「配達」は顧客との新しいタッチポイント?アムステルダム発日本ワイン屋さんの雑感
財布と地球に優しくない配達
オランダ・アムステルダムで日本産ワインの輸入販売業を始めることにしてから、日々新しいことについて考えるようになった。
ここ数カ月はひたすら「どうすれば日本のワインをオランダに運んで来れるか」という仕入れや輸出について考えることが多かった。
けれど、おかげさまでこの春にワインがオランダに到着するメドが立ってきたので、最近は売り方について考え始めている。
その中で一つ、気になっているのが「配達」のことだ(Photo by The Retro Store on Unsplash)。
オランダにワインを船で輸出するだけですでにコストがかかっているだから、お客さんへの配達のコストは少しでも下げたいところ。
それに、わざわざ海外のワインを運ぶために、すでに少なくないCO2を排出しているわけだから環境への負荷も下げていきたい。
そんなふうにコストや環境負荷の観点からすれば、アムステルダム内の配達だけでも自分で自転車でやったほうがいいのかなと思う。
とある人気ブランドのインスタ投稿
そんな考え事をしながらいつものようにInstagramでショッピングをしていると、あるブランドの投稿が目に入った。
アムステルダム発の人気のストリートブランドの投稿で、玄関先で商品を受け取る客たちの写真がストーリーズに並んでいた。
コロナ禍で店舗ではなくオンラインで洋服を買う人が増えているんだろう。普段着だけどオシャレな人たちばかりだった。
「このブランドで服を買う人はやっぱりオシャレだな」「自分と歳も近くて、仲良くなりたいと感じられる人もいるんだろうな」
そのブランドへの関わりの度合いが増した気がするし、自分も彼らみたいに「このブランドの服を買ってみたい」と思った。
透けて見えるブランドと客との関係
そこでふと、配達のことを考えている小売業者としての自分に戻ってみると、この写真を投稿するに至るまでの流れが気になった。
おそらく配達をする人が、客に写真を撮ってインスタに上げてもよいか許可を取っているんだろうし、客もそれを許したということ。
それって依頼するのも引き受けるのも結構負荷のかかることだけど、それが成り立つ関係が出来上がっているんだろうと想像した。
また別に、あるワインショップのオンラインでワインを買ったときは、その数時間後にさっそく配達されて驚いたことがあった。
あまりに早すぎて玄関先でポカーンとしていたら、「これ、君のワインだよね?」と配達してくれた人に確認されたくらい。
おそらく彼は、配達員ではなくワインショップの中の人なんだろう。だからこんなに早くへ配達することができたんだと思う。
配達=会話や関係づくりのきっかけ?
そう気づいたときには彼はもう玄関先からいなくなっていたんだけど、少し経って「ちょっと話してみたかったな」と思った。
同じワイン好きで、しかも「僕もワインショップを立ち上げようと準備しているんだよ」と話したら盛り上がったかもしれない。
そういえば昔、近所のワイン屋さんでワインを買ったときは、お店にも立っているオーナーの一人が直接届けてくれて、会話が弾んだ。
そうやって個人的なやりとりが始まってからは、ワインのオススメをしてくれたり、それこそワイン事業の相談にも乗ってもらっている。
そう考えると、今は多くのブランドが配達をアマゾンやUber Eats、DHLみたいな配送業者にアウトソースしているけれど……
今みたいなコロナ禍で、人に直接会うこと自体が減っている中で、「配達」というのは貴重な顧客との接点なのかもしれない。
別に、配達したその場で客の好みを聞き出したり、新しい商品を提案したり、そんな押しつけがましいことはしなくていい。
ただちょっと会話して、「あなたと仲良くなる」。それで充分だし、本来「自分でお店をやる」ってそういう人との関係づくりのためでもある。
配達って、これからはアマゾンやUberにお願いしていたんじゃ「もったいない」、古くて新しいタッチポイントなのかもしれない。
編集者/Livit代表 岡徳之
慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポール、2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。現在アムステルダムで日本産ワインの輸入販売業を立ち上げ中。
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