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エッセイ 母なる名古屋城

 「尾張名古屋は城でもつ」と言うが、私も名古屋と言えば名古屋城を連想する。私は名古屋城に女性的な美しさを感じる。同じく名城として有名な熊本城のような、荒々しさ、力強さは感じない。また、白鷺城として、女性的な美しさを誇る姫路城の優雅さとも違って、名古屋城には、優しい母親のような包容力を感じる。
 そう感じるのは、幼い頃、母親と二人で名古屋へよく来たという記憶が残っているからだろうか。実家が子ども相手の駄菓子屋をやっていたので、おもちゃやら、駄菓子の仕入れのために、明道町の問屋へ母に連れられて、よく来た。子どもの意見も参考したいと思ったからだろうか。兄が心臓病で鶴舞の大学病院に入院していた時も、見舞いのために、よく二人で来た。そのため母のイメージと名古屋城のイメージがだぶるのかもしれない。少なくとも幼い私にとって、当時の母は、きれいで、優しくて、頼もしい存在だった。
 それから50年以上たって、父が死んだあと認知症の進んだ母に、私は冷たかった。暴言を投げつけたこともあった。「母が名古屋城でなくなってしまったから」、というのは言い訳にもならない。後悔しても、もう遅い。
 どんな時代になっても、名古屋城には、すべてを包み込む優しい母親であってもらいたい。亡き母の、若い頃の面影を、名古屋城に見続けたいのである。

       母と見る  添い寝の夢や  名古屋城

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