他諺の空似 (米原 万里)
米原万理さんの本を手にとるのは、実は初めてです。
私がよく拝見しているBlogの主の方がお気に入りの作家だということと、「他諺の空似」というタイトルに魅かれて読んでみました。
読み始める前に勝手に想像していたような内容ではありませんでしたが、これはこれで非常に刺激的でした。世界のあちらこちらの諺を自在に操った米原さん一流の辛口のフレーズが、次から次へと襲いかかってくる感じです。
諺は、先人の経験が凝縮された貴重な箴言です。
世界各地に同じような諺が残っているということは、それが他所から伝えられたものであっても、まったく関わりなくそれぞれ独自に生まれたものであっても、教訓の元となる人の営みや行動が、「普遍的な要素」をもっているという証左と言えます。
たとえば、「自業自得」「因果応報」などは代表的な例です。
(p150より引用) 自分の行為は結局自分に返って来る、悪いことをすると、何倍にもなって自分に跳ね返ってくると説く諺は世界各地に無尽蔵にある。
ただ、具体的な言い回しやフレーズになると、世界各地、その土地柄が出てきます。このあたりはとても興味深いですね。
米原さんは、持ち前の博識と経験でバラエティに富んだ各地の諺を紹介していきます。
たとえば、「一石二鳥」。
コートジボアールでは、「象は水を飲むとき同時に長い鼻の掃除もする」というのだそうです。
そのほか、私の興味を惹いた「他諺の空似」をいくつかご紹介してみましょう。
やぶ蛇 :
・ハイエナの相撲を羊は見に行かない(セネガル)
寄らば大樹の陰 :
・良い木に近づけば、良い日陰(コスタリカ)
鶏口となるも牛後となるなかれ :
・チョウザメの尻尾でいるぐらいなら、カマスの頭になる方がまし(ロシア)
隣の花は赤い :
・他人のアヒルは七面鳥に見える(トルコ)
甘い言葉には裏がある :
・甘い蜂蜜には蜜蜂(タジキスタン)
一難去ってまた一難 :
・象から逃れて虎に出会い、虎から逃れて鰐に出会う(ラオス)
同じような教訓を伝えていますが、それぞれ、お国柄が出ていてとても面白いですね。
米原万理さんは、2006年5月にお亡くなりになったとのこと。
図らずも本書が遺作になったわけですが、この本で発揮された溢れんばかりのバイタリティからは、ちょっと思い測ることはできません。
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