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占いビジネスに見るワン・トゥ・ワン・マーケティング。
この記事を読んであなたが得られるかも知れない利益:スマホ占いビジネスは上手だなあと感心した件。いい意味で「心のすきを突くビジネス」解剖。パーミッション・マーケティングの怖さ。これから伸びる「慰撫サービス」とは何か。
スマホにしたばかりに
ご報告のとおり、夏中国行きの引率業務のため、Wechatを入れるためガラケーからスマホに乗り換えたばかりで、やっと最近ラインがわかってきたという時代に取り残された私です。(笑)
さて、スマホを使うようになって、これまで来なかったようなメールが届くようになりました。
例えば占いのメール。
先日うっかり、「無料占い」のメールの文句につい、生年月日を入れてしまったのです。
その後の画面操作の要求がめんどくさいので、ほっぽっといたのですが、それから「先生」と名乗る鑑定士の方から、毎日数通のメールが届くようになりました。
A先生は、こんなフランクな感じです。
「いま、あなたは大きな転換点にいるわね。女性の影があるわ。あなたに強い思念を送っているわ。なぜそんな事がわかるのかって?それはあなたの生年月日と、私が感じた思念よ。この続きが知りたければ、3000円に負けとくわ」。
B先生は、折り目正しい感じです。
「私は◯◯と申します。失礼ながら、あなたの生年月日とわずかな情報をっちらと拝見して、どうしても申し上げたいことがあり、メールをさせていただいています。それはあなたに60年に一度の幸運期がやってきたことをお知らせしたいのです。知りたければ5000円を」。
C先生は、ダイレクトです。
「今、二人の相性を見ているの。この人を逃しちゃダメよ。二人、って?あなたはそういうでしょうね。見えちゃうのよ、あなたを思っている人が、あなたの肩についているわ。誰だか知りたい?じゃあ、1万円よ」。
もううっかりプライベート情報を入力して、1週間位たつのですが、こんなメールが、毎日来るんです、それもD先生、E先生、F先生からも!
そして時折、事務局を名乗る人から、「秋のキャンペーン中、2割引きで鑑定してさし上げます!」などと、はさんでくるんです。
スマホはワン・トゥ・ワンに入り込みやすい
確かにこんな占いの誘い、パソコンでもありました。
でも、スマホのほうが画面が小さくて、その画面とワン・トゥ・ワン、一対一で、向き合う感じが強いな、と感じました。
パソコンのメールよりも、ぐいっと迫ってくる感があり、「ありゃ、これは占いの誘いに乗りやすいかな」と思ったんです。
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さっき思わず、ワン・トゥ・ワンなどといいましたが、そうなんですよ、この占いのビジネスモデルって、いわゆるワン・トゥ・ワン・マーケティングですよね。
ワン・トゥ・ワン・マーケティングとは今から30年ほど前に、流行ったマーケティング手法で、大衆相手のマーケティングから、それをセグメントにして小集団にして絞り、今度は個に向けて、マーケティングメッセージを届けるという考え方です。
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しかし、現在はネットで、購買・既読情報をもとに、顧客ひとりひとりに、企業がアルゴリズムを使ってマーケティングメッセージを送る仕組みになっています。
ですから、あなたがスマホで目にする広告は、あなただけに向けた、ワン・トゥ・ワン・マーケティングなのです。
マーケティング理論では、ワン・トゥ・ワン・マーケティングこそ、最も効果が高い手法ということになっています。
スマホ占いはパーミッション・マーケティング
いまやAIで何でもできるので、少しの消費者情報があれば、企業は、その人にあったマーケティング・メッセージを作ることができます。
しかし、今、世界は企業が消費者情報を勝手に使うことを、全面的に禁じています。
しかし、こうしたスマホ占いはどうでしょう、まず、無料で占うという餌をまいて、性別、生年月日という占いに必須の情報をゲットします。
これは立派な、パーミッション・マーケティングです。
許可(パーミッションpermission)をもらうことで、すでに相手とラポール(rapport仏語で友愛、親密な関係のこと)ができるのが、ミソです。
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生年月日という、ある意味自分のアイデンティティを受け渡してしまったあなたと、占いサイトは、すでにここで「共犯」の関係に陥ってしまいました。
つまり、あなたは、「私のプライバシーに踏み込んできていい」、という暗黙のシグナルを送ったのです。
それは大げさに言えば、「信頼」とも言えるものです。
巨大な要塞が崩れた
さあ、ここで個人情報を入力前に、占いサイトとあなたの間にあった大きな壁は崩壊しました。
相手つまり占いサイトは、もう、やり放題です。
あなただけ特別と言って有料サービスに誘導したり、見えないはずの未来の結婚相手をみせてみたり、元彼がよりを戻したがってるみたいと、痛いところをついたり、実に言葉巧みに誘ってきます。
あなたは、もう自分の生年月日というアイデンティティを受け渡しちゃったので、もう相手の攻勢に為すすべがありません、やられ放題、です。
もうあなたのお財布から、万札がATMに吸い込まれたり、電子マネーが相手の口座に振り込まれるのは時間の問題です。
でもそれだけでは、きっと終わりません。
心を許してしまった代償は、その弱みは一生、相手が満足するまで続くのです。
いや、占い師さんは、嘘を言ってお金をもらうなんてことはしませんよ、でも、あなたは強制されないのに、そうしちゃう可能性があるってことです。
ある種の「精神的な囚人」にされてしまうのです。
占い師さんたちの名誉のために、そんなことをする人はいません、と言っておきます。
しかし、マーケティング的には、この仕掛け、悪魔が忍び込む可能性は大いにあります。
生年月日という情報をもらったことで、ラポール関係ができ、その弱みにつけこんで、どんどん悩みを作って不安にさせる、できるはずのない彼氏が近未来に現れることを期待させ、その続きを欲しがらせる、スピリチャルな指導の名目で、別料金で救いのノウハウを買わせる。
慰撫するサービスは、伸びる
経営学の教えは、使いようによっては悪魔にもなる、これは私が繰り返し、このnoteで申し上げてきたことでもあります。
もし、占いサービスに悪魔が宿るとすると、相手の弱みにつけこんで精神的に揺さぶりをかけるでしょう。
それは恐怖だったり、期待だったり、称賛だったり。
つまり、詐欺師の手口です。
現代人は孤独で、他人から顧みられない存在です。
みんな、ほめ言葉が欲しいし、能力を認めてもらいたいし、明るい未来が来ることを示してほしいのです。
僕はこうしたことに対応できるサービスが、今後隆盛になるのではないかと、多少危惧の感も持ちながら、思っています。
これをぼくは「慰撫のサービス」と呼んでいます。
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経営学的な結論は、「慰撫のサービス」は天使がやれば救いになるし、悪魔がやれば、滅びになる、ということです。
野呂 一郎
清和大学教授