リモートワークの時代は終わったのか
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:米金融大手ゴールドマン・サックスが大量解雇に踏み切る。でも、毎年恒例のパフォーマンスのよくない従業員減らしに過ぎない。でも、今年は「在宅勤務にこだわる社員」を狙い撃ちにしている。一方日本は在宅勤務はすでになく、オフィス供給事業は息を吹き返している。通勤、在宅どっちが正しいのか。
ゴールドマン・サックスが在宅にNo!
ゴールドマン・サックスの業績がふるいません。日経新聞は、2023年4〜6月期は純利益の落ち込みが米大手銀行6行で突出して大きくなったことに触れています。
原因は主力の投資銀行と市場取引の不調だとのことです。
M&A仲介、アドバイス業務が特にうまく行ってないようです。
そんな折、The Wall Street Journal電子版2024年8月31日号は、「ゴールドマン・サックスが1300人以上をレイオフ(Goldman Sachs to Lay Off Over 1,300 Workers)」、と報じています。
まあアメリカのことですから、大量レイオフ(一時解雇)など、日常茶飯事ですからどうってことはないのですが、記事をよく読むと、聞き捨てならないことがあったのです。
このレイオフは毎年恒例の生産性の低い従業員を選ぶレビュー(review査定)であり、世界中で働くゴールドマン・サックス従業員4万3500人(昨年11月現在)の3-4%に当たる1300から1800人が対象になるということです。
解雇は全部門に及び、部門によっては今回の査定で大きな影響を受けたところもありますが、ゴールドマン・サックスは毎年こうした査定で2-7%の従業員を減らしています。
査定の項目は「常識の範囲内」(同社スポークスパーソン)とは言うものの、今年は一つはっきりした指針がありました。
それは「在宅勤務は認めない」ということです。
ご多分にもれず、ゴールドマン・サックスもコロナ時から、在宅を全面的に認めていましたが、今回のレイオフはそれを改め、オフィスに来ないスタッフを狙い撃ちにしたのです。
米銀行のなかでも、ゴールドマン・サックスとJC.Morgan Chaseは、ほぼ在宅を認めない金融機関として知られています。
リモートワークの時代は終わったのか
先日朝日新聞で、三菱地所のトップがこんなことを言っていました。
「コロナの教訓は、やはり皆がオフィスに集まって仕事をすることが、いかに重要か、ということが再確認されたことだ」。
当然ですよね、オフィスの賃貸で食っている企業ですから、一面の事実に過ぎなくてもトップはそれを強調するでしょう。
ゴールドマン・サックスも、三菱地所と同じ考えだと思われます。
しかし、日本はともかく、アメリカはまだリモートワーク派が優勢です。
サンフランシスコのオフィス空洞化を以前noteで報告しましたが、この事実は、多くの労働者がコロナをきっかけに、在宅ワークをライフスタイルとして選択したことを示しています。
なぜ、日本にリモートワークが根付かないのか
「在宅じゃなくて、オフィスに来なければ、コミニケーションがとれない」は一見正論ですが、日本のワークシステムのいびつさを表しています。
それは、いつも言うようにジョブ・ディスクリプション(職務記述書job description)がないことです。
つまり従業員一人ひとりの仕事の内容が決まってないのです。
だから、毎日オフィスに行っても、違う仕事をやらされます。
配属部門はありますが、そこで何をやるかはいつも未定で、上司がしょっちゅういろんなことを言ってきます。
日本の職場は、だから上司と顔を合わせないと、仕事が進まないようにできているんです。
アメリカはジョブ・ディスクリプションがありますから、何をやるべきか常にわかり、自分主体で仕事を進めることができるのです。
いや、僕は必ずしもジョブ・ディスクリプションに基づいた労働体系が良いと言っているわけではありません。
仕事内容がファジーだからこそ、専門性にこだわりがないからこそ、伝家の宝刀「ローテーション(異動)」が発生し、これが日本企業独特の強さにつながっている、という指摘もあります。
しかし、ジョブ・ディスクリプション不在の組織は、コロナでもなんでも、常にオフィスに集合しなければならない宿命なのだ、と言わざるをえません。
では、なぜゴールドマン・サックスも、日本企業と同じく「全員集合」の体制をとるのでしょうか。
僕の考えに過ぎませんが、投資銀行業務すなわちM&Aのアドバイス業っていうのは、当然デューデリ(企業の経営・財務状況の調査)を含む様々なサービスをチームで行うわけで、顧客とのデリケートなコミニケーション、提案を多く含みます。
オンラインでは、どうしてもより速く正確なコミニケーションができず、顧客にクオリティの高いアドバイス・サービスが提供できないのです。
まあ、ゴールドマン・サックスの社風、伝統もあるのかもしれませんが、M&Aという最も利益の上がるサービスだからこそ、チームワークの質が求められるはずです。
その答えが「全員集合」なのではないでしょうか。
しかし、ゴールドマン・サックスはホームページなどを見ると、多様性を重んじています。
当然、働き方の多様性も認めているんです。
リモートワークを認めないのは、矛盾してるんじゃないでしょうか。
野呂 一郎
清和大学教授