趣味は暮らし うるわしき内に棲まう apéritif -アペリティフ-
-5-
apéritif
アペリティフ
アペリティフは食事を始める時先ずビールという
日本人には全く馴染まない習慣ですが
ヨーロッパではレストランに限らず友人を食事に招いた時は
必ずアペリティフを飲むというより、アペリティフの時間を持ちます
オリーブ、ナッツ類などをつまみながら
しばし友と語らう食事前のウォーミングアップとでもいいましょうか
私はこの時間がとても好きで、我が家では自分一人でもいつも
アペリティフの時間を楽しみます
Maurice
その昔、ドイツワインが好きなガールフレンドがいました
あまりにドイツワインが好きになり
ドイツに行ってしまいました
何年かして会った時はドイツワインのライターになっていました
ドイツの地方にある葡萄産地に行くと小さな村全体がワイナリーになっていて
小さなワイナリーがそこかしこにあるそうです
新酒ができた頃に村のお祭りがあって
グラスを片手に小さなワイナリーを巡るのだそうです
50メートルも歩けば次のワイナリーがあり
そこのワインを楽しみます
ワインだけではなく、ハムやソーセージも作っていて
食べ放題、飲み放題なんだって
50メートルしか離れていないのに
葡萄の種類も同じなのに
「まるで別物のワインなんだよ」
それが面白いのとガールフレンドは笑って話した
「えっ、どうして」
小さなワイナリーはその家の納屋みたいなところでワインを造ってるの
それもお爺ちゃんやひいお爺ちゃんの時代からずーっとね
そこに住み着いたワイン菌をずーっと守ってるんだって
だからその納屋には直系家族しか入れないらしい
いい菌に巡り合えると幸せになれるんだって
30年も前のワインのお話
まだバブルの残り香が強く漂っていて
周りには能天気でステキな人たちがたくさんいました
普通の見方をしたらいわゆる変人
そんな人たちが夜な夜なとあるBarに集まっていました
アーティストや芸術家、陶芸家やデザイナーやモデル
歌手やバンドマンやイケイケの経営者や詐欺師と
多彩な表現をする人たちが集っていました
なんともエネルギッシュな時代の瞬間がそこにはありました
「ねえねえ、あなたもコンピューター得意でしょ」
とガールフレンドが聞いてきた
まだ、appleのMacintoshが日本で売り出されたばかりで
誰もがチョコレートだと思っていた頃
「あそこにいる人さあ、軽い知り合いなんだけどね」
と興味深い話をしてくれた
それはこんな話
彼の家にはアメリカのコンピューター会社から
スパコンが貸与されていて、熱がすごいから
大きなエアコンがいつもフル稼働なんだって
そこで彼はワイン菌の行動を追跡しているそうで
それをスパコンでデーター化してロマネコンティと
同じ動きをする菌を作り出していました
ロマネコンティを大量に造って大金持ち
という企画を持ち込んでスパコンと研究費をGETしたらしい
というお話
当時のスパコンなんて○億円、研究費だって大したものでしょう
いわゆる投資です あるいは賭けごと
素晴らしい研究者かステキな詐欺師なのか分かりませんが
そんな話がBarには結構転がってました
アペリティフの魔法でしょうか
では日本のお話も
日本酒の新酒ができると蔵元は玄関の上に
杉の葉を束ねて大きな玉を造って飾ります
杉玉
新酒ができましたという看板と言われていますが
もう一つのお話しです
杉という字は木辺に氵(サンズイ)水です
杉の幹には導管が走っていて、細い管が無数に入っています
根から吸収した水分を高い枝の葉っぱに送るためです
伐採されても無数の導管に水を蓄えていて
決して乾燥しない木、水を蓄えた木という意味です
小さな隙間があって、水分がある、そして有機物
微生物にとっては活性化しやすい環境
さらに抗菌作用があるのが杉の特徴
杉材が昔から使われているのが樽
酒樽、醤油樽、味噌樽
免疫力を高める発酵食品は杉樽で造られます
杉樽の中では善玉菌と酵母が元気に仕事をして
美味しいお酒や醤油や味噌を作り出します
そうして多くの富を運んできてくれるのです
その富に感謝して酒蔵では杉玉を作って
玄関の上に飾るのです
人間の暮らしは大昔から
菌との共存の上に成り立っていましたとさ
菌を嫌うのではなく、共存をもう一度見直すと
ステキな免疫空間で健康に暮らせますよ
noris
フランスやベルギーのレストランではこう聞かれます。
Qu'est ce que vous desirez comme apéritif ?
アペリティフは何になさいますか?