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趣味は暮らし うるわしき内に棲まう 夕食を楽しむ Profitez du souper
趣味は暮らし うるわしき内に棲まう
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夕食への招待
Invitation à dîner
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一枚の写真とともに
ディネへの招待状が届きました
照明器具の写真を送りました
ところでエッセイを書くNoris が
ブラッスリーレマンの味を知らないのはイケマセン
そこで
今月はアフターヌーンティーではなく
ディネにおいでください
日程はいつがいいですか
開店時間 は6時です
Maurice
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18時にMauriceの家を訪ねた
Voulez-vous prendre un apéritif ?
Suze s'il te plait
アペリティフはsuzeをお願いします
スーズはフランス生まれの黄色いハーブリキュール
ピカソやダリが愛飲したリキュールです
主な原材料はリンドウ科の植物であるゲンチアナの根
この植物はノルマンディーやオーヴェルニュ地方の高地に生息しており
大きくなるまでに20年もかかるそうです
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スーズには消化を促進する効果があるといわれていて
フランスでは食前酒としてよく飲まれています
もってこいだね
あてはオリーブとピスタッチオ
そしてチーズあられ
こうするとあられもパリのお菓子みたい
氷を一つ入れて
クイッとね
それにしてもなんて美しいグラスなんでしょう
「グラスはブリュッセルの蚤の市で買ったんだよ
おじいさんが使わずにしまっていたものを破格ねでね」
向こうではいたるところで市民マーケットが行われていて
ときどきとんでもないお宝を手にできるらしい
「もういっぱいどうだい」
とキャビネットを開けた
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中には美しいお酒がいっぱい入っています
うん?
中は鏡貼りでカラフルな異世界のようでした
ダリの世界みたいだね
これもアペリティフの魔法かい
粋だねえ
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Le souper est prêt
(夕食の準備ができました)
と食堂から声が掛かりました
「さあ、食堂へどうぞ」
Mauriceの家には何度かお邪魔しているのですが
事務所とテラス以外は入ったことがありませんでした
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ダイニングにゆくと本格的にセットされたテーブルがありました
これ日本じゃあないよね
Mauriceはこの家で
奥さんと二十代半ばの息子さんと3人で暮らしています
3人ともフランスやベルギーの料理ができるそうで
20年前は毎年家族で2ヶ月ほどをブリュッセルで暮らしていたので
そのときは向こうの生活様式で暮らしていたそうです
本日のシェフは奥さんです
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Gelée d'oeuf aspic
と言うのでしょうか
卵のゼリー寄せ
が2枚重ねのお皿で出てきました
「ちょっとしたことで豊な夕食になるんだよ」
とモリスの言葉
あらまあ、美しい
真ん中あたりにシュッとナイフを入れると
黄身がとろ~んと白いお皿を華やかな色彩にしてゆきます
色彩で景色が変わってゆくのは
白いお皿のいいところ
フランス料理だねえ
と
Maurice家の夕食の始まり
これが一週間のうち5日はこんな感じなんだって
日本じゃないみたいだね
ムール貝のワイン蒸し
ならぬ
小さな帆立貝のワイン蒸し
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日本的な素材ですが味はフランス料理です
この季節の小さな帆立貝はスーパーマーケットで安いんだって
「料理は工夫だよ、スーパーで見つけてね
やってみたら美味しかったんだ」
帆立貝から出たスープをバケットにつけてたくさん食べてしまった
これ美味しいなぁー
メイン料理は
香草を豚肩ロースで巻いてオーブンで焼いたものと
ポテトグラタンでした
どちらも表面が カリッ と焼きあがっていて
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内は トロッ としています
豚肩ロースにナイフを入れると、内から香草の香りが広がります
ちょっと衰えた食欲がふたたび蘇ってくるのでした
いやしいね
蘇った食欲でいっきにグラタンまで食べてしまいました
ふうっ
デーザートはティラミスでした
コーヒを飲みながら時計を見たら11時を回ろうとしていました
楽しいディナーは時間を忘れてしまいますね
決して高い食材ではなく旬のものを工夫して
長い年月で集めたお皿を二枚重ねにして出したり
紅茶やコーヒーには必ずソーサーをつけたりと
ちょっとした心遣いが楽しく豊なディナーになりました
時間を忘れるほどのね
お腹もいっぱい、満足して
寒い夜道を歩いて帰るのでした