをしないと、仕事をしていないと感じる強迫観念に縛られています。
実際は生産性など上がっていないのですが、仕事をしたつもりになっているわけです。
おまけに脳に知らず知らずにダメージを与えているとも知らずに・・・
心配なのはデジタル・ネイティブの子どもたちです。
生まれたときからスマホ、SNS、インスタ等に囲まれ、アプリ間を行き来する運命にあります。
子どもたちの脳は危機的状況にあります。
処方箋はこれだ
仕事に集中し、なるべく気を散らせないようにするヒントは以下です。
1.仕事や勉強の時間をしっかりとること
この時間帯はスマホを遠ざけ、パソコンのメールは絶対に見ない、メールの到着音なども消すことだ。
2.オフラインの時間帯を作り、知らせよ
上司や仕事の関係者に、この時間はオフラインだから邪魔をするなと伝えよ。
3.スマホを別室に
脳科学の最新知見によると、そのスマホがミュートになっていても、画面にぼかしが入っていても、スマホが目に入るだけで、あなたの思考は乱される。
だから何か集中して仕事しなくてはならないときは、スマホを別室に置いておけ。
4.子供によい習慣を与えよ
1から3までのアドバイスは、もちろん子供にも有効だ。
しかし、子供はハードルを上げても、何かしらの逃げ道を作ってしまう。
だからなるべく小さいうちに、よい習慣をつけさせよ。
例えば宿題の時間を決めて、その時間は絶対にスマホを見せないようにするとかだ。
お子様がスマホをいじりながら、SNSに書き込みをし、インスタを眺めているのを見て「うちの子、デジタル時代の寵児だな」などとゆめゆめ思わないことです。
何とかお子様からスマホを引き離しましょう。
可愛い子供の前頭前皮質を守るために。
その際、あの作家の言葉など使ってみたらどうでしょう。
「スマホをやってると、お前が目指してるファンタジー作家になれないぞ」、と。(笑)
野呂 一郎
清和大学教授
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