ジョブ型雇用議論、「生産性」というけれど 〔気になる記事(日本経済新聞)〕
先の投稿で
・ジョブ型雇用、職務明確に 成果で評価しやすく
→ https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61259080X00C20A7EA2000/
という記事を紹介しましたが、その続きで
・日本流のジョブ型雇用模索 解雇規制巡る議論浮上も
→ https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61306530Y0A700C2EA2000/という記事が掲載されました。
この記事では、数字を示して、
「ジョブ型の国は生産性が高い」だから「ジョブ型を導入すべき」といったトーンで主張されています。
この点について、2点、コメントしましょう。
まずは、ここで登場している「生産性」について。
この「生産性」という単語はよく目にしますし何となくわかって使っているような気になりますが、私は、結構 “曲者” だと思っています。
生産性の定義は、一般的には
「算出(output)/投入(input)」
です。したがって、何を「output」に設定するか、何を「input」と考えるかによって、いろいろな「生産性」を定義することができます。
国際比較をする際の生産性は、
労働生産性=GDP/就業者数or就業者数×労働時間
すなわち、「就業者1人当たり国内総生産」or「就業1時間当たり国内総生産」を指します。しかし、この定義では「企業(組織)」の労働生産性を数値化できません。企業におけるGDPにあたるものを何にするか決めなくてはならないからです。
企業の場合は、まずは「分子」をどう定義しどう数値化するかが「肝」になるのです。
単純に「売上」とか「利益」とかだとすると、世の中の景気や商品性等々もそれらの変動要素になりますから、分母に相関した(評価可能な)生産性の数値にはなり得ません。 (みなさんの業務を例に、何を「分子」にすれば「自分(自責)の生産性」として相応しいか「ひとつ」挙げよといわれて、これですとイメージできますか?)
これが、1つめのポイントです。
そして2つめのポイントは、いつもの「目的/手段」の観点です。
もし「ジョブ型雇用導入」の目的を「生産性の向上」とするのであれば、今一度、しっかりと、
現状の「当該企業(組織)の生産性」の実績 と
ジョブ型雇用導入後の「当該企業(組織)の生産性」の予測 との比較
を行うべきです。
その検討をしようとすると、その過程において、そもそも
分子である「成果(アウトプット)」をどう考え、どう測るのか
という根本的な議論がなされるはずですが、これは結構大変です。
私の考えでは、企業(組織)における「成果」は、何か「単一項目の単純数値のみ」で規定すべきものではないと思っています。
「(広義の)生産性」を議論するのであれば、何らかの定量的数値ももちろん必要ですが、それ以外の定性的なものを含む複数要素も加えた複合的な視点から判断すべきでしょう。
そのうえで、(手段としての)導入すべき「雇用形態」はどうするか との議論がなされるのです。 記事の中では、「ジョブ型とメンバーシップ型のいいとこ取りの「複線型」では過去の二の舞いになる可能性が高い。」とコメントされていますが、私は、組織や業務に応じて「ジョブ型」と「メンバーシップ型」を選択的に、あるいは組み合わせて適用する(ハイブリッド型)というのが実態にマッチしていると考えています。
・単独で実施し、個人の成果を明確に把握できる業務と
・チームで取り組み、定性的な成果も重視すべき業務と
同じ単一基準で評価する方が無理があると思いますし、
リーダー/マネジャーのように
・個人としての成果と
・チームでの成果と
の明確な切り分けが困難なケースも山ほど出てきます。
目的次第で、把握するべき成果(指標)は異なりますし、
目的次第で、採るべき手段(雇用形態)も異なります。
〔参考記事〕
「在宅勤務は生産性ダウン」と感じる人、日本はトップ 10カ国平均大きく上回る レノボ調査で明らかに
→ https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2007/16/news080.html