なぜ、マクドナルドはチキンナゲットのCMにBTSを使ったのか

インフレ圧力にさらされる米食品企業

ワクチン接種が進み、経済再開が本格化しつつある、アメリカはいま10年に一度の急勾配のインフレに見舞われて、食品、外食関係が悲鳴を上げています。

多くは価格を上げざるを得ない状況なのですが、多くの企業が踏みとどまっています。これはなぜなのでしょうか。

先日アメリカのサービス労働者、ギグワーカーたちへの需要が高まり、人材獲得競争が勃発したことを報じましたが、

一方でインフレによる利益圧迫で、食品関連企業は人材削減、レイオフ(一時帰休)をすすめています。

パンデミックの副反応ともいえる、この相反する2つの経済現象、をどう捉えればいいのでしょうか、日本への影響はどうでしょうか。

The Wall Street Journal2021年7月15日号の記事のメインは、食品関連企業がいかに値上げを避け、インフレ圧力を必死にやりすごしているかで、各社なかなか戦略的です。読者の皆様にも参考になると思いますのでその部分を中心にご紹介しましょう。

値上げ圧力の背景

・インフレ率は昨年6月から今年の6月で消費者物価指数は4.2%上がっている。(米国労働省の推定)

・原材料コスト、物流コスト、労働コスト、パッケージング(包装)のコストが上がっている。

・消費者は概ね仕方ないと理解しており、食品スーパーも値上げ容認

米食品関連企業の値上げを避ける戦略


ディスカウントをへらす:シリアルメーカー、ゼネラルミルズは、値上げを下げ、その分ディスカウントを少なくすることで対応。ヨーグルトメーカーのダノン SA はディスカウントをより高くて利益の出るアイテムにシフトさせている。ドミノ・ピザもヘビーなディスカウントやめた。

プロモーションを減らす:ある食品スーパー。ストア内のディスプレイを減らす。

タイアップで高い商品を売りつける
マクドナルドの最近のチキンマックナゲット・セットは韓国のポップグループ BTS とタイアップして7ドルもしくはそれ以上の価格で売っている。そうです、このマックチキンナゲット・セットは"BTS代"込みなのです。米マックもインフレに襲われなきゃ、この手は出しませんでした。

高価格帯メニュー開発
バーガーキングの新しいチキンサンドイッチ 、CH ' King サンドウィッチは平均3.99ドルから4.99ドルだ(下はちょっと怖い?CM)。ちなみに同社のチーズバーガーは1ドル。

価格は変えないが量を少なくする
あのオレオ・クッキーのメーカーであるモンデレズ( Mondelez International )はパッケージングとサイズを変える一方、価格は据え置いた。しかし、重量1オンスあたりは実質値上げだ。アイスクリームのディリー・コーポラティブ(Dairy Cooperative)は56オンスのアイスクリーム容器を48オンスのそれに変えた。レストランでは、料理の価格据え置きで量を少なくしている。

容器をエコ仕様にチェンジ、コストも下がった
冷凍食品メーカーのフードストーリーブランズ(Food Story Brands)は、従来のプラスティック樹脂のパックをよりエコなものへと変換、コストカットにもつながった

食品アイテム・メニュー数を減らす
パンデミックのさなか、食品メーカーは販売アイテム数を平均7%減らした、もとに戻すつもりはない。

レストランもメニューの簡素化
レストランの運営を行うテックノミック社 はレストランのメニューの簡素化を敢行。キッチン運営がより効率的になり、スタッフのトレーニング費用の節約、廃棄物も減り、レストランのオペレーション人材も減らすことができた。

スーパーの棚を高価格帯商品に置き換える
前述のオレオの会社モンデレザは、スーパーの棚においてあったスナックの25%を減らし、売れ筋のパッケージサイズとフレーバーだけに変更した。これでより儲けが増えた。

その他、自動化など
広告を減らす、業者一新、自動化の推進、原材料の事前購買など、食品メーカーは値上げせずにやれるだけのことをやっている。中でも自動で注文を受けるシステムの導入はポピュラーになりつつある。Applebee‘sではデジタルタブレットを導入し、対面でのオーダー取りの効率が上がった。Yelp Incはタッチパネルでお客が席取りをしてくれるので、案内の手間が省けている。

自動化、AI化はそろそろ限界か

パンデミック明けで、サービス産業中心に、人手不足、これは予想されたことだし、現実です。一方でコロナが明けても企業間競争はますます激化し、自動化、AI化はますます進むでしょう。

そして確かに機械やコンピューターの助けで労働力が省けるようになっていきます。しかし、いまある種の限界が見えているのではないでしょうか。

スシローあたりが限界、つまり、ロボットに席取りをしてもらい、客にタッチパネルで注文してもらうくらいが、自動化、AI化の限界じゃないんでしょうか。飲食という業態はいかに人がへばりついてなきゃならない業界かってこと、コロナで僕らは思い知らされた気がします。

それにしても、アメリカの食品企業の涙ぐましい、値上げせずに利益を確保しようとする頑張りは、学ぶものがありますね。

一つ大きな教訓は、なぜ、パッケージの偽造まがいのことまでして、アメリカの食品関連企業が値上げを避けるかという理由です。

それは、National Restaurant Association の Research and Knowledge グループの Riehl氏のこの言葉に表されています。

「消費者が価格に敏感であることは、歴史がはっきりと示している」。

高価格帯の切り札メニュー開発を

もう一つ感心した言葉があります。それは複数の食品会社のエグゼクティブが「お客に何か新しくて面白いものを提供できれば価格は上げていいんだ」と言ったというくだりです。

これがマックのBTSを起用したナゲットセットだと思いますし、バーガーキングのチ・キングだと思うんです。

コロナで外食の方々が頑張ってらして、テイクアウトでも何でも利幅が少なくてもやらなきゃならないとおっしゃってますよね。でもテイクで儲けましょうよ。

僕は思い切って高価格帯のテイクアウト/デリバリー商品を開発すべきだと思うんですよ。チ・キングのようなデカ盛りでビジュアルで見せて楽しくて、1000円くらいのバーガーやサンドイッチ的なもの。

デニーズなんかも臨時でテイクアウト専門にしていますが、看板メニューがないと思います。楽しくてびっくりさせるビジュアルの高価格帯は売れるし、起死回生になるのではないか。規模の大小問わず、是非トライしてみてはいかがでしょう。

フード関係の皆様に今日の記事が参考になれば嬉しいと思います。

今日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

それではまた明日お目にかかりましょう。

                            野呂 一郎

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