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童話 金魚の金太郎
金魚を飼うことが好きでした。金魚に名前をつけていました。名前を呼ぶとえさがもらえると思って水面から口を出してパクパクやるんです。なんて犬みたいなことはしません。五匹も飼っていたので、区別するために名前をつけていたのです。
「金太郎」「金四郎」「金八」「金語楼」「金庫」。
「金庫」は「金子(きんこ)」の意味で女の子のつもりでした。金魚の性別はわかりませんでしたが。
品種は五匹とも琉金でした。胴は短くて三角形、丸いお腹が下に突き出ています。そのずんぐりした胴より長く、泳ぐたびに水にゆらめく美しい尾びれが琉金の特徴です。
しかし五匹の中で金太郎だけ口に異常がありました。おちょぼ口で、大きく開かないのです。ほかの四匹が大きな口をあけてエサを吸い込むように食べるのに、金太郎だけは少しずつしか食べられません。エサ取り競争に負けてしまうのです。
そのことに気づいたのは、飼いだして何か月もたってからでした。金太郎だけ成長が遅いのです。ほかの四匹に比べて明らかに体が小さいのです。おかしいなあと思って食べるのを観察していると、口の開きが小さくて、エサを一度にたくさん口に入れられないし、口に入れたエサを飲み込むのも遅いということに気づきました。これではエサをほかの四匹に取られてしまう。なんとかしてやれないかと、金太郎のエサだけ離れた場所にまいて金太郎優先に食べさせようとしましたが、金太郎の食べるのが遅いので、すぐにほかの四匹に食べられてしまいました。
ほかの四匹がまるまると大きなおなかをしているのに、金太郎のおなかはぺったんこでした。
いろいろ考えた結果、小さい水槽をもうひとつ買って、金太郎だけ別に入れることにしました。これならほかの四匹にエサを取られることはありません。しかし金太郎のおなかが大きくなることはありませんでした。そもそも成長に必要な量だけ食べることができないようです。
もう一匹金魚を買うことにしました。金魚屋の水槽の前で座り込んで、じっと金魚たちを見つめました。
「あっ。おじさん、これこれ、この金魚ちょうだい。」
私は選びに選んで一匹の金魚を買い求めました。そしてそれに「くま」と名前をつけて、金太郎の水槽に入れました。二匹はすぐに仲良くなりました。エサを入れてやると、二匹は仲良く、ゆっくりと食べました。「くま」も金太郎と同じように口が小さかったのです。私はそういう金魚を選んで買ってきたのでした。二匹はお互い励まし合うように元気に大きくなっていきました。