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続・座標軸 夏目漱石『明暗』編

 最初にお断りしておくが、『明暗』は漱石の遺作であり、未完の長編である。私はそれを完読はしていない。ところどころ拾い読みをしただけである。しかし、上の座標面の内容はそんなに間違ってはいないと思う。完読していなくても図は書ける。むしろ読みながら書き込んでいくための図なのである。この図は、あくまでも私の個人的な読書のために作ったものであるが、私が以前からしつこく座標軸の記事を書き続ける理由のひとつとして、私の記事を読んでくださる方の勉強のお役に立つのではないかという思いから、この図を披露するものである。

 上の図は夏目漱石の『明暗』を座標面に落とし込んだものである。エクセルで作ったもので、縦の太線がA、O、Bの境界線を、下の太線が合法線を表している。枠の中の文字はテキストボックスに打ち込んだものなので、増減も位置の移動も自由自在である。(この図は画像なのでできません)『明暗』に出てくる登場人物が主にピックアップしてある。それ以外にも、舞台となる地名、歴史的な出来事などを入れてみた。それらの項目を、A、O、Bの性格(左右の位置関係)、階層(上下の位置関係)を考えながら配置してある。主人公は、A領域真ん中辺の「津田由雄」とその下の「津田の妻 延子」である。
 小説『明暗』は、それぞれの登場人物の対話の積み重ねで話が展開していく。最初は津田由雄と医師小林の、津田の痔についての問答から始まり、続いて津田由雄と延子の、痔の手術の費用を巡る話へと続いていく。「津田由雄VS吉川夫人」「津田由雄VS小林(医師でない方)」「延子VS秀子」「延子VS小林」・・・といった感じである。会話がメインなだけに、登場人物の性格を意識しながら読んだ方が面白いし、理解が深まると思う。さらに押さえておくべきポイントを下記に挙げてみる。

・津田由雄と延子の夫婦のあり方がメインではあるが、この小説を、夫婦小説とか恋愛小説という視点だけで読むと、小説の真意を読みそこなう怖れがある。由雄と延子を同じA型としたが、延子はややO型寄りとした。この微妙なずれが、夫婦のすれ違いの元となる。
・「小林」という同姓の人間が二人でてくる。医師の小林と社会主義者の小林である。そこに意味がありそうなのだが、説明されない。
・津田が痔で入院する病院に、津田由雄の妹の夫である堀と、津田由雄の元の恋人清子の夫である関という男2人が性病で(そこはぼかしてある)通院している。この「2」という数字も意味ありげであるが、説明はされない。当然妻である秀子と清子に感染し、問題を引き起こすことが予想されるが、そこもほとんど触れられていない。
(「2」にまつわる関係は他にもたくさん出てくる。それは座標面を見てさがしていただきたい。)
・時代背景として
 1,書かれたのが1916年ということで、第一次世界大戦(1914~1919)           の真っただ中だということ。
 2,1910年に社会主義者による大逆事件と朝鮮併合が起きていること。
 3,女性運動として平塚雷鳥による青鞜社運動(1911~1915)があった。

 私は津田由雄は当時の中産階級の代表として描かれており、その中産階級の男たちが、台頭してきた新しき女性(その代表としての津田延子)と社会主義者(その代表としての小林(医師ではない))と、さらには上流階級である資本家(その代表としての岡本と吉川)と、どう向き合っていくべきかを追求した小説だと考えている。
 意味ありげな「2」という数字は二律背反の象徴ではないかと考える。「新」に対して「旧」、「男」に対して」「女」、「上流階級」に対して「下級階級」、「資本主義」に対して「社会主義」、「都会」に対して「田舎」、「上辺」と「本音」、そして「明」と「暗」。
 この図は一度書いたら終わりとか、一度読んだら終わりというものではなく、何度も何度も見て、考え、修正し、自分がどれだけ納得してその図の世界に没入できるかが、重要なポイントとなる。そして何よりも、自分自身で作ることが肝要である。『明暗』はそのほんの一例として挙げたにすぎない。



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