プロレス&マーケティング第88戦 人材流動化の先駆者としての長州力に学べ。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:マーケティングは結局ヒトだ。きのう武道の巻で論じた「アルムナイ採用」をうまくやれば、自然とマーケティングもうまくいく。この件で先達であるプロレスに話を訊いてみよう。
マーケティングとは人である
マーケティングとはモノを売る仕組みのことですが、その仕組みを動かすのは人、です。
笛吹けど踊らず、不満分子、反面教師、腐ったリンゴなど、困った社員がいる会社は、売れる仕組みがあっても売上は上がらず、儲かりません。
なぜ、彼ら彼女らは、不満ばかりで働くモチベーションが低いのでしょうか。
それは「感謝が足りない」からです。
不満をつのらせ、やめていく社員の共通項があります。
それは「隣の芝生が青く見える」症候群にかかっていることです。
シバタくんは、ライバルA社のほうが給料がいい、休みが多い、楽しく働ける、と考えA社に転職しました。
でも、いざ入ってみたら、社内はギスギスして、パワハラ、セクハラは当たり前、給与も歩合制でそれもゴマをすれば上がる、そんなところでした。
入社一ヶ月で、シバタくんは気づきました、「前の会社はいい会社だったんだな、と。
自由にやらせてくれたし、上司も暖かかったし、給与だって残業が少ないことを考えると、悪くなかったんだ」。
シバタくんは、いわゆるアルムナイ採用で、また元の会社に戻りました。
人間は、今いる境遇に文句を言う動物なのです。
でも、そこから離れてみて、その境遇がどんなに恵まれていたかに気がつくのです。
感謝の念を新たにして帰ってきた「出戻り社員」は、パワーアップしてますよ、必ずあなたの会社に大きな貢献をするでしょう。
プロレスに学ぶ新時代の採用
隣の芝生が青く見える社員を、引き止める必要はありません。
大丈夫、あいつは必ず帰ってきますよ。
ウチでしか使えないやつなんですから、ライバルA社じゃ使えないし、じきにウチの良さを再確認して戻ってくるよ。
ここで大事なのは、出戻りがしやすい環境を創る、ということです。
参考になる業種があります。
何を隠そうプロレス界です。
離反集合がこれだけ激しい業界もなく、常に団体から離脱、かと思えば出戻り、また新団体設立でも古巣にUターン、引退してもすぐにもどってくるし、まるでカオスです。
長州力一人の話で十分でしょう。
新日本プロレスを離脱し、ジャパンプロレスのエースになり、また新日本プロレスに戻り、一度は引退、しかし、大仁田厚の挑戦を受けるという名目で引退撤回、また新日本プロレス離脱、伝説の団体WJ(ダブルジェイ)を設立、同団体がポシャったらまた新日本プロレス復帰・・・
長州力のレスラー人生は、プロレス界の人材流動性の高さ、いや良くも悪くも「やめてもまた戻ってこれる」という体質を物語っています。
もちろん彼ら彼女らの離散集合は、同じ業界だからであり、離脱がプロレス界活性化の燃料だから、ということもありますが、プロレス界の「出戻りのしやすさ」から、我々は学ぶべきではないでしょうか。
そう、出戻りとは、今の言葉で言う「アルムナイ採用」そのものなんです。
ロッシー小川に学ぶアルムナイ採用
まずは、特定の業界だけ潤えばいいという考えを、払拭しましょう。
レスラーたちは「この世界は狭いから」などといい、そもそも団体を辞めることが悪いことだと思ってないフシがあります。
プロレス団体の方も、「しようがねえか」と考えていることは間違いありません。
設立半年もたたない、女子プロレスの台風の目「マリーゴールド」の創設者ロッシー小川は最近の週プロでこんな発言をしています。
「もうオレはレスラーに期待しないよ。期待して裏切られるのはきついからね」。
もちろん、この発言は、エースとして期待していたジュリアが、WWEに電撃移籍したことを受けてのものです。
彼はこれを付け加えることも忘れませんでした。
「戻ってくれば、もちろん受け入れるさ」。
そして当のジュリアも「あたいは日本のプロレス発展のために、アメリカに行くんだ。大きくなって戻ってきて、日本の女子プロを世界一にする」などと、意気軒昂です。
これを見習いましょう。
企業側はできる社員は離脱すると心得ることであり、同時に帰りやすい環境を整え、戻ってくるときはウェルカムの姿勢を持つことです。
転職オファーで決まるレスラーの価値
レスラー側は、じゃあ、「いい条件を提示されたらば、いつでも行く」という態度でいいのでしょうか。
ここが難しいのです。
レスラーとは、”どう自分の価値を上げるか”が勝負なのです。
考えてもみてください、単に強いレスラーが、ファンの支持を勝ち得ているのかどうかを、否、ファンはレスラーの生き様、を見ているのです。
言い換えれば、レスラーの価値観に共鳴するのがプロレスファンなのです。
これを「プロレスラーのブランディング」ととらえてもいいのですが、マーケティングのブランディングはそもそも、理詰めで小賢しく考えるので、ブランディングという言葉は、適切でない気もします。(この問題はまた後日改めて考えてみましょう)
ですから、いい条件を提示された時、どう動くか、ここはレスラーの価値を左右する決断なのです。
もっともほとんどのレスラーは、結局は、カネで動いていますけれどね。
カネでも動かない信念があった、と後年そういう評価をされれば、そのレスラーのオーラは倍増するんだけれどな。
天龍源一郎も、メガネスーパー率いるSWSに行かず、全日本プロレスに残ったら天下を取れたかもしれない、そう思うのは僕だけでしょうか。
北尾光司にはなるな
離散集合は世の習い、そう高をくくっているレスラーたち。
しかし、だからこそ彼ら彼女らが心がけていることがあります。
それは「後足で砂をかけて出ていかない」ということです。
いくら離脱はプロレス界のルーティンではあっても、所属団体に不義理をするのはご法度です。
元横綱の北尾光司は、長州力に暴言を吐いて新日本プロレスを出ていってしまいました。
外人レスラーはドライなので、カネで動くのはビジネスとして当然という構えです。
アブドラ・ザ・ブッチャーが新日本プロレスに引き抜かれた時、ジャイアント馬場は、絶縁状を叩きつけました。
しかし、事の本質はビジネスライクとか契約とかそういうことではなくて、「人間同士の信頼を裏切るな」ということにほかなりません。
さあ、今日の結論です。
社長のあなたはロッシー小川で、プレイヤーのあなたはジュリアでいいんです。
それが、今後の日本経済のドライバー(牽引役)になると信じて疑いません。
野呂 一郎
清和大学教授