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本4
小さな女の子がパリの伯父さんに預けられて何日かを過ごす冒険譚だから、これは児童書なんだと、昔からずっと思っていた。
しかしこの度、本作品を読み終わって思ったことは「これは決して純粋な児童書ではないな」という事だ。
少なくとも少年少女が天真爛漫に気軽に読める物語ではないだろう。
それでもこの地球上のどこかには、この慌ただしい物語を無邪気に読んでいる十代もいるだずだ。しかし、自分自身に照らし合わせてみれば、たとえば十代だったころ(今から40年前!)を考えると、この作品をどこまで理解出来たかまるで見当がつかない。ほとんど理解出来なかったに違いない。
いま50代の自分でさえ、理解に苦しんでいるのに。
しかし、理解出来ない=つまらなかった、というのとは違う。
結論からいえば、この本はとてもおもしろかった。
舞台はめまぐるしく変わり、ありとあらゆる人物が現れては消えて、話はずんずん進んでゆく。スラップスティックの不条理劇を見ているかのようだった。何の予備知識もなしにいきなりEテレをつけたらワケのわからない舞台劇に出くわした感覚だ。
私は案外この奇妙な感覚が好きだ。
煙に巻かれてるというか、焦点をぼかされてるというか、こちらの理解を超越して、まるで迎合していないその態度にときめくのである。
したがってこの本をむやみやたらに人に薦めるわけにはいかない。
一歩間違えれば相手にとって迷惑になるからだ。
この本の面白さを、だから、なかなか他人と共有することはむずかしい。
少なくとも私にとっては、むずかしい。
でも、それでいいと思える作品のような気がする。
これはサリンジャーの「キャッチャー」と同じように、読んだ者個別の心の中深くに入ってゆく類の作品のような気がする。