B31-2021-12 ひみつのしつもん  岸本佐知子

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 この本とは全然関係ないんだけれど、エリック・ホッファーという人は凄いな。今たまたまラジオを聴いていて、この人の事を高橋源一郎が語っていた。人生のほとんどを肉体労働をして食いつないだ。失明そして失明からの回復、ネグレクト、自殺未遂、そして独学で得た哲学の道。
 めちゃくちゃ興味を覚えた。あの中上健次もホッファーを好んで読んでいたらしい。ますます気になる。

 それはともかく、岸本佐知子だ。この自由さである。このセンス。音楽に喩えればロックというよりニューウェーヴだろうか。ガバティなるものをこの本ではじめて知った。このようなスポーツを取り上げて、このようにエッセイという形で料理が出来るのは岸本佐知子だけだろう。ほんとうに感心してしまう。

 これは一冊の本なのだから、もちろん公のものである。
 しかし不思議な事に、岸本佐知子は私のためだけにこれを書いてくれているような錯覚を抱く。彼女の文章を読んでいると、人間はもう少し正直でよい、と思わせられる。
 何もカッコつけることはないのだ。無理して背伸びして疲弊するなんてつまらない。それよりも素の自分のままで、それに笑ったり謙虚にならざるを得なかったりの方が、きっと人生は豊だ。もう少し、自分は生きていてもよろしい、と思わせてくれてるような、そんな一冊に私には思えた。
 具体的にそのような人生訓をうたっているわけじゃないのに。
 それほど自由なのだこの本は。ずっと読んでいたくなる文章。


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