田中みな実。“言いたいことしか言わない”主義がもたらす、アンバランスなエキセントリック。
■反“ぶりっこ”キャラ
田中みな実は、
TBSアナウンサー時代に
“ぶりっこ”キャラで頭角を
表したが、
漫画家の江口寿史によって
生み出されたこの“ぶりっこ”という言葉が、
「女性が男性の前で無知で
か弱いふりをして甘える様子」
を指すのであれば、
ほぼ反対のキャラクターだと言える。
「with digital」のインタビュー(2023.2.8)でも、
「私、隠すことがないんですよ」と答えているが、
「あざとくて何が悪いの?」出演当時も
言いたいことははっきりと言う
姿勢を崩さなかった。
「情熱大陸」でも雑誌の取材記事に
細かく朱字を入れ、言わば
嫌われるタイプのタレントの姿を露わにし、
前述のインタビューでも
「インタビューアーの方に的外れな
質問されたりすると、
『ちゃんと(番組を)観てくれてます?』と
聞いて変な空気にしてしまうことも(苦笑)」
と答えている。
つまり、基本的に「自分」を通す
歯に衣着せぬ言い方が彼女の特長なのだ。
■反“恋愛上手”
田中みな実は,、
毎週土曜日の夕方、
TBSラジオで「あったかタイム」という
対談番組をもう12年間も担当しているのだが、
この番組でも自らの性格や私生活を、
恋愛経験を含めて、弱さも強さも
実にオープンに語っている。
つまり、ここでも
「隠すことがない」のである。
しかも、こと「恋愛」においては、
さらに別の側面を自ら曝け出すのだ。
太田光をゲストに迎えた昨年の収録では、
「恋愛になると私、本当にダメなんです、
あざといことができなくなっちゃって」。
*
「“恋愛マイスター”とか思われてるのに、
『恋愛上手になるための方法』読んでる」。
*
「(恋愛中に)『どうしたい?』と言われると、
止まっちゃう」。
*
「自分を彼に投影し過ぎちゃう」。
と、むしろ
恋愛カウンセリングを受けた方がいいのでは?
と思ってしまうような内容を、これも
「そこまで正直に言わなくても」
というレベルで告白している。
■「#田中みな実買い」のカリスマ
田中みな実を、
語るうえでもう一つ欠かす
ことができないのは、
特に女性にとって関心の高い
次の3ジャンルにおける
並外れた情報発信力である。
●今年は、「伊勢丹」新宿店 本館6階
催物場で開催する
「サロン・デュ・ショコラ」を通して、
強烈なチョコレート好き、
妄信的なショコラティエ愛
(イチ推しはジャン=ポール・エヴァン)を、
これでもかと発揮するハッピーさや、
●下着美容研究家の湯浅美和子を師に、
「PEACH JOHN」のブランドミューズも務めて
下着姿を惜しげもなく披露しつつ
女性としてのカラダの美しさを追求する
女としての貪欲さ、
●「私は欲しがり」をキャッチフレーズに、
今度はカネボウ化粧品のスキンケアブランド
「DEW(デュウ)」のミューズともなった
まさに美しい肌を“欲しがる”
スキンケア熱で「#田中みな実買い」という
ハッシュタグまで生みだした
美しい肌への挑戦心。
この「#田中みな実買い」は、
チョコレートと下着においても
同じように起きていることなのだろう。
彼女は自身のカリスマ的な存在感にも
磨きをかけ続けている。
■「私は、言いたいことしか言わない」
田中みな実は、
ここまで語ってきたように
肌の美しさを褒められて
「私、何もしてないんです」と答える
よくある女性タレントの嘘臭さには目もくれず、
かと言って、
自らを特別な存在にみせようとする
斜に構えたレトリックなど眼中にない
鋭利な素っ気なさを怖れない。
つまり、
“ぶりっこ”とは言わないまでも、
当り障りのない女子アナ出身の
美人タレントらしい自己演出など
放棄して、
「私は、言いたいことしか言わない」
的な生き方をベースに据えることで、
人間誰しも内包する多面性を
曝け出すことによる
アンバランスなエキセントリックさを
その整った顔立ちに強引に重ねることで
自らに希少動物のような存在感を与えた。
■エキセントリックのその先にある可能性
私が最近観た田中みな実出演の
テレビドラマに限れば、
そのキャラクター設定には、
彼女の
“アンバランスなエキセントリックさ”
を狙ったキャスティングが並ぶ、
ように見える。
「最愛」では、
元大手新聞の記者の経験を糧に、カメラを銃の如く構える
ノンフィクションライターとして、
笑顔を忘れたかのような表情で冷徹に主人公の周辺を追う一方で
その記憶のそこに暴行事件の被害者としての
傷を抱える「橘しおり」をクールに焼き付け、
「吉祥寺ルーザーズ」では、
元女性ファッション誌の編集長という肩書を
今もそのまま持つかのように装い、
夫と離婚調停であることも伏せながら
自分のスタイルを貫くどころか人にも押し付ける
ふてぶてしさ漂う「大庭桜」としてかきまわし、
「悪女について」では、
ラーメン屋と宝石店で働く貧しい16歳の
少女だったはずが、つきあう男から海千山千の
手練手管で金を巻き上げ、
資産家の地位と田園調布の豪邸を
手入れたかと思えば、自殺とも他殺とも分からない
謎に包まれた転落死という
ミステリアスの極致で最期を迎える
「富小路公子」をそこに出現させ、
「あなたがしてくれなくても」では、
夫の浮気が身体の関係だけではなく
“心の浮気”でもあったことを明かされ、
夫と浮気相手がいるオフィスにまで出向いて
「夫と浮気してますよね」と、
感情を凍らせたような表情で
冷たく至近距離でその女に問いかける
ファッション誌副編集長の「新名楓」で
視聴者を怖がらせた。
これら4作品における
女優・田中みな実の役柄は、
イメージとして薄幸であり、
表情に乏しく、
秘密に閉じ込めた過去と現在を
抱えている。
そこでは、現実の彼女が内包する
“アンバランスなエキセントリックさ”が、
役柄に見えないスパイスを
与えている気がするのだ。
「ばらかもん」では唯一、
故郷にUターンしたシングルマザーの看護師として
犯罪とも不倫とも虚言とも関係のない
という意味で市井の女性、
育江役に臨んだが、
やはり表情は乏しく、世俗的な幸福に遠く、
普通は公言しない離婚の記憶を抱いている。
しかし、
「ゴミを出すのに長時間外に
出ると落ち着く」、
「私、人間関係築くの
得意じゃないので」、
などと吐露する
その愛すべき
エキセントリックな側面を
知れば知るほど、
私はなお女優・田中みな実に
予想のつかない、
さらなる可能性を感じてしまうのだ。
*
前述の「あったかタイム」で
鈴木拓に「すげぇ、ぶっ壊れてる」と
指摘された彼女自身がこう答えている。
「情緒不安定な感じが、
いい感じにお芝居に生きてるっていう
ことですかね?」。